初めて書いた歌詞の原案
──カップリングの「さよなら観覧車」は麻倉さんとしては初めての失恋ソング。かつ「花に赤い糸」や「恋のプレリュード」、「星空を想えば」(いずれもアルバム「Peachy!」に収録)に通じるミディアムテンポのナンバーです。それにしても、告白の歌のカップリングが失恋の歌という。
そうなんですよ。表題の「365×LOVE」は、結末はわからないにしてもハッピーな歌。そんな恋もあれば、「さよなら観覧車」みたいな思いをされてる方もいますよね。でも私の中では、もともとカップリングは幸せな日常を歌うタイプの恋の歌にするつもりだったんですよ。例えば相手の好きなところを1つずつ挙げていって「ちょっとここは許せないけど、でも好き」みたいな(笑)。そういう“おのろけソング”を作ろうってスタッフさんとも話してたんですけど……。
──正反対の曲になりましたね。
ねえ。カップリングの候補曲をいくつか聴かせていただく機会があって、ぴったりハマりそうな曲もあったんですけど、そのとき一緒に聴いた「さよなら観覧車」のメロディがすごく耳に残ったんですよ。でもこのメロディって、どう考えてもハッピーな歌詞は合わないと思って。だから予定通りにするか、「さよなら観覧車」にするかの二択でかなり悩んだんですよ。
──最終的に「さよなら観覧車」を選んだ決め手はなんだったんですか?
この曲を聴いたときに、頭の中でバーって歌詞のストーリーが思い浮かんだんです。そんなことって今までなかったし、スタッフさんにも「だったらこういう曲に挑戦してもいいんじゃない?」って背中を押していただいて。当初の思惑とは違ったんですけど、「さよなら観覧車」を歌うことになりました。
──その思い浮かんだストーリーが、失恋にまつわることだったんですね。
そうですね。2人の関係性や2人の間に起こった出来事をかなり詳しく想像できて。それを自分で文章にして、というか文章になってなかったかもしれないんですけど、とにかく書いて。そのテキストをスタッフさんが作詞家さんに渡してくださったんです。
──そうやって歌詞の原案となるテキストを書いたのも初めてですか?
初めてです。だからどうやって書いたらいいかわからなかったんですけど、スタッフさんが「好きなように、恥ずかしいことでもなんでも書いていいんだよ」と言ってくださって。なので自分の中ではかなり恥ずかしいと思ったことも「もういいや!」と思ってガーって書きました。
──いい歌詞ですよね。終わってしまった恋をまだ思い出にできていない女性の歌と言いますか。
それです。まさにそういうことを言いたかったんです。今までの私の歌だったら「失恋したことも思い出にして、前に進もう」という感じになりそうなんですけど、今回はもう、一歩も進めない。自分1人だけが止まったままというのを表現したくて。
──「好きになってよかったとか まだ言えない」とか。
そうそう。ただ、私が書いた歌詞のもとになるテキストはもう、ひどいもので(笑)。思うがままに書いて、分量もかなり多かったんですけど、そこから作詞家さんが意図をしっかり汲み取ってくださって。フレーズ単位、ワード単位で「そう、それ!」みたいな、本当に素敵な歌詞にしてくださいました。
──「すべてのことに意味があるなら 今すぐ誰か 教えてくれませんか この涙は どこへつながっているの」とか。
わからないままなんですよね、この主人公の女の子は。それで動けなくなってる。
ここまで失恋を引きずるほど誰かを好きになれるなんて
──「さよなら観覧車」の歌詞もやはりストーリーテラー的な側面があると思いますが、麻倉さんご自身の恋愛観が反映されていたりは?
うーん……実際に自分がその立場になってみないことにはなんとも言えないんですけど、今考える限りでは、まったく違いますね。私だったら「つらいけど、そういう運命だったのかな。しょうがない」みたいな。いや、全然わかんないですけど(笑)。
──ははは(笑)。
きっと心から好きだったらあきらめきれないですよね。でも逆に、ここまで失恋を引きずるほど誰かのことを好きになれるなんて、うらやましいというか、素敵なことだなって。もちろん悲しい気持ちにもなったんですけど、そこに感動しました。
──自分で歌詞の原案を書いておいて。
ねえ(笑)。この女の子にも「そこまで人を好きになれるってすごいことだし、そんな相手に出会えたことを誇ってもいいんじゃない?」と言ってあげたいです。
──そんな歌詞を、どのようなボーカルプランを立てて歌われたんですか?
