メンバー同士、一触即発
──楽曲についても聞かせてください。アルバムは「笑えないや」という歌詞で始まる「イン・ザ・ミラー」、「描いた夢 以外 笑い飛ばせ」というラインがある「ビロード」でスタートします。
奈緒 曲順は起承転結を意識して並べました。家を建てるのと同じというか、最初に設計図を書いて、土台を作って、骨組みを組み立ててという順番ですね。制作しながら「このやり方は自分たちに合ってるな」と思いました。去年の9月から制作が始まって、レコーディングが今年6月で、リリースが8月なので、1年かかってるわけです。この間にメンバーの成長や変化もあって、バンドとしてかなりアップデートできましたし、当初に想定していた骨組みよりもさらによくなりました。
暁 制作中に「こういう音にしてほしい」というやり取りもかなり重ねました。5曲目の「瘡蓋」の没入感のあるサウンドもすごくいいなと思いますね。あと、アルバムの後半のさわやかな歌モノも聴きどころです。アルルカンとしてはあまりやってなかったので。
──「瘡蓋」「とどめを刺して」という超アグレッシブなロックチューンから、ポップな雰囲気の「FIREWORKS」につながる構成も印象的でした。「FIREWORKS」は暁さん以外のメンバーが歌詞を共作してますね。
奈緒 これも4人で作詞した経緯があるんですよ。5曲目の「瘡蓋」の歌詞が楽器隊の4人に向けられていて、それを読んだときに「なんだこれは。一触即発じゃねえか!」と思って。言われっぱなしじゃダメだから、アンサーソングを作ろうと思って4人で歌詞を書いたのが「FIREWORKS」なんですよ。さっき暁も言ってましたけど、ちょうどこの時期、けっこうメンバー同士が揉めることがあったんですよ。
──「FIREWORKS」の歌詞の冒頭が、「僕等は何故こんなに すれ違うのか」ですからね。
奈緒 「瘡蓋」の歌詞を読んで、突発的に出てきた感想をそのままぶつけました(笑)。すれ違うのがダルいというわけではなくて、そんなのは当たり前のことであって、そのことを踏まえたうえで、ファンも巻き込んでもっと広い景色を見に行こうという曲にしたかったんです。
暁 うん。
奈緒 「FIREWORKS」を作ったことで、いい効果もあったんです。リズム隊の祥平(B)と堕門(Dr)は普段自分たちに同調してくれることが多いんだけど、この曲の歌詞を書いたことで自我が芽生えたというか。実際、「FIREWORKS」の制作以降、バンドにこれまで以上の生命力が吹き込まれた感じがあって。制作はもちろん、インタビューだったり活動全般にフィードバックされているんですよね。もっと言えば、アルバムを作り上げたことでバンドが別物になった感覚もあるんです。それが「The laughing man」の一番成功した部分かなと。
──制作を通じてメンバー同士でぶつかり合ったことが、功を奏したと。
暁 「瘡蓋」の歌詞を書いてた時期は、精神的にドロドロでしたからね(笑)。前を向いて笑いたいという気持ちだけではなく、どうしても笑えない、前を向けないという部分も丁寧に表現したくて。それをやらないと先に進めないと思ったし、膿を全部出してしまおうと思ったのが「瘡蓋」なので。それに対して4人がアンサーソングを返してくれて……あまりにもさわやかな曲でビックリしましたけど、それを受けて「向日葵」という曲につながったんです。
──まるでドラマのような制作エピソードが出てきていますが、「君とあいだに」はファンとバンドの関係を歌ってるんですか?
暁 この曲もメンバーに向けて書いたんですよ、自分としては。歌詞に「君とのあいだには きっと かけがえのないモノがあって」とあるんですけど、それはメンバー同士でもあるし、ファンと僕らの関係性でもあるのかなと。
奈緒 僕はこの曲が一番好きです。普段はメロディで曲のよさを判断することが多いんだけど、この歌詞が送られてきたとき、めちゃくちゃいいなと思って。7月21日の生配信ライブ「シネマティックサーカス」でも演奏したんですけど、メンバーがみんな笑顔になりました。僕は歌詞を口ずさみながら演奏していて、「これ、俺らのことだな」と実感して。画面の向こうにいるファンと心がつながっていることも感じられたし、いろんなことがリンクしたというか……。コロナ禍になって、自分にとって大切なことを改めて見つめ直した人も多いと思うんです。アルルカンのファンには「このバンドにずっと付いていきたい」と思ってほしいし、そういうバンドでいなくちゃいけないなと。
暁 でも配信ライブでやってから急に好きになりました。1人じゃない、誰かがいるということを歌詞にしてよかったなと。
ツアーファイナルで思い切り笑ってやるんだ
──アルバム最後のタイトル曲「The laughing man」についても聞かせてください。この曲の歌詞が書けたことは、“笑いたい”と願っていた暁さんにとっても大きかったんじゃないですか?
