インディーズでの活動を振り返って……
──そうしてシングルも2枚、インディーズでリリースしました。1stシングルが2016年発表の「道」で、ここには初めて作ったバラードの「道」をはじめ3曲が収録されています。この中の「アップルティー」は2016年7月に公開されるや中高生を中心に拡散されて話題になり、MVの再生回数が330万回を記録したそうですね。これはご自身の高校時代を思い出しながら書いた曲なんですか?
実体験ではないですけど、高校時代のあのキラキラした青春の感じを曲に落とし込みたいなと思って書いた曲で。日常のふとしたことから妄想を膨らませて物語にするのが好きなんですよ。これはそうやって作った1曲ですね。
──MVでは杏沙子さん、踊ってますよね。
恥ずかしながら踊ってみました。できることならバキバキのダンスも踊れるようになりたいんですけど、できそうもないのでフンワリと(笑)。
──そして昨年リリースした2ndシングルが「マイダーリン」。表題曲はシティポップ的なアレンジで、「道」からの成長も感じられます。
ほんとですか? わあ、うれしいです。
──それから2017年9月に発売されたコバソロの1stアルバム「KOBASOLO」に、杏沙子さんは「あなたのことが好きだなんて言えないんです。」と「さよならスマイル」の2曲でボーカリストとしてフィーチャーされてますね。これはどういう経緯で?
ちょっと歌えなくなって半年間休んでまた活動を始めたときに、コバソロさんをYouTubeで見つけて、ダメ元でメールを送ってみたんですよ。「こんな歌を歌ってます。もし気に入っていただけたら、何かご一緒させていただけないでしょうか」って。
──積極的ですね。
本当にダメ元だったんですけど、しばらくしたら「やりましょう」って返事をいただけて。それがきっかけです。2曲ともコバソロさんが「杏沙子さんをイメージして作ってみてもいいですか?」って言って作詞作曲してくださった曲なので、うれしかったし、楽しく歌わせていただきました。
私はカメレオンになりたい
──YouTubeには宇多田ヒカルさんの「真夏の通り雨」や手嶌葵さんの「明日への手紙」といった楽曲を杏沙子さんがカバーしたものが公開されていたのでそれも聴いてみたんですが、こうしたバラードでは癒しを感じさせる歌い方をしている。「アップルティー」や「マイダーリン」といったポップに弾む曲とはまったく異なる歌唱スタイルですよね。自分の中に何通りかの声の出し方があることを意識しながら、曲によって変えているという感じなんですか?
そうです。自分の目標でもあるんですけど、私はカメレオンになりたいと思っていて。ちゃんと自分を持ちつつも、いろんな気持ちをいろんな声で表現したい。曲のタイプに合わせて、声を操れるようになりたいんです。なので、1回歌ってみて、この歌い方はこの曲には合わないなと感じたら変えてみたり。そこは意識的にそうしてますし、これからもそうしていきたいと思ってます。
──いい意味で、歌唱スタイルが決まっていないということですね。だからこそどんなふうにも色を付けることができるし、どこにでも行ける。
ブレない何かをしっかり持ちつつ幅を持たせた表現をするのって、難しいことだと思うんですけど、それを私はやっていきたいんです。初めに言った通り、私はまだ自分で自分のことがわかっていないんですよ。だからこそ今は風に任せて、いろいろやりたいことを好きなようにやってみたいと思っていて。そうやって自分らしさが何かを探していく時期だと思っているんです。だから今はすごく自由ですね。
──逆に、ここだけは譲れない、自分を通しますよ、っていうところは、どこですか?
それもやっぱり声の使い方、歌い方ですね。何よりも自分のこだわりがあるのが歌なんです。歌唱スタイルは決めてないけど、自分がこうだと思ったらその歌い方は譲れない。
──それは自分が作詞作曲した曲に限らずということですか?
そうですね。曲を作ることも大好きですけど、作ることと歌うことでは歌うことのほうが今は意識が強いかもしれません。ほかの方にいただいた曲の世界に触れて、それを私の声で表現することも自分にとってはいい影響があるでしょうし。だから自分で作詞作曲した曲も、誰かに作っていただいた曲も、歌い方にこだわりながら歌っていきたいです。自分だけの世界に固執したいとは思わないですね。
──わかりました。さて7月にはいよいよメジャーデビューが控えてますが、今どんな気持ちですか?
