音楽ナタリー PowerPush - Aqua Timez
すべては言葉とメロディのために
ヒトの成長を描き出す音たち
──インタビュー序盤、OKP-STARさんはアレンジには比較的悩まなかったと言っていましたけど、制作って全般的にスムーズでした?
mayuko いや。確かに全体的にはスムーズだった気はするんですけど「エルフの涙」は時間がかかりましたね。
──それはなぜなんでしょう?
TASSHI この曲って、同じメロディのかたまりを3回繰り返す構成になってる上に、最初は4拍子なのに最後8分の6拍子になって。しかも構成は同じなのに歌詞の中の時間はどんどん進んでいくし、その時間の経過について太志からのリクエストもあって……ね?
太志 うん。「エルフの涙」って子供が大人になっていく過程を歌ってるので、歌だけじゃなくて楽器でも人間の成長を描いてほしい。この曲の主人公ってラストのサビで完全な大人になるんで、その直前の間奏で大人にしてほしいって(笑)。
mayuko 「例えばこの曲ってそういう構成になってるよね」ってある曲を聴かされながら(笑)。
──その曲って?
太志 ショパンの「別れの曲」です。あの曲って基本的に美しい展開がずっと続いていくんだけど、途中一回混沌とするパートが挟まるじゃないですか。あそこってやっぱりスッゲー想像をかき立てられるんですよね。「何があったんだろう?」ってすごく気になる上に、ほかのパートと同じ美しさも感じられる。「ああいうことをやってくれよ」って言ったんです。
大介 で、その話を聞かされたオレらはスタジオで「別れの曲」をリピートしながら「……で、どうする?」と(笑)。
太志 スゲー大変そうだったよね?
──他人事(笑)。実際“どう”なさいました?
OKP-STAR 最初はメジャーで始まるんだけど、途中でマイナーに転調させて……。で、間奏で混沌に陥り、でも最後は晴れわたる、みたいな?
mayuko そうそうそう。最初にそういうざっくりした構成を楽器隊全員で共有してから、フレーズを固めていってみたんです。
太志 でも、それだけじゃダメだったよね(笑)。
mayuko うん。プリプロに1日かけて、その日の夜中にようやく「メジャーからマイナーに移って、その後1回混沌に陥って、また晴れわたる」っていうアレンジを完成させられたような気がしたんですけど、次の日別の曲のプリプロが終わったあとに「じゃあ昨日のもう1回聴いてみようか」って聴いてみたら「何これ?」って(笑)。
大介 そこには混沌だけがあったよね。ただのカオス(笑)。
mayuko そっからもう1回、慌てて作り直して。大ちゃんが私のピアノの横で指揮のマネをしながら「ここでもっと遅くなって!」みたいな指示を出したりしながら(笑)。
大介 あの曲、そんなにたくさんギターが入ってるわけでもないのに、なぜかオレまでスタジオにこもってタイムキーパーみたいなことをやって(笑)。
mayuko そうやってようやく作り上げたのがあの曲なんです。
太志 オレが言うのもなんだけど、ホントに諦めなくてよかったよね(笑)。
「エルフ」を信じる気持ちが巻き起こす作用
──その「エルフの涙」というフレーズはアルバムタイトルにもなっています。前作は「because you are you」。“なぜなら君が君だからだ”。けっこうリアリティのあるタイトルだったのに、なぜ今回はファンタジックなタイトルに?
太志 最近、絵本や童話の素晴らしさが気になっているからですね。絵本や童話って単に道徳的にいい話をしているだけじゃなくて、ちゃんと現実の残酷さや、ある一面の真実みたいなものも描いていたりするじゃないですか。
──特に名作と呼ばれる作品はそういう寓意を含んでいたりしますよね。
太志 ですよね。で、子供の頃って絵本の中にある残酷さや真実を正確には読み取れてはいなかったと思うんだけど、でも何かを感じ取ってはいたと思うんです。そしてその頃感じたもの、好きだったもの、信じていたものって今の自分にも作用しているんだろうなって思っていて。「エルフ」っていうのは、ある意味その象徴。実際にはエルフや妖精がいてもいなくてもいい。ただエルフに象徴されるような、それこそ絵本的なちょっとファンタジックで子供っぽい思いって誰もが抱えているはずなんですよね。であれば、そのエルフを信じる気持ちが作用して、聴いてくれるみんなの目の前にあるいろんな物事がいい方向に進んでいけばいいなって思ってるんです。
- ニューアルバム「エルフの涙」 / 2014年8月27日発売 / ERJ
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3900円 / ESCL-4265~6 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 3200円 / ESCL-4267 / Amazon.co.jp
CD収録曲
- アダムの覚悟
- イヴの結論
- ヒナユメ
- エデン
- オムレット
- 赤い屋根の見える丘へ
- 滲み続ける絵画
- ゴールドメダル
- hey my mem feat.OK.Joe
- Fly Fish
- The FANtastic Journey
- 手紙返信
- エルフの涙
初回限定盤 DVD収録内容
- 「エデン (lyric version)」「手紙返信」「ヒナユメ」のビデオクリップ
- 「エルフの涙」レコーディングドキュメンタリー
Aqua Timez(アクアタイムズ)
太志(Vo)、大介(G)、OKP-STAR(B)、mayuko(Key, Piano)、TASSHI(Dr)からなるロックバンド。2003年の結成後、東京を中心に活動を展開し、2005年発売のインディーズ盤「空いっぱいに奏でる祈り」がクチコミを中心に話題を集め、70万枚を超えるセールスを記録する。そして2006年4月にはミニアルバム「七色の落書き」でメジャーデビュー。さらに同年リリースのシングル「決意の朝に」「千の夜をこえて」が立て続けにスマッシュヒットし、その年の「NHK紅白歌合戦」にも出演する。以降、さまざまなジャンルを融合させた独特のサウンドと、琴線に触れるエモーショナルな歌声、メロディを武器に16枚のシングルと5枚のオリジナルアルバムをリリース。そして2014年8月、6枚目のオリジナルアルバム「エルフの涙」をリリースした。