音楽ナタリー Power Push - 朝倉さや

民謡日本一の山形娘が繰り広げる快進撃

東京さ行ってがんばってたら、何かチャンスがあるんでねべが?

──民謡に打ち込んできたわけですから、民謡歌手になりたいとは思わなかったんですか?

最初は民謡歌手になりたいと思ってたんです。でも「民謡を歌うよ」って言うと民謡が好きな人はライブとかに来てくれるけど、民謡を聴いたことのない人には歌が届かないのかなと思っていて。それと自分で曲を作って歌いたい!っていう気持ちもあったから、シンガーソングライターを目指すことにしたんです。シンガーソングライターになっても民謡のよさを広めたいという気持ちは変わりませんから、民謡は歌い続けています。

──さやさんは18歳でシンガーソングライターになるという目標があって上京したんですよね。オーディションに受かったとか関係者の知り合いがいてとか、何かあてはあったんですか?

いえ、何もなかったです(笑)。ただ歌手になりたい!って。

──その気持ちだけで上京したんですね。

朝倉さや

そうです! なんのあてもなく「東京さ行ってがんばってたら、何かチャンスがあるんでねべが?」と思って来たので。

──もちろん民謡で日本一になった自信はあったわけですよね?

それは大きかったと思います。でも最初は、東京で一人前に生活できないとダメだなと思って会社に就職して働いてたんですよ。働きながら、東京で音楽活動をしようと思っていたんですけど、働くっていうことはすごく大変で。音楽を本気でやるのも大変だし、これは両立できるものじゃないなと感じて1年ぐらいで会社を辞めたんです。それで音楽活動1本に絞ったんですけど、社会人生活があったからこそデビュー曲の「東京」が書けたので、すべての経験が歌につながってると思います。

ギター教室を探すところから

──ちなみに上京した頃にはすでにオリジナル曲を作っていたんですか?

朝倉さや

全然作ったことなかったです!(笑) まずは東京に来て、「シンガーソングライターになるにはどうしたらいいんだべ?」と思い、曲を作るためにギター教室を探すところから始めましたから。

──私が親だったら上京を止めるかもしれないと思いました(笑)。

あははは! 私の親は「東京に行くならがんばれ、チャレンジしろ!」みたいな感じだったので、むしろ背中を押してくれました。

──東京で音楽プロデューサーのsolayaさんと出会ったことが、さやさんにとって大きな転機になったということですが。

そうですね。東京に来て通い始めた音楽教室が、solayaさんがやっている「Solaya Music School」だったんです。3回目くらいの授業で「今、僕がいろいろ教えるよりも、理論とかを抜きにして自分の感じていることをそのまま曲にしたほうがいいものができるはずだから。作ったことがないかもしれないけどまずは曲を作ってみて」という宿題が出て、作ったのが「東京」で。その1年後くらいにデビューシングルとして「東京」をリリースすることができたんです。solayaさんに出会っていなかったら今の自分はないですね。

陰と陽、どっちも曲にする

──「方言革命」(2014年10月発売のカバーアルバム)では、数々の楽曲を山形弁でカバーしていますが、このアイデアも初期の段階からあったんですか。

朝倉さや

上京したばかりの頃ですね。今は少しよくなったんですけど、上京して1年目くらいの頃は本当になまりが取れなくて。ある日、アニメソングの「タッチ」をカバーすることになったとき、solayaさんに「山形弁で歌ってみて」と提案していただきまして(笑)。それでなまりを生かした山形弁カバーを歌うことになったんです。もともと誰もやったことのない面白いことがやりたいっていう気持ちもありましたし、私自身が楽しくて、聴いてくれる人も楽しかったらいいなと思って。その中に方言の温かさだったり、何か発見をしてもらえたらいいなと思ってます。

──とはいえ楽しい曲ばかりでなく、今回のアルバムにはさやさん自身が慣れない東京生活で打ちのめされた部分が素直に描かれている曲も入っています。

そうですね。私もそうだけど、みんな心の中に陰と陽の部分って持っていて。どっちも曲にすることで誰かの力になりたいなと。

──なるほど。民謡のよさも伝えたいし、みんなの気持ちも明るくしたいし。

そう。もうやりたいことがいっぱいなんです! だからライブの構成を考えたりするのも、ちょっと難しいけど楽しんでやってます。

ニューアルバム「快進撃のミュージック」 / 2016年4月27日発売 / 3000円 / Solaya Label / SLSC-0009
「快進撃のミュージック」
収録曲
  1. おかえり-manzumamake-
  2. River Boat Song
  3. 覚めないはじまり
  4. ゆらゆらゆらら
  5. シャルロットの舞踏会
  6. 春の風
  7. だもんでレボリューション
  8. 伝説生物
  9. 大切なハナシ
  10. 街の背中
  11. ブルーチーズ
  12. 頼りない羊
  13. 東京-Future Trax-
朝倉さや(アサクラサヤ)
朝倉さや

山形県出身のシンガーソングライター。家族の影響を受けて小学生の頃から民謡を習い始め「民謡民舞少年少女全国大会」で、2度にわたって優勝した経験を持つ。18歳で上京し、solayaのプロデュースのもとオリジナル曲の制作を開始した。2013年4月にデビューシングル「東京」をリリース。2014年10月には「タッチ」「女々しくて」「ロビンソン」といった楽曲を山形弁で歌ったカバーアルバム「方言革命」を発表し、大きな話題を呼ぶ。また2015年9月に発表された「River Boat Song-Future Trax-」では、「第57回日本レコード大賞」の企画賞、「第8回CDショップ大賞2016」の東北ブロック賞を獲得した。2016年4月にニューアルバム「快進撃のミュージック」をリリースする。