麻倉ももが3月2日に10thシングル「彩色硝子(ステンドグラス)」をリリースする。
これまで数々の恋愛ソングを楽曲の主人公になりきって歌ってきた麻倉だが、ソロデビュー5周年を迎えてから最初の作品となる今作の表題曲では、自分自身の思いを伸びやかに歌い上げている。シングルのテーマは“幸せ”。ミディアムバラードの表題曲ではあふれんばかりの温かな幸せが歌われている。なぜ今、麻倉は幸せに満ちた曲を歌おうと思ったのか? 話を聞く中で、デビュー5年を経た麻倉の音楽制作に対する携わり方や思いの変化が見えてきた。
取材・文 / 須藤輝
昔の自分に「もっと言っていいんだよ」と声をかけてあげたい
──これは個人的な好みでもあるのですが、前作にあたる「ピンキーフック」(2021年8月発売の9thシングル)、とてもいいシングルでしたね。
ええー! ありがとうございます。
──表題曲は麻倉さんの好きなロングトーンを生かすのではなく、言葉を細かく切ってリズムにハメていくという点で挑戦的な曲でしたが(参照:麻倉もも「ピンキーフック」インタビュー)、反響も大きかったのでは?
そうですね。「ピンキーフック」はファンのみんなの「好き」という反応も私の耳にたくさん届いていて、それもすごくうれしかったんですけど、業界内の方や身内のスタッフさんも「すごくよかった」と言ってくださって。特に、いつもお世話になっているスタッフさんとはなかなかそういう話はしないので、「えっ? また言われた!」みたいな。
──その「ピンキーフック」も含めて、僕は2ndアルバム「Agapanthus」(2020年4月発売)以降の麻倉さんがめちゃくちゃ面白いと思っていまして。「僕だけに見える星」(2020年11月発売の8thシングル)もソロデビュー当初からずっと歌ってきた“恋の歌”ではなく「みんなに寄り添えるような曲」でしたし(参照:麻倉もも「僕だけに見える星」インタビュー)、要は毎回新しいことをやっているんですよね。それは今回のニューシングルにも言えることですが、意識的にそうしているんですか?
たぶん、結果的にそうなっているんじゃないですかね。自分の歌い方とか、自分のやりたいことがある程度確立されてきたので、それをもっとアップデートさせつつ幅を広げていきたいと思ったらこうなったというか。ファンのみんなからも「こういう曲を歌ってほしい」とか「こういう一面も見てみたい」という声をもらったりしていたので、それも取り入れながら。あと「こういうのもできるようになったよ」というのを見せていきたい気持ちもありました。
──幅の広がりはアルバム「Agapanthus」の時点で十分に感じられました。楽曲のバリエーションにしても、麻倉さんが演じる“恋する女性”のバリエーションにしても。
1stアルバムの「Peachy!」(2018年10月発売)までは、どちらかというと受け身でいることのほうが多くて。もちろん楽曲自体は私の「好き」を基準に選んだんですけど、一方で私自身は何を届けたいのか、まだよくわからない部分もあったんです。だから今思えば「Peachy!」は、“周りから見た麻倉もも”というイメージなんですよ。でも、そのあとに出した「365×LOVE」(2019年2月発売の5thシングル)ぐらいから届けたいものもちゃんと見えてきたし、制作の最初からがっつり自分の意見も言えるようになって。その結果、「Agapanthus」は私が好きなもの、やりたいことがより色濃く出たんじゃないかなと。
──じゃんじゃん意見を言ったらいいと思いますよ。実際、「Agapanthus」は本当に充実したアルバムでしたし。
私自身の性格もちょっと変わったというか、以前は自分の思ったことを何も言えなかったんですよ。今も全部言えるわけじゃないんですけど、例えば「こういうことがやりたい」と思ったとしても「いや、今これを言ったら大変なことになるんじゃないか?」とか「そこまで音楽に詳しいわけじゃない私が口を挟んで、間違っていたらどうしよう?」とか、そういう余計な心配をして黙っていることが本当に多くて。でも最近は「とりあえず言ってみようかな」と、もっと楽に構えられるようになりました。
──とりあえず言っていきましょう。麻倉さんの音楽活動なんですから。
ですね。昔の自分に声をかけてあげたいです。「もっと言っていいんだよ」って。
幸せにあふれた曲にしたい
──ここからはニューシングル「彩色硝子(ステンドグラス)」について伺います。まず表題曲はジャズファンクテイストのあるレイドバックした楽曲で、やはり新鮮でした。
新しいシングルを作るにあたって、まず私から「今回は幸せにあふれた曲にしたいです」ということをお伝えしていて。その後の会議で「ミディアムテンポの曲がいいんじゃないか」という話になり、そういうオーダーで曲を集めていただいた中から私が選んだんですけど、本当に幸福感とキラキラ感が音から伝わってきて、素敵だなあと思います。
──なぜ、幸せにあふれた曲にしたかったんですか?
