「トッポ」みたいなバンドの有り様

──今回はaquarifaの楽曲を書いているメンバーにお話を伺っているわけですが、曲作りという点で変化はありましたか？

松川　前作は僕と真知が半々くらい作曲してたんです。で、そのとき真知はゆっくりとしたバラードみたいな曲を作ることが多かったんですけど、最近はわりと速い曲にも挑戦していて。

──はい。

松川　一方僕は僕で「月明かりのせいにして」が自分の中でやりたいことができたアルバムだったんで、今回はさらにそれを濃くしたものをやりたい！と思ってたらけっこう求めるものが大きくなっちゃって（笑）。それでうまくいかなくって。今まではわりと曲作ったら投げて「はい次！」っていけてたのに。

岩田　ふふふ（笑）。

松川　だから今回は真知が作った曲中心になってるんですね。それはすごく大きいと思います。アルバムには彼女の成長がすごく詰まってると思うんですよ。

──でも、先ほどおっしゃられていたように、aquarifaの魅力が異質なもの同士が両立する二面性にあるとしたら、その均衡が崩れるのはアンバランスな状態と言えるのでは？

松川　自分が作る曲と真知の曲、自分が思う激しいバンドサウンドと真知の声との戦いみたいに、今まではそういうイメージでやってましたけど。でも今回なんかは本当に真知が柱にいる感じなんですよね。打ち出したいサウンドとか音楽性とかもあるんですけど。対立じゃなくて覆うみたいな感じに自然と変わっていったんですよね。だからそこはむしろ……。

岩田　うん。

松川　逆にいろいろやりやすくなったのかもしれないですね。

──2つの要素が1つにまとまったと？

松川　そうですね。1つになる……って言ったらなんかすごいカッコいいけど（笑）。

岩田　ふふふ（笑）。でも1つになったっていうより、自分という柱の周りを覆ってもらう、みたいな状態になったんだと思いますね……お菓子の「トッポ」みたいな？

松川　「トッポ」て（笑）。

──ははは（笑）。

松川　でも、本当にそんな形かもしれないです。いずれにせよ僕は自分がやりたいものから「このバンドで自分ができること」に役割が変わっていくのかなって感じています。「こういうこともできるんだ」っていう新しい一面を知ったという感覚で。こういうボーカルがいて、それを踏まえて自分がいて、aquarifaっていうバンドがある。できること、面白いことをもっと追求したいなっていう姿勢になりましたね。

「マーニの秘密」の正体

──「マーニの秘密」は今まで以上にビジュアルコンセプトがしっかり練られた作品になっていますよね。オオカミに追われる北欧神話の月の神「マーニ」が用いられ、皆さんもウサギの面をかぶったアーティスト写真（参照：aquarifa、1年9カ月ぶりミニアルバム「マーニの秘密」で月の神に）だった時期もありましたね。

岩田　月のモチーフはもともとaquarifaがビジュアルコンセプトとして一貫して持っているもので。そこを起点にどんどん自分たちの世界を作っていこうと思ってるんです。だからタイトルも月にまつわるものにしたいと思っていて。

──なるほど。じゃあ「マーニ」案は楽曲よりも先に？

岩田　いえ、そこは違うんです。例えば2曲目「ex) Wonderland」には歌詞にウサギが出てきますが、別に月を連想して登場させたわけではなかったんです。

──どうリンクしていったのでしょうか。

岩田　歌詞を作りながらいろいろ調べていたら、月の神様・マーニっていう存在に行き着いて。自分なりに調べているうちにどんどんマーニの心情に興味がいって。「オオカミに追い掛けられるなんてどんな心情だったんだろう？」とか。でもマーニの心の中なんて誰にもわからないじゃないですか。

──確かに。

岩田　で、そこから「マーニだけじゃない。誰にでも言えることだな」って。自分の気持ちは自分だけの秘密だし。心の中はつまり“秘密”の一種だなって。そして、今作を聴いてくださった人が自分の気持ちを開いてくれたらいいなって思って、「マーニの秘密」っていうのを候補として持っていったんです。

松川　候補が5、6個あったんですけど。「マーニの秘密」だけ光り輝いていた（笑）。これはいいワードだねって思いましたね。

岩田　それに、1年9カ月という長い期間に何があったのかって自分たち以外にはわかりづらいと思うんです。「何してたの今まで？」って聞かれそうですよね（笑）。だからそれもある意味秘密の時間として、秘密の制作期間っていう意味で、アルバムを通じて皆さんに私たちの秘密が伝わればいいなって思いましたね。「こんなことしてたんだ」って。