ナタリー PowerPush - あらかじめ決められた恋人たちへ

池永正二が語る「DOCUMENT」劔樹人が語る「劔樹人」

金にならないことをとにかく苦労してやりたい

──あら恋のメンバーとして活躍する今の自分を見て、何か感じるものはありますか?

劔樹人

今回、吉野寿(eastern youth)さんが歌ってくれたり、フジロックに出たり、タワレコの「NO MUSIC, NO LIFE.」に使ってもらったり、ホントあの頃の自分に教えてやりたいですね。昔憧れてたことがいろいろ紆余曲折を経て30も半ばになって叶いだしている。続けてみるもんだな、って思ってます。周りに流されながら生きてきて、今までのいろんな出会いにすごく感謝してますね。だから最近、どうにかしてその恩返しができないかって考えてて。

──おお! というと具体的には?

僕はバンドマンとしては回り道が多かったんで、自分の経験が、今はあんまりうまくいってない人たちが勇気を出すきっかけになれないものかなと。まあ、そう言ったらちょっとおこがましい話なんですけど。例えば神聖かまってちゃんを聴いて勇気をもらってる子たちって、日常がうまくいかないことを悩んでることが多いんですよ。特に僕に一生懸命話しかけてくれるような子って。まあ男の子ばっかりなんですけど。

──昔の自分を見てるような感覚?

あーそうそう。ホントに「俺はだめだ」ってなってて。そういう子たちにとって、僕自身の経験が何か生きるヒントにならないかなと思ったりはします。

──「あの頃の自分」を助けるような気持ちですか。

そうですね。ただ、そのためにはどうしたらいいかはまったくわからなくて。とにかく気持ちはあるんですが……。あと今の自分がうまくいってるかって言われたら、果たしてどうだろうって感じもするわけです。現に全然お金ないですし。ミニストップでホットドック食べたくても、買うの躊躇するぐらいお金持ってないですから(笑)。昔の僕はフジロックに出ることが1つのゴールのように思ってたんです。「フジロックには出演者としてしか行かない」って決意すらしてたから、一度バンドを辞めたときは「あー、もう僕は二度とフジロック行かないんだな」って思ったし。それがフジロック出演があら恋で実現したときに「あ、これは別にゴールじゃないんだな、まだ人生が続いてくだけなんだよな」って思って。絶対これからもまたすごい大きな苦労が来ると思うんですよ。悲しいことがあるかもしれないし、体を壊すかもしれないし。だから今は自分が「成功する」ってことに何も期待してないですね。

──「これはまだゴールじゃないんだ」と思ったとき、「よし次のゴールに向けてがんばろう!」って考えになる人も多いと思いますけど、劔さんはどこか悲観的だし、自己処罰的ですよね(笑)。

そうですね。どこかに「すげー苦労したい」って気持ちがあるんですよ。幸せになりたくないっていうか。

──「幸せになるのが怖い」みたいな?

まあ、どうせ幸せにはならないと思いますよ(笑)。なんか、すんなりうまくいきそうな雰囲気になると不安を感じて、それが失敗に終わると「あー、やっぱりね」って納得がいくんですよ。もう体質的にそうなっちゃってるんです。いろんなお仕事をさせてもらって、順調にいってるように見えて、それでもお金が全然稼げてないっていうことがまず、自分としては「まあ、そういうもんだな」って感じで安心なんです。

──苦労したいと思っているから稼げないのかも。

まあ「金にならないことはやりたくない」どころか、むしろ「金にならないことをとにかく苦労してやりたい」って思っているところもありまして……。例えば鬼束ちひろさんとのニコ生は素人の僕が出たってそんなのうまく進行できるわけないから、ホントはイヤでしたよ。ネットで叩かれるし。あと最近はプロレスの仕事(DPGのプロデュース)がとにかく苦労しましたね。それでもやるしかないという。そんな中で言うと、あら恋はすごく楽しくやれてます。あら恋で苦しい思いをするとしたら、日頃の鍛錬、ベースの練習くらいなので。