「さよなら観覧車」は、恋が終わってしまってからある程度時間が経って、でもその間ずっと心にぽっかり穴が空いている女の子の歌なんですね。なので、パートごとに変化をつけるというよりは、最初から最後まで虚無感みたいなものを表現したいなと。例えばBメロの、さっきおっしゃってくださった「好きになってよかったとか まだ言えない」とか、そういうセリフ調の部分はしゃべっているように歌おうと決めた程度で、そこまで細かくプランを組み立てていたわけではなかったですね。ただ1番のAメロはバックで音があまり鳴っていないので、いきなり「この人、何があったの?」みたいなことを感じさせたいと思ってちょっと息多めで、ポツポツと歌いました。
──「虚無感」とお聞きしてなるほどなと思いました。失恋の歌だからといって変にドロドロしているわけでもないし、悲しみを爆発させているわけでもない。
相手に対して恨みや悲しみをぶつけるというよりは、ホントにどうしたらいいのかわからないっていう。でも私も主人公になりきって歌っているというのもあって、だんだん気持ちが入ってきちゃうんですよ。だから最後のほうは「気持ちを乗せすぎでは?」という話もちょっと出てたんですけど、それも私から自然に出てきた表現だから、そのままの方向で歌わせてもらいました。
「もちはいっつも恋してるよね」
──今回のシングルは、繰り返しになりますがいずれも恋の歌。しかも麻倉さんが無意識的にお好きだったミディアムテンポの曲の流れを汲んだ「さよなら観覧車」と、1stソロライブを経た麻倉さんが意識的に必要だと感じたアップテンポな曲である「365×LOVE」という、ソロアーティスト・麻倉ももの2つの軸を打ち出した格好になりましたね。
そうですね。さっき「天はいつも絶望の淵にいる」って言いましたけど、天からはよく「もち(麻倉)はいっつも恋してるよね」って言われるんです(笑)。でもそれが私だし、このシングルも、結果的にですけど、アルバムを出してからの最初のシングルという意味でもいいバランスになったんじゃないかなって思います。しかも今回は表題もカップリングも、作詞をしてくださったのが女性の方なんですよ。
──どちらも男性にはなかなか書けない歌詞ですよね。
だから本当にこのシングルは、発売日もバレンタインの前日というのもあって、恋する女の子を応援する1枚というか。「さよなら観覧車」は「応援」とはちょっと違うかもしれませんけど……。
──いや、失恋した人にとっては「大丈夫だよ。もっといい人が見つかるよ」みたいに励まされることが逆にしんどかったりもしますし。
確かに。どちらかと言えば「同じ気持ちの子もいるんだよ」って、寄り添ってあげられる曲かもしれませんね。そうやって、女の子の背中をそっと押せる1枚にもなったんじゃないかなと。そして、そういう女の子の気持ちを、男性の皆さんにもたくさん聴いていただきたいです。
※特集公開時、非公式の動画を埋め込んでいたため動画を取り下げました。
- 麻倉もも(アサクラモモ)
- 1994年6月25日生まれの声優アーティスト。2011年に開催された「第2回ミュージックレインスーパー声優オーディション」に合格し、翌年に声優デビュー。2015年に同じミュージックレインに所属する雨宮天、夏川椎菜と共に声優ユニット・TrySailを結成した。2016年11月に1stシングル「明日は君と。」でソロデビュー。HoneyWorksが書き下ろしたカップリング曲「花に赤い糸」は映画「好きになるその瞬間を。~告白実行委員会~」の挿入歌に使用された。2018年10月には1stアルバム「Peachy!」を発表し、10月から11月にかけて千葉・舞浜アンフィシアターでワンマンライブ「LAWSON presents 麻倉もも Fantasic Live 2018 “Peachy!”」を計4公演開催。2019年2月に5thシングル「365×LOVE」をリリースした。
2019年2月14日更新