音楽ナタリー Power Push - 朝倉さや
民謡日本一の山形娘が繰り広げる快進撃
ツチノコって飛ぶらしいんですよ!
──アルバム「快進撃のミュージック」はどんな思いで制作したものですか?
これまでライブをはじめいろんな経験をしてきて、そこで感じたことや見たもの、心踊るようなことがたくさんあったんです。もちろんその逆のこともありましたけど。そういう自分が感じたことを曲にして、それが誰かの日常の中で刺激を与えたり、少しでも楽しい思いを起こさせるようなものになったらいいなって。そういう思いが形になったのが今回のアルバムですね。
──「覚めないはじまり」や「ゆらゆらゆらら」などでは、不安や寂しさといったナーバスな感情も描かれていますね。
例えば出勤前や仕事帰りの超満員電車では、みんなが同じような気持ちを抱えてるんじゃないかなと思って。「もう限界だ!」って言葉にしてしまえばそこまでなんですけど、皆さんはナーバスな感情を抱えながらも強く生きている。それを表現できたらいいなと思って書いた曲ですね。
──「街の背中」は、これから東京でがんばろうとしている人にも聴いてもらいたいですね。
はい。私も上京してすぐは戸惑いばっかりだったんですけど、今は少し慣れてきて戸惑いを乗り越えてがんばっていきたいなという気持ちが歌になっています。
──それと、楽曲のテーマ設定が自由でさやさんらしさを感じたのがツチノコを歌った「伝説生物」という曲でした。
前のアルバム(2014年12月発売の「マストアイテム」)ではマンボウのことを歌った曲が入ってるんですけど、私、けっこう生き物が好きなんです。以前ブログに「今ならツチノコにでもなれる」みたいに書いたことがあったんですけど、それがきっかけになって曲ができました(笑)。ただツチノコのことを歌った曲なんですけど。
──なぜツチノコなんですか?
ツチノコってまだ発見されてない未確認生物なので、想像でいかようにもなるし、調べれば調べるほど知らなかったことがいっぱい出てくるんですよ。そこにすごくワクワクするし、まだ知られていないことに興味を持つことへの魅力を感じて。
──「会ったらまず距離をとれ」という歌詞があって「そうなんだ!」と思いました。
ツチノコって飛ぶらしいんですよ! 調べてみるとツチノコを見つけたんだけど、捕獲したり写真を撮る前に飛んで逃げちゃいましたっていう人がすごい多くて。だからこそ見つからないし捕まってなくて、懸賞金がかけられているって話もありますし。追いかけても捕まえられない存在に思いを馳せながら曲を書いてました。
今の思いと故郷の温かさが入ったアルバム
──「だもんでレボリューション」は、静岡をテーマにした曲なんですよね。
去年から静岡のテレビにレギュラー出演させていただいているので、頻繁に静岡に行くようになって。これまで静岡にはあまり行ったことがなかったんですけど、違う県には違う文化や風習や習慣があって、見たことのない景色もたくさんある。そんな中で静岡の魅力を歌にしたのが「だもんでレボリューション」です。「だもんで」というのは静岡の方言で「それで」とか「だから」という意味なんですけど、いろんなところで皆さんが「だもんで」って言うんですよ。静岡出身の人は地元のよさを噛み締めながらこの曲を楽しんでもらいたいし、まだ静岡のことをあまり知らない人は静岡を旅してるような気持ちで聴いてもらえたらうれしいですね。
──いろんな土地のよさを歌にするのも面白いですね。
今話した「だもんでレボリューション」は静岡に特化した歌ですが、これまでのライブで福岡や北海道、新潟、石川などいろんな場所に行かせてもらって。そこで見た街の景色や出会いは、それぞれ私の曲の中に入っていると思います。
──そういうことが今、さやさんが音楽に向き合うバイタリティになっていたりするんですか?
人生は出会いでできてるなって思うんです。出会いを大事にしながら、いい曲を作って歌っていけたらいいなって。それに伝えたいことを伝えても伝えなくても、やりたいことを行動に移しても移さなくても、時間って自分の意志とは関係なく勝手に過ぎていってしまうから、やろうと思ったときにやらなきゃと思っています。
──アルバムの収録曲「大切なハナシ」で「何もしなくても毎日は過ぎてしまう」と歌われていますもんね。音楽がやりたくてなんのあてもなく東京に来た、さやさんの行動力そのものだと思います。
そうかもしれないです(笑)。今回のアルバムには東京で夢を叶えてがんばっていこうという今の思いが入っているし、そこで改めて気付いた故郷の温かさも入っています。故郷に帰るとゆっくりとした時間の流れを感じて、肩に力が入ってしまっていた自分に気付いて「自分は自分でいればいいんだから、1つひとつを丁寧にやっていこう」って思えるんですよね。
──「東京」の曲の中には「あたしだけの道」という歌詞が出てきますが、今後どんな活動をしていきたいですか?
素晴らしい伝統文化である民謡のよさを皆さんに知ってもらいながらシンガーソングライターとしていい曲を作って、まだみんなが見たことのない景色を見せたいし、聴いたことのない音や歌を届けていきたいですね。これからも楽しみにしていてください!
収録曲
- おかえり-manzumamake-
- River Boat Song
- 覚めないはじまり
- ゆらゆらゆらら
- シャルロットの舞踏会
- 春の風
- だもんでレボリューション
- 伝説生物
- 大切なハナシ
- 街の背中
- ブルーチーズ
- 頼りない羊
- 東京-Future Trax-
朝倉さや(アサクラサヤ)
山形県出身のシンガーソングライター。家族の影響を受けて小学生の頃から民謡を習い始め「民謡民舞少年少女全国大会」で、2度にわたって優勝した経験を持つ。18歳で上京し、solayaのプロデュースのもとオリジナル曲の制作を開始した。2013年4月にデビューシングル「東京」をリリース。2014年10月には「タッチ」「女々しくて」「ロビンソン」といった楽曲を山形弁で歌ったカバーアルバム「方言革命」を発表し、大きな話題を呼ぶ。また2015年9月に発表された「River Boat Song-Future Trax-」では、「第57回日本レコード大賞」の企画賞、「第8回CDショップ大賞2016」の東北ブロック賞を獲得した。2016年4月にニューアルバム「快進撃のミュージック」をリリースする。