暁 そうですね。本当にギリギリまで時間をかけたし、この歌詞を書くためには勇気が必要だったので。ただ、ライブがないですからね。言葉にしたのは僕だけど、しばらくはそれをかみ砕く時間が続きそうです。
──ライブで歌うまでは完成と言えない?
暁 はい。ぶっちゃけ、まだ心から笑えるようになってないんですよ。「笑ってやる!」とは思っているし、「The laughing man」の歌詞を書いてから、明るく振舞おうとした時期もあったんですが、まだまだ進行中ですね。
奈緒 「The laughing man」がまだ自分のものになっていないのは、暁本人がいちばんよくわかってると思います。一緒に曲を作っていて、「今のままじゃ嫌だから」という意思はすごく感じたし、「少しでも前に進みたい」という願いにも似た歌詞だなと。本来ならアルバムを引っさげたツアーをこれからやって、10月26日にLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)でファイナルがあって。「そこで思い切り笑ってやるんだ」という気持ちでいたと思うんですよね。ツアー自体は中止・延期になりましたが、ファイナルのLINE CUBE SHIBUYA公演だけはまだ残してあるので、そこで何を見せられるかということかなと。
──LINE CUBE SHIBUYA公演は、アルルカンにとって大きな意味を持ちそうですね。
暁 そうですね。今のところは生配信ライブを予定してます。前回7月21日に初めて生配信ライブをしたんですが、そのときも「お客さんが目の前にいる状態じゃないとライブとは言えない」「画面の向こうで見てくれてる人が居るのに“無観客”と呼ぶのはどうだろう?」そういった違和感の中から自分のやりたいことが浮かび上がって来たし、まだその続きがあるので、予定していたことをそのままやるんではなく今だからこそ観せたいものを、10月26日は届けたいなと思ってます。バンドが7歳を迎えるにふさわしい日にしたいと思うので、絶対に観てほしいですね。
──アルバム「The laughing man」が完成したことで、アルルカンの未来も切り開けたのでは?
奈緒 そうですね……。まず、これまで通りのライブがいつできるかは誰にもわからないし、何も保障されてない世の中になって。そういう話をすると「悲しい世の中だな」ということになるんですが、僕らとしては「負けねえぞ」という気持ちが強くて。ツアーは延期になりましたけど、LINE CUBE SHIBUYA公演もあるし、もっともっと上を狙っていこうと思ってるんですよ。僕らは日本武道館にも立てると思ってるんですよ、本気で。こんな時期だからこそ、上を目指さないと。
暁 今はメンバーといるのが楽しいし、野心に燃えているのもすごくいいことだと思っていて。僕は行き先には興味ないんですけど、もっと先の光景を見たいという気持ちはすごくあるんですよね。ヴィジュアル系以外のシーンとつながっていないし、この先の絵を描きづらいところはあるんですが、だからこそ前向きな気持ちで活動していくのがいいなと。
奈緒 うん。
暁 今って、どこにも正解がないじゃないですか。ライブをやるべきかどうか、どこまでお客さんを巻き込んでいいかも全然わからないし、答えがない。自分たちとしては、現状にすがったり、ありがたがるのではなく、未来を感じられる活動をするべきだなと。何を嫌って、何に惹かれているのかをしっかり示していきたいと思いますね。
──期待してます! DEZERTなど、近しいバンドともコミュニケーションを取ってますか?
奈緒 個人的に会うこともありますけど、ライブの振替などもあるし、どのバンドも自分たちのことで精一杯で。どこまでほかのバンドを巻き込んでいいかも、ちょっとわからないですからね。だからこそ、対バンをやると盛り上がるだろうなと思うんですけど。今は我慢の時期。またライブができるようになったときにスタートダッシュを決められるように、やるべきことをやろうと思います。
- 配信ライブ「シネマティックサーカス#003 -灯火-」2days
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- 2020年9月26日(土) 21:00~
- 2020年9月27日(日) 21:00~
- 生配信ライブ
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- 2020年10月26日(月) 東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)