浅井健一|ベンジーが語るソロ名義1年半ぶりのアルバム「Caramel Guerrilla」、新生KILLS、AJICOのこと

2019年にソロアルバム「BLOOD SHIFT」を発表後、インストゥルメンタルユニット・SHALLOW WELLのニューアルバム「SPINNING MARGARET」や浅井健一 & THE INTERCHANGE KILLSのニューシングル「TOO BLUE」とさまざまな名義で新作を発表してきた浅井健一。このたび発売された1年半ぶりのソロアルバム「Caramel Guerrilla」は、各グループのメンバーも参加したバラエティ豊かな1作に仕上がった。音楽ナタリーでは「Caramel Guerrilla」制作時のエピソードに加え、高松浩史(THE NOVEMBERS)を新たなベーシストに迎えた新生KILLS、20年ぶりに再始動するUAとのバンド・AJICOについて話を聞いた。

取材・文 / 今井智子

バンドではなく、ソロ名義の作品にした理由

──「Caramel Guerrilla」は2019年発表の「BLOOD SHIFT」以来、1年半ぶりのソロアルバムですね。2020年のコロナ禍を乗り越えてできた作品かと思いますが。

浅井健一

そうですね。去年の2月ぐらいから録り始めて、ゆっくり時間をかけて作りました。その間に(浅井健一 &)THE INTERCHANGE KILLSの曲とか、SHALLOW WELLのアルバム「SPINNING MARGARET」も作ったし。

──SHALLOW WELLはインストゥルメンタルユニットで、2010年に「『SHELLBY』ー世界の片隅で静かに生きるー」を発表したときは深沼元昭(PLAGUES、Mellowhead)さんや岡村美央さんが参加していました。「SPINNING MARGARET」の頃はKILLSのメンバーである小林瞳さんのほかにSHERBETSのメンバー仲田憲市さん、福士久美子さんも参加していますね。

瞳ちゃんとはSHALLOW WELL以外でも一緒に曲作りをやってましたね。

──「Caramel Guerrilla」は11曲中6曲にKILLSの中尾憲太郎さんと瞳さんが参加していて、収録曲の「TOO BLUE」はKILLSのシングルとして昨年9月にリリースされているので、「ソロ名義だけれどバンドの作品なのかな」と、ちょっと混乱しました。

KILLS名義で発表しようか、ずっと迷っとったんだよね。だけどまあ、憲太郎が脱退しちゃったのもあるし(参照:浅井健一 & THE INTERCHANGE KILLSから中尾憲太郎が脱退、東名阪ツアーはSHERBETSとして実施)、今回はソロでいこうと。

──憲太郎さんの脱退は昨年10月に伝えられましたが、そのためか「少女」は福士さんとマーリン・ケリーさんが参加していたり、ミュージックビデオが公開されている「Not Ready Love」は瞳さんがベースを弾いて、深沼さんがプログラミングを担当していたり、KILLSのメンバー以外の方も迎えた作品になっていて。

そうなんだよね……実は瞳ちゃんがベースを弾いたことが、憲太郎が脱退する要因にもなったんだよ。瞳ちゃんが弾くこと自体はいいんだけど、クレジットをKILLS名義にしたら、憲太郎にとっては「瞳ちゃんが弾いたなら、そう書くべきじゃないの」ってショックだったらしくて。そこは俺の配慮が足りなかった。自分の感覚ではOKだったんだけど、憲太郎はそこらへんはすごくちゃんとしていて……というか当たり前のことだと、今は思ってるけど。彼の心を傷付けたのは間違いないので謝ったんだけど、彼の心は戻ってこなかった。

──憲太郎さんはベースプレイヤーとしての矜持を持っている人だから、例え同じバンドのメンバーであっても、参加していない曲も自分が演奏したように扱われるのが納得できなかったんでしょうね。個人名を出さず、バンド名義を通したいという浅井さんの気持ちもわからなくはないですが。では3人で録音した曲は、憲太郎さん脱退前にすべて完成していたんですか?

