ナタリー PowerPush - あらかじめ決められた恋人たちへ
池永正二が語る「DOCUMENT」劔樹人が語る「劔樹人」
ちゃんとゴールできるヤツなんてほとんどいない
──「CALLING」以降の池永さんの2年間ってポジティブなものでした? それともネガティブでした? というのも「DOCUMENT」にはどちらもが混在してますよね。「カナタ」「Res」というものすごく多幸感あふれる2曲から始まるんだけど、3曲目の「Conflict」はタイトルからして“衝突”しているし、“闘争”している。
音もハードですしね(笑)。
──ええ。で「テン」のような、音の質感はどこまでもクールなんだけど、曲が展開し続けるたびにテンションがアガり続けるミニマルダブもある。だからポジティブなのか、ネガティブなのか。それともフラットなのかな、って。
最終的にはポジティブなものを作りたいなとは思ってますね。もちろん「♪負けないで もうすこし」なんて話じゃないんだけど(笑)、オレらなりのポジティブ。負けてもいいんですよ。負けてもいいし、あきらめてもいいんですよ。でもまた人生は続いていくんで、そこからもういっぺんやったろう、って。だってウチのバンド自体そうじゃないですか。どっかしらでコケてる人間が多いので。人気者が1人も居ない(笑)。
──さっき池永さんが歌ったZARDの「負けないで」がテーマソングになっている「24時間テレビ」のマラソンは基本的にテレビの人気者=勝ち組が走るものだけど……。
ウチらは勝ちたいって思ってる時点で勝ち組じゃない(笑)。だいたい生きてるうちにちゃんとゴールできるヤツなんてほとんどいないし、何をゴールとすればいいのかだってよくわからないんですよ。そりゃオレ自身暗いことも言いますし、どっちかっていえば暗い側の人間やと思うんですけど、でもやっぱりぶつくさ言ってるだけじゃどうにもならんなって思うし。だから「DOCUMENT」の曲はそういう人への応援歌。……って言ってしまうと語弊があるかもしれないけど、後押しするものになればいいと思ってます。
「聴いて気が晴れてくれればいい。そんな感じで作ってます」
──「暗い側の人間」であるところの池永さんがポジティブサイドに憧れるきっかけって?
やっぱり3.11が大きかったですね。あの閉じこもってなあかん感じ、閉塞感ちゅうか、そうならなあかんのもわかるんですが、なんかそれが全体に漂いすぎてたような気がするんです。だからとにかく窓を開けて外に出ないかん、気分を転換せないかんってなって。それでライブをやったりとかしたんですけど。なんか震災前、「CALLING」を作ってるくらいから外には開いていってたんですが、それが発売直前の震災によってもっと外に開いたというか。あの閉塞感の真逆のもの、いや、閉塞感からのオープンなものを作りたいってハッキリ思えて。なんかおエラいさんが「まあいいでしょ」「大丈夫、なんとかしときますね」を積み重ねた結果、物事が悪い方向に進んでいくことがやっぱり腹立つし。
──でも怒りの鉄拳を食らわすような音楽は作らなかったんですよね。
うん。音楽で怒っても、なんか楽しくないっていうか。これも震災のときに思ったことなんですが、楽しむことがダメっていう余裕のない状況こそがホントにヤバいと思うんです。音楽くらい聴いて気分を入れ替えないと、次のいいイメージもでてきませんから。だったらウチらは外に出たいなって思えるものを。最終的にポジティブな音楽を作りたいって思うようになっていきました。
──怒らなくてもいいし、負けてもいい。確かにおっしゃる通りだと思うんですけど、なんであら恋はそういうあいまいな感情をちゃんと音にできるんですかね?
ウチら自体がずーっとあいまいだからじゃないですか。白黒付けないで、灰色のことばっかり考えてる。そしたら、そのうち灰色が濃くなって、ついには“ハッキリとした灰色”になっていったんだと思う。
──「ハッキリとした灰色」?
