麻倉もも|思春期の女の子たちに語りかける歌

不意打ちの「ねぇ付き合って」に会場どよめく

──「ユメシンデレラ」の歌声は、例えば過去にHoneyWorksがサウンドプロデュースした「明日は君と。」と「花に赤い糸」(1stシングルカップリング曲)に比べると、非常にマイルドに感じました。

歌声に関しては、最近はより大人っぽい歌い方にも挑戦したりしているので、そうやって積み重ねてきたものを、変化としてお見せしたいとは思っていて。

──その変化も見越して、HoneyWorksが曲を作ってくれた可能性は?

どうなんだろう? 最初のほうで言った通り曲を作る段階ではほぼお任せでしたので、それは気になりますね。でも、特にサビは伸び伸びと歌えて、大人っぽい成分も入れやすいメロディラインになっているから……最近の私の歌を踏まえたうえで作曲してくださったのだとしたら、すごくありがたいですね。

──今おっしゃったように麻倉さんの伸び伸びした歌声も印象的ですし、それを引き出した曲だと思います。

うれしいです。例えば前作の「スマッシュ・ドロップ」(2019年5月発売の6thシングル表題曲)は曲のテンポがとても速かったので、それについて行くのに必死なところもあったんです。でも今回の「ユメシンデレラ」は比較的ゆったりとした曲だったので「ここはこう歌おうかな」といったプランをじっくり練られたし、それを実行できたので、すごく充実したレコーディングでした。

──ところで、僕は麻倉さんの曲の中で「恋のプレリュード」(2018年10月発売の1stアルバム「Peachy!」収録曲)が特に好きなんですよ。

わ、ありがとうございます!

──あの曲もアイドル歌謡感がある。というより意図的にアイドル歌謡感を強く打ち出した曲だと思うのですが、同じくミディアムテンポのナンバーということもあり、「ユメシンデレラ」との対比が面白いなと。

確かに「恋のプレリュード」はちょっと重めで、天気に例えるなら雨が降っているというか、湿り気のある歌ですよね。片や「ユメシンデレラ」は晴天で、すごくさわやかな、風を感じる歌だと思っているんです。そういう違いも楽しんでもらえたらいいですね。

──「ユメシンデレラ」はゆったりした曲ではありますが、ライブ映えもしそうですよね。

実は、このあいだTrySailのツアーのソロコーナーで初めて披露しまして(本インタビューは7月末に実施)。世の中的にはまだワンコーラスしか流れていなかったので、2サビの前の「ねぇ付き合って」というセリフが不意打ちだったようで、会場がどよめいてました。

──そういう反応をステージからご覧になって、どう思うんですか?

うれしかったです。やっぱり私自身「付き合って」と言ってるのに無反応だったらかなりつらいというか、恥ずかしいじゃないですか(笑)。

麻倉もも「ユメシンデレラ」初回限定盤ジャケット

男性リスナーの心をえぐる「“さよなら”聞いて。」

──カップリングの「“さよなら”聞いて。」はピアノをフィーチャーしたカントリーテイストのギターポップで、今までの麻倉さんのディスコグラフィにはなかったタイプの曲ですよね。

そうですね。「“さよなら”聞いて。」は正直、難しかったです。メロディが覚えにくいとか歌いづらいとか、そういうわけではなかったんですけど、1曲を通して同じテンションというか。わかりやすく盛り上がるような、起伏のある曲ではないので。あと、おっしゃる通りカントリー調なので、歌詞に感情を乗せるというよりは、言葉をきれいにリズムにはめていくほうがこの曲のよさが出るだろうと思って、そういう歌い方をしました。でも歌詞自体はけっこう……。

──男性リスナーの心をえぐるタイプの歌詞ですね。

そう……みたいですね(笑)。

──本人は無自覚(笑)。「“さよなら”聞いて。」の歌詞を要約すると、主人公の女の子が元彼に対して「好きな人ができちゃいました」と告白しつつ、今の彼がどんな人間であるかを詳細に報告するというものですよね。

そうです。そこで男性の方は、元彼さんのほうに感情移入してしまうらしく。

──元彼サイドに立てば、別れた彼女が今どんな男と付き合っているかとか、別に聞きたくないですからね。

私にはその発想がまったくなかったので「えっ、そうなんだ!?」ってびっくりしました。私の中でこの曲は、前の彼との恋は「涙ばかりの初恋」だったものの、だからといってつらいことばかりではなかったし、幸せな時間も過ごせていたというストーリーがまずあって。その恋が終わってしまい、時間が止まったようになっていたけれど、ある日、自分のことをわかってくれる人と出会えた。そこでまた一歩踏み出すことができたという、前向きな女の子の気持ちを歌っているんです。

