何をやってもありだな
──「あしあと」では、いつものように主人公になりきって歌ったんですか?
そうですね。主人公の女性像を思い浮かべて、完全にその子になりきって。今言ったように歌詞の内容に自分とリンクする部分もあるんですけど、やっぱり自分の物語としてではなく、あくまでその子の物語として歌いました。これはすべての曲に言えることなんですけど、「共感できるなあ」とか「私と似てるなあ」と思うことはあっても、自分に引き寄せて歌うことはあんまりないんですよね。
──以前のインタビューで、「シュークリーム」(「スマッシュ・ドロップ」カップリング曲)で描かれていた男性像はありかなしかをお聞きしたとき、麻倉さんは「なし」と即答しました。
はいはい。
──そのうえで「主人公に共感できるわけではないけれど、『そういう恋もあるよね』と、その世界を歌うこと自体はすごく楽しい」と。だから主人公に共感できる / できないは、なりきりやすさとは関係ないんですかね。
ああー。あんまり頭で考えたことはなかったんですけど、「麻倉は絶対にあの子の気持ちにはなれないが、そういう気持ちになってしまう子がいるということは理解できる」とでも言えばいいんでしょうか……ちょっと話が違うかもしれないんですけど、よく人から「共感能力が高いね」とは言われるんですよ。例えばみんなが「そんなことありえない!」と思ってしまうような考え方とか心の動きでも「いや、あるかもしれない。私は違うけどね」みたいな。
──麻倉さんの共感能力を否定するわけではありませんが、それってシンプルに想像力が豊かなだけでは? 「世の中にはそういう人もいる」という想像が働くから、即「ありえない」と否定することはしないという。
なるほど、そうなのかな。それはそれでうれしいことですね。
──ボーカルの話に戻しまして、「あしあと」における麻倉さんの歌声は、大人っぽさとかわいらしさが同居しているように感じました。
「あしあと」は、曲調としては大人っぽいというかしっとりしていて、特に盛り上がることもなく、歌詞と同じように平凡な日常が淡々と流れていく感じなんですよね。でも、間奏とかではファンシーな音も鳴っているので、私もちょっと迷ったんですけど、歌にもそういう要素があってもいいのかなと。あと、この曲はどちらかと言うと声で聴かせる曲という印象があって、なおかつ自分の中だけで完結している曲でもあるので「何をやってもありだな」みたいな気持ちもあって。そういう意味では自由に歌えましたね。
──ラップパートも難なく歌えました?
私はラップをした経験もあまりないですし、そういう音楽に触れてもこなかったので、ちゃんとラップできているかどうかは正直よくわからないんです。でも、この曲は心の中の独り言みたいな感じだったりするので、ビートに乗せることはあまり気にせずに、セリフをしゃべっているようなイメージで歌いました。
──確かに独り言みたいな歌という表現はしっくりきますね。
だから家に1人きりでいる夜とかに、ゆっくり聴いてほしいですね。
インスタは生存確認用
──最初の話に戻りますが、麻倉さんのパブリックイメージとして“恋の歌を歌う人”というのがあったと思います。そうではない歌を歌うことに対して、抵抗などはなかったんですか?
もちろん「難しいな」とか「どうやって歌おう?」みたいなちょっとした不安はあったんですけど、抵抗というほどのものではなかったですね。状況がそうさせたというか……こういう状況でみんなに届けたいものができたから「じゃあ届けましょう」と、あまり難しいことは考えずに踏み込めました。逆に言えば、もしこういう状況でなければ「次のシングルでも恋の歌を歌いたいです」と言っていたと思うんですけど。
──結果的に選択肢が増えたということでもあると思いますし、今回のシングルはターニングポイント的な1枚になったかもしれないですね。
本当にそうですね。何年かして自分の活動を振り返ったとき「こういうシングルもあったんだ!」と目を引くような1枚になったんじゃないかなって思います。
──「状況がそうさせた」ということに関連して、麻倉さんは10秒動画を毎日投稿する期間限定のInstagramアカウント「もちょ10」やYouTube公式チャンネルも開設されました。
なかなか外にも出られないし、ツアーもイベントも中止になって、みんなと会う機会も全部なくなっちゃったので「何かやりたいなあ」とは思っていて。ただ、大きなことをやるというよりは、もっと気軽に、気持ち的には生存確認ぐらいの感じで(笑)。
──「麻倉ももは生きています」と(笑)。
みんなもたぶん心配してくれていたと思うんですよ。「ツアーがなくなって落ち込んでないかな?」とか「元気かな?」とか。なので「私は元気だよ。毎日楽しく生きてるよ」というのを発信できればいいなって。
──10秒動画を毎日投稿するのって、大変じゃなかったですか?
最初は勢いで始めたんですけど、だんだん「あれ? ネタがないぞ」と(笑)。しかも自粛中で外に出られないから、家の中だけで何か撮らなきゃいけないし。だからけっこう苦しかったんですけど、みんなが楽しんでくれていたことがモチベーションになっていましたね。
──麻倉さんが愛用のボールペンを紹介し出したときは「いよいよネタ切れか」と心配したんですけど、僕もボールペンは麻倉さんと同じサラサの0.5mmを使っているんですよ(取材メモに使用中のボールペンを見せながら)。
おっ! (拍手しながら)やっぱこれですよね。一番使いやすいです(笑)。
「Agapanthus」をようやく完結させられる
──麻倉さんは来年、ソロデビュー5周年を迎えるんですよね。
ねえ。自分でもびっくりしました。何かの資料に「5周年」と書いてあったのを見て「そんなに経つんだあ」みたいな。
──自分では意識していなかった?
全然意識していなかったです。つい最近デビューしたような気がしていたので。でも、5周年という節目の年に、ライブでも楽曲のリリースでもない、何か特別なことができたら面白いですよね。まだ何も決まってはいないんですけど。
──ぼんやりとでもやってみたいことはありますか?
できるかできないかは置いておいて、小さい会場で、本当に5周年をお祝いしたい人だけを集めたイベントをやるとか?
──「本当にお祝いしたい人だけ」といってもかなりの人数になると思いますよ。
「特に面白いことはないけど、来たい人だけ来て」ぐらいの、ゆるっとした身内のパーティみたいな感じでできればと。そこで私は自分の歌を歌うかもしれないし、歌わないかもしれない(笑)。
──歌わないんだ(笑)。
それぐらい私が自由にしていても許してくれる人だけ来てもらうみたいな。本当に今パッと思いついただけなんですけど。
──会場のキャパシティはどれくらいを想定しています?
300人……いや、200人ぐらいのほうがいいかな。
──チケット争奪戦が大変なことになりそうですね。さて、ツアーが中止になってしまったというお話がありましたが、11月14、15日に千葉・幕張イベントホールでの有観客ライブの開催が決定しました(参照:麻倉もも、幕張イベントホールでワンマンライブ2DAYS開催)。
ツアーがなくなったことで完結できていなかった「Agapanthus」を、このライブでようやく完結させられます。なので、ツアーで皆さんにお見せする予定だったものをアップデートしつつ、そこにはなかった要素も加えようと作戦を練っている最中です。この状況下でやっぱり制限がかかってしまうライブではあるんですけど、その中で皆さんが「来てよかったな。楽しかったな」と思えるような工夫も考えているので、無理のない範囲で来てくださるとうれしいですね。
ライブ情報
- LAWSON presents 麻倉もも Live 2020 “Agapanthus”
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- 2020年11月14日(土)千葉県 幕張メッセ 幕張イベントホール
- 2020年11月15日(日)千葉県 幕張メッセ 幕張イベントホール