杏沙子がミニアルバム「花火の魔法」で7月11日にメジャーデビューする。「花火の魔法」には自身が作詞作曲した3曲と、新進気鋭の作家・幕須介人が書き下ろした2曲を合わせた5曲を収録。柔らかな歌声と洗練されたポップサウンドが耳に心地よく響く、夏を感じさせる内容だ。
前回のインタビュー(参照:杏沙子「花火の魔法」インタビュー)では、杏沙子の音楽的なルーツやインディーズで発表した作品についての話を聞いたが、今回は「花火の魔法」についてじっくり掘り下げて聞いてみた。
取材・文 / 内本順一 撮影 / 星野耕作
昔から憧れてた世界がそこに広がってた
──今回はデビューミニアルバム「花火の魔法」について伺います。まずは完成した今、どんな気持ちですか?
いい作品になったという充実感でいっぱいですね。今の自分を100%詰め込むことができたのが、すごくうれしいです。背伸びしてる感じはまったくなくて、「今の自分はこうです!」ってちゃんと自己紹介することができた。等身大の作品だなって思います。
──レコーディングはどうでしたか?
大きいスタジオで録ること自体が初めてだったんですよ。だから、テレビとかで観ていたレコーディングスタジオに自分がいるっていうだけで、初めはドキドキしてました。「これがそうかあ」みたいな(笑)。しかも、すごいミュージシャンの方々が目の前で演奏している。昔から憧れてた世界がそこに広がっている感じで興奮しましたね。
──沖山優司さん、真壁陽平さん、伊藤大地さん、佐野康夫さん、設楽博臣さん、山本隆二さん、それにホーンやストリングスの方々含め、日本のポップス界になくてはならないそうそうたるミュージシャンがそろってますもんね。
はい。ありがたいです。皆さんとってもフレンドリーで、いろいろ話をさせてもらいながら作ることができました。最初は「自分の曲なんだから、ちゃんと意見を言わなきゃ」って変なプレッシャーを自分にかけてしまって緊張していたんですけど、「楽しんでやればいいんだ」って気付いて。それからはどんどん楽しくなっていきましたね。笑いが絶えなかったし、すごくいい空気感でした。
──自分のイメージをしっかり伝えることができました?
求めているニュアンス、例えば音の柔らかさとか硬さとか、そういうものを言葉に変換して伝えるのって難しいなって、もどかしく思ったりもしました。でも、色とか景色を伝えられれば、汲み取ってくださる人たちばかりだったから。それに、プリプロの段階でちゃんと内容を詰めていたのがよかったみたいですね。「花火が見える音!」とか「夏の終わりの音がする!」とか言いながら音を決めていって、そこからまた皆さんがさらに色付けしてくださって。そうやってプリプロの段階からさらに音が進化するのにもワクワクしました。
──素晴らしいミュージシャンの演奏で歌うのは気持ちがよかったのでは?
はい。難しいこととか何も考えないで気持ちよく歌えたのは、きっと皆さんが私に音の世界観を寄せようとしてくださったからだと思うんです。だから、気負うところがまったくなかった。本当に優しいんですよ、皆さん。沖山さんとか、私は勝手に仲良しだと思ってるんですけど、周りの人に「おじいちゃんと孫みたいだね」って言われたりもして(笑)。
夏のカケラが自然に集まった
──杏沙子さんは本作をどんなアルバムにしたいと考えていたんですか?
「こういう1枚にしよう」みたいなことはあまり考えずに、今まで作った曲の中から「これ、入れたいな」っていうものをピックアップしたり、いただいた大好きな曲をそこに並べたりしていったら、自然とこの5曲が決まって。で、結果的に「あ、夏のアルバムだな」って思ったんです。夏に向けて作ったというわけではなく、並べてみたら夏のカケラが自然に集まっていた。
──なるほど。
でも収録された5曲には、それぞれカラーがあって、味も違っていて。5つの小説を集めた短編集みたいな感じですね。「あ、私はこういうことをやりたかったんだ」って、曲を集めてから気付いたんです。だから、声色も曲によって意識的に変えたりしてます。前回インタビューしていただいたときに「声の使い方、歌い方には、すごくこだわりがある」って言いましたけど、実際に5曲とも声の出し方にかなりこだわったので、そのコントラストも含めて楽しんでもらえる1枚になったんじゃないかと思います。
──サウンドとしてはシティポップ的な洗練を感じさせるものがわりと多いかなと。例えばインディーズのときに発表した「道」のように、J-POPの王道を行くようなバラードはここには入ってないですよね。
そうですね。私自身は、この曲はシティポップで、この曲は王道で、とか考えてないし、ジャンルなんかも普段からあまり考えずに作っているんです。でも、今回メジャーで作品をリリースすることが決まって、今まで応援してくださっていたファンの皆さんや関わってくれた方たちに、「ここから新しい自分がスタートするよ」ってことを見せたかったんだと思います。確かに「道」とか、以前書いたものとはちょっと毛色が変わってきているという自覚もある。それってきっと、新しいスタートラインに立ったってことを意識しながら作っていたからだと思うんですよ。
──インディーズの延長線上で作るのではなく……。
1回区切りをつけて、新しい自分を提示したい。そういう気持ちがありました。もちろん「道」のような曲を作っていた自分もまだいるし、そこから外れていこうとしているわけではないですけど、今は新しい自分を見せたいという気持ちのほうが強いんですよね。
──きっと以前からのファンの皆さんも歓迎してくれると思いますよ。
うん。いい意味で変わったって感じてもらえればいいなと思います。
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スタートダッシュの1曲目「天気雨の中の私たち」
- 杏沙子「花火の魔法」
- 2018年7月11日発売 / Victor Entertainment
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[CD]
1728円 / VICL-65025
- 収録曲
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- 天気雨の中の私たち
- マイダーリン(re-recording)
- クラゲになった日の話
- 流れ星
- 花火の魔法
- ライブ情報
杏沙子ワンマンライブ -
- 2018年9月2日(日)大阪府 Music Club JANUS
- 2018年9月15日(土)東京都 TSUTAYA O-EAST
- 杏沙子(アサコ)
- 1994年生まれ、鳥取県出身のシンガー。大学時代に音楽活動を開始し、2016年に初のオリジナル曲「道」を含むインディーズ1stシングル「道」を発表した。2016年7月に公開した「アップルティー」のミュージックビデオが、中高生の間で注目を集めYouTubeオフィシャルチャンネルにて350万回再生を記録。2017年9月にはコバソロの1stアルバム「KOBASOLO」にボーカリストとして参加した。2018年7月にミニアルバム「花火の魔法」でメジャーデビュー。