──一歩踏み出せたから、元彼に対しても「悲しくないわあなたの事忘れたの」と言える。

そう。なおかつ、自分のことを幸せにしてくれる相手を「見つけてねあなたも」と。

──元彼からすると「やかましいわ」って話ですけどね。

あはは(笑)。だからやっぱり男性の方が聴くと「元彼がかわいそう」と思ってしまうみたいで。一般的に、女性のほうが切り替えるのが上手だって言いますもんね。

──「男の恋は名前をつけて保存、女の恋は上書き保存」とも言われますし。

ああー。そういう意味ではこの女の子は“ザ・上書き”タイプだろうし、聴いてくださる方によっていろんな捉え方ができる歌なのかもしれないですよね。

「告白実行委員会」ともリンクする歌詞

──「“さよなら”聞いて。」の歌詞は、「さよなら観覧車」(2019年2月発売の5thシングル「365×LOVE」カップリング曲)の後日談のようにも読めるのかなとも思ったんです。

ああー。

──「さよなら観覧車」は、失恋した結果「一歩も進めない。自分1人だけが止まったまま」の女性の気持ちを歌った曲だとおっしゃっていたので(参照:麻倉もも「365×LOVE」インタビュー)。

それは考えていなかったんですけど、確かにつながりますね。私の曲は恋の歌が多いから結びつけやすいのかも。「365×LOVE」を出したときも、告白の歌である「365×LOVE」の主人公と、失恋の歌である「さよなら観覧車」の主人公を同一視する方もいらっしゃったみたいで。でも、私としてはそこは切り分けているというか、歌ごとにそれぞれ別の主人公を演じているような感覚なんです。

──仮にすべての恋の歌の主人公が同一人物だとしたら「どんだけ恋多き女ですか?」と。

そうそう。で、「“さよなら”聞いて。」の歌詞はむしろHoneyWorksさんつながりで考えたというか。私はHoneyWorksさんのプロジェクト「告白実行委員会 ~恋愛シリーズ~」で瀬戸口雛ちゃんという女の子を演じているんです。彼女の初恋の相手は同じ高校の先輩なんですけど、その先輩にはもう好きな人がいて失恋しちゃう。でも、最終的に雛ちゃんは、ずっと彼女に対して片思いしていた幼なじみの男の子と結ばれるんです。このストーリーと、「“さよなら”聞いて。」の「涙ばかりの初恋でした」といった歌詞が重なるように思えて。だから、雛ちゃんのお話がメインになる映画「好きになるその瞬間を。~告白実行委員会~」をご覧になった方だったら、そういった解釈もできるんじゃないかなって。

──そう考えると、僕は「咲かなかった花」というフレーズが一番つらかったのですが、この「花」というのも……。

私の1stシングルのカップリング曲で、「好きになるその瞬間を。~告白実行委員会~」の挿入歌でもある「花に赤い糸」とリンクしているようで。そこもHoneyWorksさんサウンドプロデュースならではの歌だなあと思いますね。

──「“さよなら”聞いて。」のボーカルについては、先の「ユメシンデレラ」とは違って、歌の主人公になりきって歌っている?

はい、そうですね。

──先ほど「起伏のある曲ではない」とおっしゃいましたが、例えばAメロはウイスパー気味に歌ったり、サビの終わりでファルセットを交えたり、歌声でアクセントを付けていらっしゃいますよね。

ありがとうございます。「“さよなら”聞いて。」のレコーディングは「ユメシンデレラ」と正反対で、自分が想定していた歌い方よりも、「もっと大人っぽくしましょう」という方向で進んだんですよ。私としては、この歌の主人公には「告白実行委員会」の雛ちゃんのイメージを重ねていたこともあって、わりと年齢を低めに設定していたんです。でも、失恋と新しい出会いを経験して一皮剥けた、女の子の成長みたいなものも表現したいと思って。

──すごく肩の力の抜けた歌唱だと思ったのですが、その裏ではそれなりの試行錯誤が?

ありましたね。HoneyWorksさんも「ここはこういうニュアンスを入れてほしい」と細かくディレクションしてくださって。なので私も「あ、もっと大人っぽくてもいいんだ」と、かなり多くのテイクを重ねた結果、あのような歌い方になりました。