もちろんうれしいですけど、より身が引き締まる思いと言うか。まだ自分のことがわからないだけにフワフワ浮かんでる感じもありますけど、ちゃんと自分が楽しんでるかどうかを確認しながら、いい意味でこれまで通りやっていきたいですね。メジャーだからどうこうって言うんじゃなくて、歌が大好きだって思いを忘れずにやっていこうと思ってます。
──杏沙子さんにとって、歌とは?
自分自身ですね。半年間活動を休んだときや、喉を壊して声がちゃんと出なくなったときに、「自分の存在意義ってなんだろう?」ってすごく考えたんですよ。そのときに、歌で自分はできてるんだなってハッキリ思って。カッコよく聞こえちゃうかもしれないけど、歌えなくなったときに本当にそう思ったんです。歌を取られたら、どうしていいかわからない。だから、歌は私の存在する意味だなって思うんです。
- 杏沙子「花火の魔法」
- 2018年7月11日発売 / Victor Entertainment
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[CD]
1728円 / VICL-65025
- 収録曲
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- 天気雨の中の私たち
- マイダーリン(re-recording)
- クラゲになった日の話
- 流れ星
- 花火の魔法
- 杏沙子(アサコ)
- 1994年生まれ、鳥取県出身のシンガー。大学時代に音楽活動を開始し、2016年に初のオリジナル曲「道」を含むインディーズ1stシングル「道」を発表した。2016年7月に公開した「アップルティー」のミュージックビデオが、中高生の間で注目を集めYouTubeオフィシャルチャンネルにて350万回再生を記録。2017年9月にはコバソロの1stアルバム「KOBASOLO」にボーカリストとして参加した。2018年7月にミニアルバム「花火の魔法」でメジャーデビューする。
2018年7月11日更新
「杏沙子をつくった曲たち」ひと言解説
うれしい!たのしい!大好き! / DREAMS COME TRUE
ここまでどストレートでシンプルに、聴いている人も歌っている人もハッピーにしちゃう曲はなかなかない。無敵の幸せソングを1曲目に。
天気雨の中の私たち / 杏沙子
先の見えない未来でも、ワクワクしながら向かっていけるような、前に前に進むエネルギーを感じてもらえる曲。歩きながら、ドライブしながら、前に進みながら聴いてほしい!
眠りの森 feat. ハナレグミ / 冨田ラボ
作詞家・松本隆さんの歌詞に魅せられていた大学時代に出会った曲。松本さんの詞は、私をどこへでも連れていってくれる。
瞳はダイアモンド / 松田聖子
幼い頃から母が車でかけていた松田聖子さんの曲の中でも特に印象に残っている1曲。今も昔も、聴こえ方は違えど、歌の可能性を教えてくれた特別な曲。
金魚花火 / 大塚愛
小学生のとき、ハマりにハマった大塚愛さん。アルバム1枚をひとつの作品として聴き始めたのもこの頃。大塚愛さんの物語を感じさせるメロディが好き。
Tomorrow's way / YUI
高校通学中、毎日のように聴いていた曲。「叶える為 生まれてきたの」という歌詞を聴きながら、叶えたい自分を強く確認していた。
Last Love Song / Superfly
恋の終わり、そして新たな始まりを歌ったこの曲を、恋ではなくわたし自身の夢と重ね、また前を向かせてくれた曲。
歌うたいのバラッド / 斉藤和義
歌と歌うたいの本質を歌ってる歌。私も歌を歌う1人として共感することが多い。混じりっ気がなくて、リアルで、でもロマンチックで好き。
鱗 / 秦基博
歌の中だからこそ「鱗のように 身にまとったものは捨てて」、伝えられる思いってたくさんあると思う。歌がもつ包容力はすごい。
僕が一番欲しかったもの / 槇原敬之
1曲を通してひとつのストーリーになっていることに衝撃を受けた曲。この曲で初めて“歌詞”を意識し、それから“歌詞”に興味を持つようになった。
コイスルオトメ / いきものがかり
高校生の時、初めて人前で歌った曲。今なお忘れられない"初めての曲"を、わたしを形作った曲たちの最後の曲に。