音楽ナタリー Power Push - ART-SCHOOL
B面集で見えた本質
埋もれてしまった曲を救いたかった
──今回のアルバムの制作のきっかけはなんだったんでしょうか?
木下理樹(Vo, G) 去年あたりから僕個人への弾き語りライブのオファーが増えてきて。演奏曲のリクエストを募ったら、こちらが予想していなかったマニアックな曲がけっこう挙がったんです。前からB面集は作りたかったので、せっかくのいい機会だしここらで形にできないかと思って制作することになりました。
──ファン投票で曲目を決めることを前提にしていたんですね。
木下 そうですね。僕の感性で選ぶと客観的に選べないし、めちゃくちゃ地味なものになりそうだったんで。演奏曲のリクエストを募ったときに、みんなすごくART-SCHOOLの作品を聴き込んでるんだなと知って、それだったらファンの人たちに選んでもらったほうがいいなと思ったんです。
──個人的に「この曲は入れたかったけど入らなかった」という曲はありますか?
木下 「wish you were here」(2009年発売のアルバム「14SOULS」の収録曲)や「into the void」(2010年発売のミニアルバム「Anesthesia」の収録曲)なんかを入れたかったんですけど、2票ぐらいしか票が入らなかったんで(笑)。みんなが聴きたい曲が並んでいる中に僕のエゴをぶち込むわけにはいかんと思って諦めました(笑)。
──自分が思い入れがある曲というより、お客さんの求めているものを提供したんですね。
木下 そうですね。
──そうして選ばれた曲が18曲。この曲目を見て、改めて何か感じましたか?
木下 それぞれの楽曲をリリースした頃のことをいろいろ思い出しましたね。この頃はこういう音が好きだったんだなとか、当時のスタジオの光景だったり……。
──「自分たちはお客さんからこういうものを求められているんだ」という発見などはありましたか?
木下 僕らに求められているのは、自分がもともと持っていたんだけど失くしてしまったものへのノスタルジーや喪失感を描いた曲なのかなと思いました。「この道、昔あの人と歩いたなあ」みたいな、そういう感覚をショートフィルムのような感じで切り取っている曲が多く選ばれているように感じましたね。
──これまで本作の収録曲をライブで演奏する機会は多かったですか?
木下 いや、そうでもないですね。とにかくART-SCHOOLって曲が多いから。ライブはやれる曲数に限りがあるので、すべての曲をやるわけにもいかない。そうやって埋もれてしまった曲を救う方法はないのかなとずっと考えていたので、今回B面集を出せたのはよかったなと思います。廃盤になってるCDの収録曲は新しいファンの方は聴く機会がなかなかないじゃないですか。なのでこういう“裏の歴史”があったということを残しておきたいし、自分で確認しておきたかった。これもB面集リリースの理由の1つだったりします。
みんなそれぞれの曲への思い入れが尋常じゃない
──この18曲の中で戸高さんがレコーディングに参加したものって、最後の6曲だけですよね。それ以外の12曲は戸高さんがバンドに加入する前の曲ですが。
戸高賢史(G) そうですね。だけどリスナーとして聴いてた曲ばかりですし、加入してからライブで演奏していた曲も少なくはないので、僕にとってもなじみ深い曲ばかりですね。
──戸高さんはART-SCHOOLに加入するまで福岡在住だったんですよね。その頃からART-SCHOOLのファンだったとお聞きしていますが。
戸高 熱心に追いかけていたわけではないですが、ART-SCHOOLがツアーで福岡に来るときにはいつもライブを観に行ってましたし、友達が熱心なART-SCHOOLのファンだったからCDを借りたりして、曲は全部聴いてましたね。
──自分がリスナーだった頃は、ART-SCHOOLに対してどういう印象をお持ちでしたか?