自分はダメだと思ってる若い子たちのために

──いろいろなことを手広くやっていくのは大変そうですね。

劔樹人

最近誰かに聞かれたんですよ。「もし何か1つのことがうまくいったら、ほかのことをやめてそっちに専念するのか?」って。でも、たぶんそれはしないだろうなと思うんです。僕が今やっている仕事のうち1つがすごく儲かったとして、例えば仮にあら恋がものすごく収入のある活動になってそれだけで食えるようになっても、かまってちゃんのマネージャーもプロレスの仕事も辞めたいとは思わないです。「特別な何者か」になりたくて必死にもがいてた若い頃の自分が、紆余曲折を経て「なんだかよくわからない何者か」になれたのなら、これまでやってきたいろいろなことに対して筋を通したいっていうか、今の自分を作ってきたものを裏切るようなことはしたくないんです。ホントは1つのことだけを追求してる人のほうがカッコいいと思うんですけどね。僕は結局1つのバンドを長く続けることができなかったんで。

──でも、同じことを続けたまま次々新しいことにも手を出していくと、そのうち手が回らなくなるんじゃないですか?

そしたらまあ、遊びに行ったりしてる時間を削って、努力するだけですかね(笑)。今の自分のスタンスは崩したくないし。もしかしたらスケジュールのことで迷惑かけるかもしれないですけど、なんとかうまくやっていきたいです。あとやっぱり、あんまり器用になりたくないんですよ。杉作さんが50歳を過ぎてあんな感じなのを見てると、まだまだいけるなと思えるので。なんか上を見てるのか下を見てるのかわかんない話ですけど(笑)。杉作さんや周りにいる人たちの姿に、僕は美しさを感じるんです。僕は杉作さんみたいなホンモノじゃないので憧れの気持ちを持ってるだけですけどね。でも僕が杉作さんを見て奮い立たせられるように、自分はダメだと思ってる若い子たちに対して僕が何かのきっかけになれたらいいなと思っています。

"Dubbing 06" あらかじめ決められた恋人たちへ Release TOUR 2013

2013年9月22日(日)
京都府 京都METRO
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ / LAGITAGIDA
2013年11月1日(金)
大阪府 梅田Shangri-La
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ
2013年11月2日(土)
愛知県 池下CLUB UPSET
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ
2013年11月9日(土)
東京都 代官山UNIT
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ
2013年11月16日(土)
福岡県 天神graf
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ / LAGITAGIDA / チーナ / 百蚊 / Hearsays
2013年11月23日(土・祝)
岡山 YEBISU YA PRO(オールナイト)
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ / and more
あらかじめ決められた恋人たちへ
(あらかじめきめられたこいびとたちへ)
あらかじめ決められた恋人たちへ

1997年、池永正二(Track、鍵盤ハーモニカ)のソロユニットとして活動をスタートしたエレクトリックダブユニット。当時の池永の勤務先、大阪・難波ベアーズを中心としたライブハウスやカフェ、ギャラリーなどでライブ活動を開始し、2003年アルバム「釘」をリリースする。2005年のアルバム「ブレ」のリリースを経て、2008年に拠点を東京に移すと、クリテツ(テルミン、Per、鍵盤ハーモニカ)、元ズボンズのキム(Dr)、元ミドリの劔樹人(B)を迎えたバンド編成でのライブを積極的に展開。同年に3rdアルバム「カラ」を、2009年にはライブ音源をエディットしたフェイクドキュメンタリー的アルバム「ラッシュ」を発表する。そして2011年に全曲バンドレコーディングによる「CALLING」を発売。これと前後して“叙情派轟音ダブバンド”としてその名を広く知らしめ「FUJI ROCK FESTIVAL」「BAYCAMP」「RISING SUN ROCKFESTIVAL」「朝霧JAM」など、大型ロックフェスにも多数招へいされる。2012年、30分2曲のミニアルバム「今日」をリリースし、2013年9月には5枚目のオリジナルアルバム「DOCUMENT」を発表した。