このシングルは、去年の11月にソロデビュー5周年を迎えてから最初の、かつ通算10枚目という節目のシングルになると自分では思っていて。私はずっと誰かの恋の物語を伝えるというスタンスで活動してきたんですけど、このタイミングで、自分の言葉で自分の気持ちを歌ってみたくなったんです。「みんなに支えられてここまで来られました。ありがとう」って。でも、「ありがとう」というのも普通すぎるので、今、私が感じている幸せをみんなに見せることで、みんなにも幸せが波及していったらいいなと思ったんですよ。
──麻倉さんは今、幸せなんですね。
はい(笑)。いろんなことがあったけど、ちょっとずつ「歌うのって楽しいな」と思える瞬間も増えてきて、ここまで来られて幸せです。
──よかったです。「彩色硝子」の作曲は光増ハジメさん、編曲はTomoLowさんですが、光増さんは「アイドルマスター ミリオンライブ!」で麻倉さんが演じる箱崎星梨花の楽曲「Come on a Tea Party!」の作編曲を手がけた方ですね。
そうなんですよ。コンペで曲を決めるときはいつもそうなんですけど、どなたが書かれた曲なのかはわからない状態なんです。それが、ある程度制作が進んだ段階で光増さんの曲だとわかって、不思議なご縁があるなとうれしくなりました。
──作詞は宮嶋淳子さんで、こちらは「さよなら観覧車」(シングル「365×LOVE」カップリング曲)と「スマッシュ・ドロップ」(2019年5月発売の6thシングル表題曲)の作詞をされた方です。宮嶋さんとは何かやり取りをされたんですか?
直接お話はしていないんですけど、「麻倉さんにとっての“幸せ”を聞かせてください」みたいなアンケートにお答えするという形でやり取りがありました。
──その答えって、聞いてもいいですか? 言える範囲で。
いろんな項目があって、例えば「どんなときに幸せを感じますか?」という質問だったら「雨の日におうちの中にいるとき」とか「お風呂でぼーっとしているとき」とか……そういうのを並べてみたときに、私って、些細なことに幸せを感じているんだなという気付きがありましたね。そのちっちゃい幸せが積もって積もって、心の中でギュッて凝縮されているのかもしれないなって。あと「昔と比べて、幸せの価値観が変わったところはありますか?」という質問もあったんですけど、昔の私は友達がたくさんいる華やかな状態に憧れていて、それが幸せだと思っていたんですよ。でも今は、たくさんじゃなくても、自分のことを理解してくれる人が少数でもいてくれたら十分に幸せだなとか、そんなことを答えましたね。
──「雨の日におうちの中にいるとき」が幸せというのは、傘をさして出勤している人たちを窓の外に見ながら「私は一滴も濡れずに部屋でくつろいでいるぞ」みたいな、そういうことですか?
違います違います(笑)。なんか、雨の日に家の中にいると、家が自分を守ってくれているように感じられて、こう、心が温かくなるというか……なりません?
──ごめんなさい。ちょっとピンとこないのですが、今度雨が降ったら気にしてみます。
ぜひ! 小さな幸せを感じてください。
自分次第でどうにでもなってきたんだなと気付きました
──そのアンケート結果が反映された「彩色硝子」の歌詞は、当たり前ですが曇りなくハッピーですね。
はい。宮嶋さんが私の今の気持ちを汲み取ってくださいました。サビの「酸いも甘いもいとおしい」というフレーズも、さっき5周年を迎えるまでに「いろんなことがあったけど」と言いましたけど、それも全部ひっくるめて今につながって「ああ、幸せだなあ」みたいな。
──そこ、いいですよね。振り返ってみて「酸い」部分も肯定できていて。
あと、2番Aメロの「じゃ、今度はあげなきゃ あなたに誰かにってやるうち 微笑みは連鎖する」も、まさに私が今回のシングルでやりたかったことで。私は歌手活動を始めてから、例えば「カラフル」(2017年11月発売の3rdシングル表題曲)という曲では「ラッキーも ハッピーも 全部分かち合いたいんだ」とか、そういうことをずっと歌ってきたんです。だから、5年間で自分の表現の幅は少しずつ広がっていったけれど、根底にあるものは変わっていなくて。ここに伝えたいことがギュッと詰まっていますね、うん。
──漢字表記で「彩色硝子」というのもいいタイトルですね。
最初、仮のタイトルはカタカナで「ステンドグラス」だったんですよ。私としても気に入っていたのでこのまま決定だと思っていたら、確かレコーディングのときに「漢字にしてはどうか?」という話になって。そこから私もいろいろ調べて、スタッフさんもいくつか候補を出してくださった中から、最終的には私が出した「彩色硝子」案が採用されました。歌詞の内容にしてもけっこう偏差値が高そうというか、今まで私が歌ってこなかったタイプなので、漢字はぴったりだなと。
──これは幸せすぎて、目に映るものがなんでもカラフルに見えるということなんですかね。
私の解釈では、最初からカラフルに見えるというよりは、自分の中から幸せな気持ちがふつふつと湧いてきて、ちょっとずつ風景が色付いていくイメージで。その色の付き方も、原色のパキパキした感じではなく、本当にステンドグラスみたいに透明感のある、柔らかい感じですね。
──Dメロの歌詞に「でも でも 気付いたんだ 全部 自分次第!」とありますが、これは麻倉さんが最初のほうで「がっつり自分の意見も言えるようになって」とおっしゃっていたのと重なる気がしました。
ああー。確かに自分次第で、自分がきっかけで変わったことは制作中もいっぱいありましたし、この曲も私が「これを歌う」と決断したから世に放たれるわけですもんね。本質的には、私は自分で決めていくというよりは流れに身を任せていくタイプだと思うので、最初にこの歌詞をいただいたときはハッとしたというか、私が「麻倉! 自分次第だぞ!」と言われているような気がしたんですよ。でも、今そうやって言ってくださって、これまでも自分次第でどうにでもなってきたんだなと気付きました。
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好きなメロディと歌詞を好きなように歌えました