私、恋の歌が歌いたいです
──麻倉さんの曲って、恋する女の子の気持ちを歌ったものが多いですよね。すなわちそれが麻倉さんの好きな歌?
そうですね。これもソロで活動しているうちに気付いたことなんですけど、先ほどお話したように私は大塚愛さんと松田聖子さんしか聴いてこなかったので、自分がどんな音楽が好きなのかよくわかっていなかったんです。しかも、お二方とも人柄やパフォーマンスの見せ方を含めて大好きだったので、純粋に楽曲だけ切り離して考えたこともなくて。だから「私は何が歌いたいんだろう?」ってモヤモヤしてた時期もあったんです。それに対してTrySailのほかの2人は、もう突き抜けてるので。天さん(雨宮天)はいつも絶望の淵で闇を切り裂いてるし(笑)。
──ははは(笑)。
ナンちゃん(夏川椎菜)はナンちゃんで、もともと世界観のはっきりした曲を歌ってるうえに、最近は自分の好きな音楽がわかっている。「じゃあ、私は?」って考えたときに、1stシングルが恋の歌だったというのもあるんですけど、小さい頃から私は少女マンガが大好きなんですよ。その少女マンガ的な恋の物語を、自分の歌として届けることが楽しいんだとあるとき気付いて、プロデューサーさんに「私、恋の歌が歌いたいです」って自分から言いました。
──いいじゃないですか。それはいつぐらいの話ですか?
ええと、大事なことなのにちょっと記憶があやふやなんですけど、1年ぐらい前、「カラフル」(2017年11月発売の3rdシングル)を出したあとぐらいのタイミングだった気がします。そこでちゃんとやりたいことがはっきり見えたし、「これは私にしかできないんじゃないか?」とも思ったんです。
──TrySailの3人の中で?
はい。もっと言えば、少女マンガ的な世界観が好きで、同世代の女の子を励ますような恋の歌を歌う人って、今の事務所の中にもいないんじゃないかなって。だからやりたいこととも合致したし……。
──席も空いていた。
そうです(笑)。
365日の中の特別な1日のために
──「恋の歌を歌いたい」というのは主に歌詞に関することだと思いますが、曲調やジャンルに対してはどのように関わっていらっしゃるんですか?
最近、私はミディアムテンポの曲が好きなんだなということにも気付いたんです。例えばシングルやアルバムで曲を選ばせていただくときに、何も考えずに自分が「いいな」と思ってチェックしていった曲がだいたいミディアムテンポという。幸いにもお客さんからも「そういう曲が好きです」という声をたくさんいただくんですけど、一方で去年ソロライブ(参照:麻倉もも、ファンタジックな世界作り上げた初のソロライブ)をしたときに、「みんなで声を出せるアップテンポな曲も求められてるのかなあ」とも感じて。
──1stアルバム「Peachy!」(2018年10月発売)収録曲で言えば「Good Job!」や「Fanfare!!」のような曲ですね。
そうですね。デビューしたときから、私は自分のやりたいことをやると同時に、みんなが求めているもの、みんなが喜んでくれるものを作りたいと思っていて、それは今もまったく変わってないんです。なので、最近はみんなで歌えるような元気な曲を作りたいなあって思っています。
──今回のシングルの表題曲「365×LOVE」もそういうタイプの曲になっていますね。なおかつ、恋の歌だし。
やっぱり、アルバムでも恋の歌をかなり熱く歌わせてもらいましたし、アルバムを1枚作ったことで自分の中で方向性がガチっと固まった感覚があって。今回のシングルもバレンタインの前日に発売することが決まってから「ここはもう、絶対に恋の歌でしょう」と思ってましたし、今お話ししたライブでの手応えを踏まえて、スタッフさんと話し合いながら制作に臨みました。
──歌詞の内容にしても、バレンタインを年に1度の告白できるチャンスと捉えている。
あ、実はですね、歌詞の中には「バレンタイン」とか「チョコレート」っていう具体的なワードは一切入れないでくださいって作詞家さんにお願いしたんですよ。あと、季節感もなるべく出さないようにしていて。つまり2月14日の、バレンタインの日だけの曲にしたくなかったんです。
──言われてみればそうですね。リリース日から自動的にバレンタインと結び付けてしまいましたが。
実際、思いっきりバレンタインにあやかっているんですけど、365日の中に特別な日というのがいくつかあると思うんですよ。私の中では、ある日その人のことを好きになって、そこから365日がんばって自分を磨いて、好きになったのと同じ日に告白するというストーリーなんです。「ホントにそんな健気な子いる?」みたいな話なんですけど(笑)。
麻倉ももはストーリーテラーなのか?
──例えば「パンプキン・ミート・パイ」(2018年8月発売の4thシングル)も、好きな人に向けて何らかの行動を起こす女の子の歌でしたが、今回はより切実さを感じる曲になっていますね。
「パンプキン・ミート・パイ」はただひたすらハッピーで、初デートを前に舞い上がって楽しいことしか考えられない女の子の歌なんですけど、「365×LOVE」はまだ恋が実っていないというのもあって、切ない気持ちも大事にしています。特に落ちサビの「『おはよう』でさえも 声が裏返る」のところはお気に入りの歌詞でもあったので、かなり気持ちを込めましたね。
──ここ、最高ですよね。「裏返る」で歌声もファルセットになっていて。
こだわりました(笑)。別に裏声で歌わなきゃいけないほど高いキーではないんですけど、「ホントに裏返らせたい」と思って、ここは絶対にそういうふうに歌おうと決めていたんです。あと、その人のことが好きだから365日がんばれるので、そのまんまですけど、“がんばる女の子”というのが1つ大きなテーマでしたね。
──TrySailのインタビューで、麻倉さんは「歌詞の主人公になりきって歌っている」という意味のことをおっしゃっていましたが、それはソロでも同じ?(参照:TrySail「azure」インタビュー|進化していく3人の表現)
ソロでもなりきって歌ってますね。あたかも自分がそうであるかのように。
──ということは、麻倉さんご自身は「365×LOVE」の主人公のようなタイプではない?
そう……なりますね(笑)。いや、でも……うん、こんなに乙女なタイプじゃないと思います。そのときのインタビューでもお話ししましたけど、私は少女マンガを読むときも完全に主人公と自分を重ね合わせて、主人公目線で物語に入り込んでしまうので、やっぱり歌もそうなるのかなって。
──先ほど「少女マンガ的な恋の物語を、自分の歌として届けることが楽しい」とおっしゃいましたが、ご自身の内面を吐露するというよりは、ある種ストーリーテラー的なことをするのがお好き?
ストーリーテラーなんて大層なものではないと思うんですけど、自分自身のことを伝えるというよりは、自分が楽しいと感じる表現を伝えるというか。自分が受け手として見聞きしてきた表現、それこそ少女マンガ的な恋愛観だったり松田聖子さんのような世界観だったりを、みんなにも楽しんでもらいたいという気持ちはありますね。
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初めて書いた歌詞の原案
2019年2月14日更新