戸高 うーん……やっぱり木下理樹の描き出す世界観が全開なイメージでしたね。僕もリッキーと同じでフランス映画が好きで、レオス・カラックスの作品もよく観ていたので、その作品や世界観へのオマージュなのかなと思ってART-SCHOOLを聴いていました。心象風景にリンクしてくるような歌詞やメロディ、楽曲が自分にはすごくフィットしましたね。朝までコンビニでバイトして、その帰り道の冬の凜とした空気の中でART-SCHOOLを聴くのが好きでした。そういう情景と音像がマッチしていたんですよね。
──ART-SCHOOLのファンは楽曲に自分の心情や生活、人生を重ね合わせて聴いている人が多そうですね。
戸高 そうですね。だから僕はファン投票で選ばれたB面集の収録曲を見てすごく腑に落ちました。
──ファン目線から見ても納得できると。
戸高 「この曲が好きな人はたぶん多いだろうな」という曲が並んでますからね。ミニアルバムのリード曲じゃないものとかシングルのカップリングみたいな地味なポジションの曲だけど、なんか繰り返し聴いちゃうような曲たちがピックアップされてる感じがします。
木下 僕は投票に添えられたメッセージを読んで、とにかくみんなそれぞれの曲への思い入れが尋常じゃないことを知りましたね。もちろんここからは外れてしまった曲もいっぱいあるけど、その外れた曲でさえも、そこまで聴き込んでもらえていたことを知れたのはよかったです。
──なぜみんなそんなに思い入れが深いんでしょうか?
木下 うーん……僕の予想ですけど、死にたいと思ってた人のうち、2人ぐらいは思いとどまらせたんじゃないかなと(笑)。
戸高 実際、1人や2人は救ってるんじゃないですかね。
──これは偏見かもしれないけれど、日々の生活に深く満足して毎日悩みなく楽しく暮らしてるようなリア充の人は、ART-SCHOOLの音楽にのめり込むようなことは少ないかもしれないですね。
木下 そう思います。「SWAN SONG」(2003年発売のミニアルバム)を1万枚限定でリリースしたときに、アンケートの返信がどさっと届いたんです。しかも書いてある内容がどれも重い悩みばかりで……。
戸高 最近はSNSとかを見てると、今は逆にリア充の方が天然記念物扱いなのかなって感じちゃいますけどね。昔はSNSもなかったからアンケートにすべてを吐き出していたのかもしれない。
──なるほど。今回B面集を聴いて、改めてART-SCHOOLの曲は生きづらさを抱えている、特に若い人には響く歌なんだろうなと思いました。これで救われた人がたくさんいるんだろうなと。
木下 そうですね。でも音楽なんだから、普通に楽しく聴いてほしいなとも思いますけどね(笑)。
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- B SIDES BEST「Cemetery Gates」 / 2017年1月25日発売 / 2700円 / Warszawa-Label / UK.PROJECT / WARS-003
- 「Cemetery Gates」
収録曲
- ニーナの為に
- ステート オブ グレース
- 1965
- プール
- I hate myself
- レモン
- LILY
- SKIRT
- LOVERS
- MEMENT MORI
- JUNKY'S LAST KISS
- LUCY
- カノン
- LITTLE HELL IN BOY
- LOVERS LOVER
- それは愛じゃない
- その指で
- Ghost of a beautiful view
ART-SCHOOL B SIDES BEST「Cemetery Gates」発売記念インストアイベント
- 2017年2月18日(土)
- 東京都 タワーレコード新宿店 7F イベントスペース
START 21:00 - <出演者>
木下理樹(ART-SCHOOL) - 内容:弾き語りミニライブ&サイン会
- 2017年2月25日(土)
- 大阪府 FLAKE RECORDS
START 20:00 - <出演者>
木下理樹(ART-SCHOOL) - 内容:弾き語りミニライブ&サイン会
- 2017年2月26日(日)
- 愛知県 タワーレコード名古屋パルコ店 イベントスペース
START 18:00 - <出演者>
木下理樹(ART-SCHOOL) - 内容:弾き語りミニライブ&サイン会
ART-SCHOOL LIVE 2017 B SIDES BEST「Cemetery Gates」
- 2017年3月25日(土)
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- 大阪府 Shangri-La
- 2017年3月30日(木)
- 東京都 WWW X