浅井健一ソロアルバム「OVER HEAD POP」インタビュー|湧き出る“ポップ”をそのままに

浅井健一が3年半ぶりとなるソロアルバム「OVER HEAD POP」をリリースした。

「OVER HEAD POP」はそのタイトル通り“ポップ”にこだわり尽くした作品で、浅井の楽曲ならではの軽やかさとユーモラスなリリックにあふれた1枚となっている。ひさびさのソロアルバムがここまでポップに振り切った作品になったのはいったいなぜなのか。音楽ナタリーは本人にインタビューを行い、その真意を語ってもらった。インタビュー後半では、7月にサブスク解禁されたBLANKEY JET CITYの楽曲や、還暦を間近に迎えて抱くこれからのビジョンについても話題が及んでいる。

取材・文 / 西廣智一

めちゃくちゃポップなアルバムを作ろう

──浅井さんはここ数年SHERBETSやAJICOとしての活動が続いていました。ソロ作品は2021年のアルバム「Caramel Guerrilla」以来3年半ぶりで、ちょっと時間が空きましたね。

そうだね。SHERBETSの活動に集中したいというのもあったし、時間が空いたのは自然な流れだったかな。

──今年2月のアコースティックツアーを機に、再びソロ活動が活発化していった印象がありますが。

それもあるんだけど、もともとはSHERBETSでまたアルバムを作ろうと思っていたんだよ。でも福士(久美子)さんがちょっと忙しくなっちゃって。それでSHERBETSのレコーディングができないってことになったから、じゃあひさしぶりにソロでアルバムを作ろうと。

──ソロ名義でのアコースティックツアーには小林瞳さんと宇野剛史さんというリズム隊が参加されましたが、この人選の決め手は?

瞳ちゃんはもう長く一緒にやっていたのもあったけど、剛史はSHERBETSにサポートで入ってもらったとき、すごくいい感じだったんで、今回声をかけて一緒にやることになりましたね。

──宇野さんのベーシストとしてのどういうところに惹かれたんですか?

今まで一緒にやってきたベーシストもみんなグルーヴがいいんだけど、剛史はなんだろう、なんかオーディエンスがより揺れるんだよね……このタイミングだからっていう流れもあるしね。

浅井健一「Thousand Tabasco Tour」愛知公演の様子。(撮影:岩佐篤樹)

浅井健一「Thousand Tabasco Tour」愛知公演の様子。(撮影:岩佐篤樹)

──なるほど。その年初のアコースティックツアーを経て、今年の6月から7月にかけては「Thousand Tabasco Tour」と題した東名阪ツアーが行われました。今回のアルバム収録曲は、すでにこの頃には用意されていたものなんですか?

曲は常にいっぱいあって、そこから選んだのも何曲かあるし、7月ぐらいから新しく作ったものもある。そういう曲が混ざった感じかな、今回のアルバムは。

──本作の情報解禁時、浅井さんの「POPなアルバム!」という発言がすごく印象的でしたが、こういうポップなテイストは意図して打ち出したものだったんでしょうか。

SHERBETSからソロに頭を切り替えたことで、「めちゃくちゃポップなアルバムを作ろう」という意識が自然と湧いてきた感じですね。

──もちろんこれまでの楽曲にもポップなテイストはいろんなところから感じられましたし、それも浅井さんの持ち味の1つだと思うんです。でも、今回のアルバムは特にそこが強く打ち出されている感じがして、終始軽やかな気持ちで楽しむことができました。

ありがとう。アルバム全曲をそういうポップな感じで作ったら面白いかなということに気が付いてさ。10曲のうち「POPCORN」と「けっして」は全然ポップじゃないんだけど、あとの8曲はそういう感じで攻めようと思って。それで実際に作り始めたらいろんなアイデアが湧いてきた。

笑わせるのも1つの狙い

──アルバム制作のうえで鍵になったのはどの曲ですか?

「こういうポップな感じで攻められたらいいな」と強く思ったのは「Fantasy」がきっかけだったかな。どのタイミングでできたかはちょっと忘れちゃったけど、比較的早めだったと思う。

──実際、アルバムの冒頭を飾るこの曲は全体の空気感を象徴する1曲だと思います。

そうだよね。僕もそう思うよ。

──最初にこの曲を聴いたとき、そのキャッチーなメロディはもちろんですが、歌詞にすごく惹き付けられました。こういう言い方が正しいのかわからないですけど、「浅井さんも僕たちが普段考えていることと同じようなことを感じて生活しているんだな」と思ったんです。

まったく同じだよ。税金が高いとか、みんな共感すると思うし。高すぎるもんだから、これはファンタジーとしか言いようがないねっていう。この曲がラジオで流れたときに「本当にそうだ! その通り!」と思ってくれる人がたくさんいるかなと。

──「AIってよく聞くね」のくだりとか、きっと多くの人が感じていることそのままですし。

そうだよね(笑)。みんなと感じることは似ていると思うし、多くの人が共感できることを歌うのって、曲を届けるうえではすごく大事なことだと思うよ。

浅井健一

──歌詞の中にミセスロビンソンというキーワードが含まれていますが、これは1960年代のアメリカ映画「卒業」に登場するあのミセス・ロビンソンのことですか?

