ナタリー PowerPush - 浅井健一
“光”の射すほうへ
浅井健一の1年半ぶりの新作「Nancy」がリリースされる。2013年に発表したソロアルバム「PIL」以降、浅井はソロ、バンドを問わず1枚のアルバムも出していない。多作で知られる彼がここまでリリースのスパンを空けるのはひさしぶりのことだ。
浅井は「Nancy」のために昨年1月からPro Toolsを使って断続的に曲を作り始め、秋頃からメンバーを集めて録音を開始。そして完成したのが今年の1月である。それだけ長い時間をかけて丁寧に作られた作品なのだ。
メロディアスで静謐な曲調の中に詩人・浅井健一の研ぎ澄まされた感性が光る。「ベンジーを聴いたな」と思わせてくれる濃厚かつリリカルな作品である。またレコーディングメンバーは浅井作品ではおなじみの椎野恭一(Dr)、福士久美子(Key, Cho)、深沼元昭(Programming)のほか、新顔としてTRICERATOPSの林幸治(B)が参加している。
今回ナタリーは浅井にインタビューを行い、「Nancy」が生まれるまでの過程と49歳の今感じている思いを聞いた。
取材・文 / 小野島大 撮影 / 福本和洋
人間性は重要だよね
──今作を作り始める前にテーマとかコンセプトなど、考えてたことはあるんですか?
テーマは毎回あまりない。とにかくカッコいい、心に残る音楽。聴いた人の心に残る音楽を目指してる。ギルバート・オサリバンの「アローン・アゲイン」とかさ。
──ほう。
最近はああいう曲が素晴らしいと思うんだよね。あのレベルのものを作りたいなあと思っとるかな。で、いろんなパターンの曲ができて、必死こいてやっとるうちに、だんだんアルバムの姿が見えてくるって感じで。初めにテーマだとか、そういうのは設定しないなあ。そのときそのときの精神状態が歌に反映されとるよね、自然に。
──前作の「PIL」をきっかけに欣ちゃん(茂木欣一)や加藤くん(加藤隆志)とバンドを組んで、いい感じでできていたと思うんですが、あのまま次を作ろうとは思わなかったんですか?
欣ちゃんと一緒にやるのもすごい大好きだし、絶対いいと思うんだけど、何しろ欣ちゃん忙しいんだわ。で、オレはバンドのメンバーでやるときは、何度も何度もリハーサル入るんだよね。たくさん入るから。そのスケジュールを欣ちゃんは取れないと思う。そういう物理的な問題かな。
──メンバーが変わってくると当然音も変わってきますよね。
うん、全然変わってくると思う。だから今作も前作とは変わってきとるよね。
──今回は比較的静かでメロディアスな曲が多いですね。
ああ、今回全部で18曲ぐらいあって。激しい曲もあるんだけど……最後に曲を選ぶときに、今回は統一感や雰囲気を出すために、そういう曲ばかり集めたことは確かだね。スタッフの意見もあってね。それもいいな、という。そのほうが聴く人たちもわかりやすいのかな、と。そう思った。だから激しい曲は次のアルバムに入ると思う、たぶん。
──そういう静かな曲を集めたことで、浅井健一の詩人としての資質みたいなものがぐっと前面に出てきましたね。
うん。自分はいつもと同じ感じで書いとるけど、そうやって評価されるのはうれしいね。
──レコーディングメンバーのうち椎野恭一と福士久美子は、浅井健一にとってはなじみの深い音楽家ですが。
うん。椎野さんはすごく好きなドラマーだし、福士さんと俺は特別な関係だし。で、林くんは冒険だったけど、いいベースを弾くという噂を聞いて。それまで一緒にやったことはなかった。昔(藤井)フミヤくんのイベントに出たときトライセラも出てて、そのとき初めて話したのかな。演奏見て、すごいグルーヴィだった。なので今回試しにセッションしてみたらすごいよかった。それに真面目だからね。誰でもそうだろうけど、俺は不真面目な人とはやってられんから。人間性は重要だよね。
──この4人でやることで、どういうグルーヴが生まれてきましたか?
欣ちゃんとやったときもすげえいいし、椎野さんと林くんのときも両方好きで。何が違うかっていったら、口で説明するのは難しいけど、なんか違うよね。
──それは違う人とやることで、自分の中の違う面が引き出されたという感覚なんですか。
それもちょびっとあるかもしれんね。そこまで考えてないけど。
──浅井さんはバンドも複数やってるし、ソロもその都度違うメンバーとやりますよね。常に新しい刺激が欲しいという気持ちがあるんですか?
新しい人からの刺激みたいなものを追い求めるよりも、絶対この人と合うな、と思ってる人と、自分の音楽をもっと深いところまで追求することのほうが大事な気がするんだよね。
──椎野さんや福士さんととことんやることで、さらに深いところに行ける?
うん、それはあるね。ソロだからいろんな人とやれる。せっかくだからいろいろやってみようとは思う。ただ、いいなと思う人は固定されてきがちだよね、福士さんを超える人はいないもんね。メロディセンスとかね。音出しとると、お互いいろんなメロディを弾くでしょう? そのときに「今弾いたやつがいいんじゃない」とか俺がそうやって指摘して、彼女も気が付いて。そこからまた俺の作っとるメロディと彼女のメロディが反応しあって、いいものができる場合がたくさんあったよね。激しい曲でも静かな曲でも、彼女はアイデアをいっぱい出してくるからね。それは一番大事なことで。今回もそうだよ。椎野さんのドラムもカッコいいし。自分がうれしくなるっていうか、ついつい歌っちゃうっていうか。乗せてくれる。そういう音楽が今回はできていると思う。
- ニューアルバム「Nancy」 / 2014年7月9日発売 / Sexy Stones Records
- 初回限定盤 [CD2枚組] 3672円 / VKCA-10050~1
- 初回限定盤 [CD2枚組] 3672円 / VKCA-10050~1
- 通常盤 [CD] 3240円 / VKCA-10052
収録曲
- Sky Diving Baby
- Stinger
- Parmesan Cheese
- 紙飛行機
- Johnny Love
- Papyrus
- 桜
- 僕は何だろう
- 君をさがす
- ラビット帽
- ハラピニオ
初回限定盤付属CD収録内容
- ゴースト
- MORRIS SACRAMENT
- Remmy Roll
- 並木道
- プラネタリウム
※2013年11月12日に東京・LIQUIDROOM ebisuで行われた「GARAM MASALA NIGHT ~Live at LIQUIDROOM」から浅井自身が選曲したライブ音源
- 配信シングル「紙飛行機」 / 2014年6月11日配信開始 / 750円
- 「紙飛行機」
iTunes Storeにて配信中!
収録曲
- 紙飛行機
- Parmesan Cheese
- ひばり
浅井健一(アサイケンイチ)
1964年愛知県出身。1991年にBLANKEY JET CITYのボーカル&ギターとして、シングル「不良少年のうた」とアルバム「Red Guitar and the Truth」でメジャーデビューを飾る。数々の名作を残し、2000年7月に惜しまれつつ解散。その後、SHERBETSやJUDEなどさまざまな形でバンド活動を続け、2006年7月にソロ名義では初となるシングル「危険すぎる」、同年9月に初ソロアルバム「Johnny Hell」をリリースした。繊細なタッチで描かれるイラストも高く評価されており、絵本や画集などを発表している。2014年7月に6枚目のオリジナルソロアルバム「Nancy」をリリースする。