ハッキリした灰色ってのは、これに関してはおおむね黒だけど、その黒の中のこの部分は納得できないから白。黒と白が混ざってるんだから、総称すれば灰色なんだけど、どこが黒で、どこが白なのか、その成分に関してはハッキリしてるんです。あいつのあの部分は好きだけど、その部分は嫌い、みたいな。
──好きと嫌いがない交ぜになっててもいいじゃん、と。
ええ。わからないものはわからない、それが正解なんです。わかったフリするから、訳わからん方向へ行くんですよ。だから、あいまいな感情もその中身はハッキリしていて、その中身を丁寧に拾って1音1音積み上げていけば、そういった曲になるんやと思います。ひと言で伝わらないあいまいな感情でも、言葉を1つひとつ選んで時間かけて話しかければ、ちゃんと微妙なところまで伝わるのと同じなんちゃうかな。面倒くさがられるかもしれないけど。あとオータケくんとの対談(参照:LAGITAGIDA「TUTELA!!」特集)のときにも話したと思うんですけど、音楽ってものすごいややこしいモヤモヤした気持ちをノーマライズできる。理論やなぐさめじゃなく、リズムや爆音で気持ちが発散できる。そういうところが音楽の強みなんですよ。
──そうおっしゃってましたね。
寄り道したり、遠回りしたり、行ったり来たり。そういう一筋縄ではいかない人の感情みたいに、行く音、帰る音、それていく音、静まる音っていうのもあって。具体的にどの音がどの感情を指しているとは説明できないんですけど、それでも曲の中にいろいろな感情を指す音が1つずつ焼き付けていってるので。だから、うーん……。結局はそれを聴いて気が晴れてくれればいい。そんな感じで曲は作ってます。
ポジティブになれたのは自宅で曲を作るから
──そういう救済というか、気を晴らすための音楽ってどうやって作るんですか?
たぶん素直に作ればいいんだと思いますよ。人との会話も一緒で、相手が素直に話してくれたら、こっちも壁が1枚取れて気持ちが軽くなったりするでしょ。それと一緒でやりたい音をやればそれは伝わると思う。で、僕の場合、聞いたらアカンことまで聞いちゃうタイプなので。「家賃いくら?」とか。
──あはははは(笑)。
だから気になったらそれを音にすればいいし、そっちのほうが強いもんができると思う。あとはなんだろうな。環境もモロに影響してるのかもしれない。
──「環境」?
このあいだ冨田勲が初音ミクを使って音楽を作るドキュメンタリーを観てたら、軽井沢の別荘に機材を持ち込んで曲を書いてたんですけど、ウチは別荘がないですから(笑)。作業はほとんど、家。「CALLING」の頃に生まれた子供が3歳になって部屋中を走り回ってる横で曲書いてますからね。子供の中では、自分の走ってる道の途中に水たまりとか川があるらしくて「あっ、水たまり! ジャーンプ!」とか言って飛んだり、その川で獲ったサカナを「はいどうぞ」って手渡されるから「ありがとう。モグモグモグ」って食べたりして。そんな環境じゃやっぱり暗いもんは出てこない!(笑) そういう意味でも「DOCUMENT」なんですよね。
- ニューアルバム「DOCUMENT」/ 2013年9月11日発売 / KI-NO Sound Records / KI-NO 001
- [CD] 2600円 / KI-NO 001
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収録曲
- カナタ
- Res
- Conflict
- へヴン
- クロ
- テン
- days
- Fly
"Dubbing 06" あらかじめ決められた恋人たちへ Release TOUR 2013
- 2013年9月22日(日)
- 京都府 京都METRO
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ / LAGITAGIDA - 2013年11月1日(金)
- 大阪府 梅田Shangri-La
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ - 2013年11月2日(土)
- 愛知県 池下CLUB UPSET
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ - 2013年11月9日(土)
- 東京都 代官山UNIT
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ - 2013年11月16日(土)
- 福岡県 天神graf
<出演者>
あらかじめ決められた恋人たちへ / LAGITAGIDA / チーナ / 百蚊 / Hearsays - 2013年11月23日(土・祝)
- 岡山 YEBISU YA PRO(オールナイト)
<出演者>
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あらかじめ決められた恋人たちへ
(あらかじめきめられたこいびとたちへ)
1997年、池永正二(Track、鍵盤ハーモニカ)のソロユニットとして活動をスタートしたエレクトリックダブユニット。当時の池永の勤務先、大阪・難波ベアーズを中心としたライブハウスやカフェ、ギャラリーなどでライブ活動を開始し、2003年アルバム「釘」をリリースする。2005年のアルバム「ブレ」のリリースを経て、2008年に拠点を東京に移すと、クリテツ(テルミン、Per、鍵盤ハーモニカ)、元ズボンズのキム(Dr)、元ミドリの劔樹人(B)を迎えたバンド編成でのライブを積極的に展開。同年に3rdアルバム「カラ」を、2009年にはライブ音源をエディットしたフェイクドキュメンタリー的アルバム「ラッシュ」を発表する。そして2011年に全曲バンドレコーディングによる「CALLING」を発売。これと前後して“叙情派轟音ダブバンド”としてその名を広く知らしめ「FUJI ROCK FESTIVAL」「BAYCAMP」「RISING SUN ROCKFESTIVAL」「朝霧JAM」など、大型ロックフェスにも多数招へいされる。2012年、30分2曲のミニアルバム「今日」をリリースし、2013年9月には5枚目のオリジナルアルバム「DOCUMENT」を発表した。