そう、あのシーンだよね。ヤングはわかんないと思うけど。

──と同時に、Simon & Garfunkelが歌う「Mrs. Robinson」にも似た軽やかさがありますよね。

あの曲もいいよね。そう感じてもらえたならOKだな。

──以降もアルバムにはいろいろなタイプのポップさが詰め込まれています。そこは「一遍倒にならないように」という意識があったんでしょうか。

もちろん一遍倒になったらいかんなとは思うよ、いつも。似通った歌ではつまんないからね。

──3曲目の「HUNDRED TABASCO AIRLINE」はちょっと不思議な印象を受けました。

この曲はまずメロディが生まれて、これにどういう歌詞が合うかを考えるところから始まったね。「HUNDRED TABASCO TOUR」というツアーを昔やったことがあるんだけど、タイトルはそこから持ってきました。語呂がいいんでね。

──この夏に行われたツアーは「Thousand Tabasco Tour」でしたし、そことの関連性も感じさせますよね。歌詞も日常とリンクする部分もあれば、思わずクスッとしてしまうところもあり。

そうだね。笑わせるというか、楽しい感じになってもらうというのも1つの狙いなので。

──ユーモアは浅井さんの中で大切にしているものでもある?

勝手にユーモアが出るもんだから。そこは自然に任せてる。

──ユーモアついでといいますか、その流れで言うと……。

ユーモアついで、いいね(笑)。

──7曲目の「Come on Cushion Fight」の歌詞が非常に引っかかりました。これこそユーモアの塊ですよね。

おもろいよね。この歌詞はどうなんだろう……脳みそから出てきました(笑)。

──浅井さんは常にこういうことを考えていたりするんでしょうか。

別に考えてないよ(笑)。これは「シュールワード 思いついたら」のくだりがまず出てきて、そこから始まったかな。この曲はもともと春ぐらいにアイデアがあって、AJICOでやったらいいんじゃないかなと思ってたんだよね。でもUAはこの歌詞を歌わんかなと思って、自分が歌いました。

──まずイントロのハーモニーでドキッとさせられて、そこからシュールなワードが連なっていくので、まったく先が読めませんでした。

シュールな言葉をどんどん重ねていったらどうなるかと思ったけど、なんとか形になってよかったよ(笑)。曲を作るうえで「とにかく今回はポップな方向で行こう」って決めてからスピーディにできたから、歌詞に関しても同じような意識が自然とあったんだろうね。

深く語ろうと思っても無理がある

──アルバム中盤の「Calm Lula」「あおるなよ」という流れもすごく気持ちよかったです。ポップな中にも少しハードなテイストが含まれていて。

ちょっとピリッとするよね。

──はい。

今回のアルバムは聴いて楽しんでもらえるもの……例えば曲や歌詞を聴いてクスッと笑ったりとか、そういうことをシンプルに楽しんでもらいたくて。深く感じるだとかそういうことよりも、ライトに楽しんでもらえればそれでいいと思うんだよね。最後のほうには「POPCORN」とか「けっして」みたいなちょっと深い曲もあるけど、全体的にはサラッと聴いてもらって、面白いと思ってもらえればうれしいですね。

浅井健一

──先ほど「終始軽やかな気持ちで楽しむことができました」とお伝えしましたが、まさにそういう気分で楽しむのが正解だと。

そうそう、そのままでいいんだよ。だから、深く語ろうと思っても無理がある(笑)。この作品について深いことを聞こうと思っても困るだろうし、答えるほうも別にそんなに深く考えてないから。さっきの「Come on Cushion Fight」みたいなことでいいと思うんだわ。

──なるほど。では、「POPCORN」や「けっして」みたいな曲は今回のアルバム制作の中で、どういった流れで生まれたものなんでしょう。

こういうテイストのアルバムの中に、1曲2曲はそういう深い曲があってもいいかなと思って。もちろん真剣に録ったんだけど、アルバムの流れで笑って踊ってもらえればなと。ただ、この流れで聴くと「POPCORN」もギャグなのかなんなのかわかんないよね、きっと。俺自身はギャグのつもりはないし、本当のことを歌っているだけなんだけど。ただ自然とこういう内容になったとしか言いようがないかな。

──ユーモア満載の流れの中に、本音が1つポロッとこぼれるというか。そういうときに感じる重みをこの曲から感じます。

そうだね。うん、その通りだと思う。

──そこから「Wild Summer」を挟んで「けっして」でアルバムを締めくくる。この流れだからこそ、沁みる感じが強まりますね。この曲のみ、レコーディングにはSHERBETSの仲田憲市さん、AJICOで活動をともにする椎野恭一さんが参加しています。

過去を振り返る曲なんで、ある程度の年齢の人のほうが歌詞を理解したサウンドを出してくれるだろうなと思って。剛史も瞳ちゃんも若いんだよ、俺からしたら。だから、この曲にはちょっと合わないかなと。やっぱり先輩は先輩で、ベースのメロディとかドラムのフレーズとかカッコいいからね。