麻倉ももが7thシングル「ユメシンデレラ」を9月4日にリリースした。
TrySailのメンバーとして活動しながら、今年に入ってから早くも3枚目のシングルをリリースする彼女。本作にはテレビアニメ「荒ぶる季節の乙女どもよ。」のエンディングテーマとなっている表題曲と、カントリーテイストのカップリング曲「“さよなら”聞いて。」が収録される。シングルのサウンドプロデュースは、2016年11月にリリースされた1stシングル「明日は君と。」以来となるHoneyWorksが担当した。音楽ナタリーでは、恋する女の子の気持ちを歌い続け、その表現力をどんどん高めている麻倉に2曲の解釈や本作での挑戦について話を聞いた。
取材・文 / 須藤輝
私には“ザ・思春期”がなかった
──今回のシングルは、1stシングル「明日は君と。」(2016年11月発売)以来のHoneyWorksサウンドプロデュース作品ですね。
はい、約3年ぶりに。HoneyWorksさんの音楽って、すごくキラキラしていて、私が大好きな少女マンガ的な世界観と近いものを感じるんですよ。なので、こうしてまたご一緒できてうれしいです。
──これは麻倉さんが松田聖子さんをお好きだという先入観からかもしれないのですが、表題曲「ユメシンデレラ」からは、例えば松田さんで言えば「Rock'n Rouge」のような、80年代アイドル歌謡的な雰囲気も感じたんです。
ああー。確かにサビの伸びやかなメロディラインとか、当時のアイドルソングを思わせるところがありますね。どうなんでしょう? HoneyWorksさんは、私の好みを意識してそのようにしてくださったのかな?
──その口ぶりですと、曲を作るにあたってHoneyWorksサイドとのやりとりは……。
直接お話ししてイメージしていただいたのではなく、ほぼお任せで作っていただいたんです。だから「ユメシンデレラ」を初めて聴いたときは、シングルの表題曲としてこんなにゆったりしたテンポの曲を歌ったことはなかったので、自分でも新鮮でした。
──麻倉さんのキャラクターにマッチした曲だと思います。と同時に、この曲は麻倉さんが須藤百々子役で出演なさっているアニメ「荒ぶる季節の乙女どもよ。」のエンディングテーマでもある。
ちょっと背伸びしたい年頃の女の子たちに向けた曲ですね。直接的に作品のことを歌っているわけではないんですけど、例えばAメロの「大人は苦いものが好きなの?」とか「もう…答えてよ! いつもあやふやだわ」とか、あの子たちの疑問やちょっとした苛立ちを表しているように思えるフレーズがちりばめられていて。
──「荒ぶる季節の乙女どもよ。」を観ていると、あの文芸部の女の子たちに対して「君たち、いったん落ち着こう」みたいな気持ちになるんですよね。
あはは(笑)。確かに、観ているほうもちょっと胸が苦しくなるというか、ホントに今を一生懸命に生きてる女の子たちを描いた作品なので。
──そういう作品だからこそ、リラックスした「ユメシンデレラ」がエンディングテーマとしてうまく機能していると思います。それこそ歌詞にも「背伸びやめて力抜いて深呼吸して」とあるように、彼女たちの緊張や焦燥感を和らげているようでもあり。
まさにその通りで。私も最初は作品のイメージ的に「もっとシリアスなバラードっぽい曲になるのかな」と勝手に想像してたので、いい意味で裏切られました。あと、アニメの制作サイドの方も「彼女たち全員が毎話かなり荒ぶっている作品だから、ホッとひと息つけるようなエンディングにしたい」とおっしゃっていて。「ああ、なるほど」と思いました。
──「荒ぶる季節の乙女どもよ。」は性に振り回される少女たちを描いた作品ですが、麻倉さんの少女時代もあんな感じでした?
いや、まったく違くて(笑)。そもそも私には“ザ・思春期”みたいな時期がなかったんですよね。性に対しても、例えば曾根崎(り香)部長みたいに潔癖でもないというか、たぶんニュートラルに構えていたんじゃないかなって。だから、作品の中の女の子たちはかなり突き抜けたタイプだと思うんですけど、私としてはファンタジーの世界みたいに捉えていますね。
「神様」の「か」がこだわりポイント
──「ユメシンデレラ」のボーカルに関しては、どのようなプランを立てて歌われました?
私は、いつもはその歌の主人公になりきって歌うことが多いんですけど、「ユメシンデレラ」は第三者目線で歌ったというか。さっきも言ったように作中でみんなが荒ぶっているので、私は一歩引いて。もう高校生ではない私が、つまり現在の麻倉ももが、思春期真っ只中の彼女たちに対して「あっという間の夢を大切にして」と語りかけるような歌にしたかったんです。なので、普段よりフラットな気持ちで歌いましたね。
──一方で、Aメロでは「神様(なあに?)教えて(どうぞ)」といったように、神との対話が行われています。
大げさに言えばそうですね(笑)。
──ここはお芝居している感が強いですよね。
はい。まさにそこは、どこまでお芝居感を出すかすごく迷って。現場ではHoneyWorksさんがディレクションしてくださって、大雑把に言えば「もうちょっとかわいい感じにしたい」とおっしゃっていたんです。でも、あんまりかわいくなりすぎても全体のバランスがおかしくなっちゃうから、いい塩梅のかわいさを見つけるのがけっこう大変で。結果的に、神様に対して「教えて」と問いかけているパートの歌声は、Bメロやサビと比べて幼くなりましたね。
──あの神様、なんにも教えてくれないんですけどね。
確かに(笑)。そうそう、「ユメシンデレラ」はまさに「神様」という言葉から歌が始まるんですけど、その「神様」の1音目の「か」に、HoneyWorksさん的にはこだわりがあって。自分としては「やりすぎじゃないの?」と思うくらい、ちょっとクセのある歌い方をしてるんです。でも、TrySailのラジオでこの曲を初めて流したときに、2人(TrySailのメンバーである雨宮天と夏川椎菜)がその「神様」の歌い方にすごい食いついてたので、聴き手の耳を引くという意味では成功したのかなって。
──そうやって歌詞に合わせて演じ分けられるのも、声優ならではのスキルでしょうね。
そう言ってくださるとうれしいです。演じ分けという意味では、さっき「第三者目線で歌った」と言ったんですけど、Dメロだけは彼女たちの気持ちを代弁するというか、当事者目線で歌ったほうがいいと思って、自分でそういうニュアンスを加えたんですよ。特に最後の「嫌いよ!」は、彼女たちの立場から思い切り感情をぶつけました。
──「ユメシンデレラ」の歌詞では、シンデレラは「ガラスの靴を脱ぎ捨てた」し、白雪姫は「素敵な夢見てる」からと「王子のキス」を拒否しています。
はいはい。
──つまり誰もが知っている童話のストーリーから逸脱している。うがった見方かもしれませんが、それがステレオタイプな少女のイメージからの脱却を図っているようで……。
あはは(笑)。そこまで深くは考えませんでしたけど、私も勝手に「型にハマりたくない」みたいな気持ちの表れなのかなと思ってました。やっぱりあの年代の子たちって、ルールに縛られたり何かの役割を押し付けられちゃうことに対して反発したくなる部分もあるのかなって。
──高校時代の麻倉さんも、型にハマるのがイヤだった?
いや、むしろ私は型にハマりにいく人間だったので(笑)。ルールを破ったこともないし、なんならルールの中で行動するほうが楽だなあって感じていたくらい。だから反抗期みたいなものもなかったんですよね。でも大人になってから、そういう少女時代の私とは違う女の子の気持ちを歌で表現するのは新鮮だし、楽しいです。
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