すべてできてた。福士さんが参加した曲も、もっと前にレコーディングが終わってたんだよ。で、憲太郎が辞めていなかったらほかの曲もKILLS名義のもので固めたかったんだけど、それができなくなったんで、以前ソロ用に作った「BLUE BLONDE」だったり「少女」とかも入れることにしたんだ。

──コロナで動きが取れない中、いろいろ大変だったんですね。逆に考えればライブとかツアーがあまりやれない時期だったのは、不幸中の幸いかと思ったりしますが。

去年の12月にはKILLSの東名阪ツアーをやる予定だったんだけど、そのリハーサルの前日に憲太郎が辞めるって言い始めたんで、あのときは困ったね。どうしようって。それでSHERBETSはしばらく動いていなかったから、メンバーに「やらない?」と誘ったら、「もちろんやるぜー!」って返事が来たので、急きょSHERBETSに瞳ちゃんを加えた編成でツアーを回ることにして。SHERBETSの曲と、瞳ちゃんと一緒に作ったインスト曲で構成したら、それはそれですごいよかった。SHERBETSの曲って、ちょっと影があるじゃん。今の時代に合うと言ったら変だけど、より心に響くというか。それがインスト曲といい相乗効果を生み出してよかった。

俺はいつも現実的なことを歌ってるんじゃないかな

──「Caramel Guerrilla」に話を戻しましょう。アルバムの表題曲は浅井さんらしいシャープな曲だから、やはりこの曲が新作の中心になるんだなと思いました。

浅井健一 & THE INTERCHANGE KILLS

いや、俺はメインになる曲じゃないと思ったんだけど、マネージャーがアルバムタイトルは「『Caramel Guerrilla』しかないですよ!」と言うもんで。まあ、確かにインパクトのある言葉だなと。でもこの曲が特別というわけではまったくないですね。俺が今作で好きなのは「少女」「ルールールー」「水色のちょうちょ」とかかな。

──孤独感の漂う曲が多いですね。「少女」「水色のちょうちょ」は弾き語り風というか、音数をあまり増やさず、歌を聴かせる感じの曲で。この曲調はソロ作ならではのこだわりでしょうか。

そこらへんはこだわってない。「そうだね」って言わせたいんだろうけど(笑)。

──(笑)。だって、バンド名義とソロ名義で、どういうところに曲の違いがあるのか知りたいじゃないですか。

まあ、ソロだと歌で物語ったり、ゆったり歌う感じの曲が入ってくるね。

──「Not Ready Love」はMVも制作してるのでお気に入りかと思いますが、どうなんでしょう?

「Not Ready Love」は瞳ちゃんとのセッションでできた曲で、彼女が考えたベースラインを俺が弾いてるんだよ。瞳ちゃんがどんどんベースラインを発明して、そのメロディメイクのセンスを生かさない手はないわけだから、2人で創作してる時間がどんどん増えてね。音楽を作るって、結局「あーでもないこーでもない」なんだよね。それプラス才能。才能がないとたぶん「これにする? あれにする?」になるんだと思うよ。ごめん、えらそうに言ってるかな?

──難しいところですね。この曲のMVにはシボレーの大型キャンピングカーが出てきますが、アウトドア派でキャンプ好きな浅井さんの愛車じゃないかと想像しました。

まさか!(笑) 俺、キャンプは好きだけど、キャンピングカーはいらないな。昔だったら欲しかったけど、今は現実的なことを考えると、維持するのが大変そうじゃん。最近行ってないけど、コロナが流行してから、キャンプ場が混んでてすごいことになってるみたいだし。

──あのMVでは、キャンピングカーのキッチンで慣れた手つきで料理していて、「I Stand Kitchen」の歌詞の内容にもつながるなと思いました。さらに言えば、KILLSのアルバム「Sugar」には食器の洗い方が歌詞に出てくる「Vinegar」もありましたし、浅井さんは案外生活感のある曲が得意ですよね。現実的というか。

食器の洗い方を歌ったミュージシャン、おらんよね。誤解してる人がいるかもしれんけど、ああいう世界観、昔から俺は好きだから。スーパーマーケット好きだし、普通に買い物に行くしさ。たまに不思議なことを歌ったりもするけど、基本的に思い浮かんだものをそのまま歌にしてると思うし、いつも現実的なことを歌ってるんじゃないかな。

──「ラッコの逆襲」もそうですか? 虐げられている姿や、自然の中で生きることの自由さは、どの動物にも当てはめて表現できると思いますが、あえてラッコを選んだのは、水族館にでも足を運ばれたのかなと。

こういう感じの曲は「皆殺しのトランペット」(※BLANKEY JET CITYのアルバム「LOVE FLASH FEVER」収録曲)とか、何回も作っとるでしょう。今回ラッコにしたのは、メロディに言葉の語呂がハマったんだよね。もちろん水族館は何回か行ったよ。魚や動物たちを見て「狭い水槽の中でかわいそうだな」といつも思う。