Aqours 初の実写PV「DREAMY COLOR」クリエイター陣座談会|2021年、「ラブライブ!」シリーズの大きな挑戦を振り返る Aqours9人からのコメントも!

このPVはグローバルスタンダードになってほしい

東市 今回は楽曲も衣装も振り付けも皆さんチャレンジしてくださったんですけど、映像的にも一気通貫なクリエイティブをしてるんですね。例えば私服姿のメンバーが持っている羽にもグラデーションが付いていて、衣装と連動していたり。あと、最初に羽を持っている千歌ちゃんがいるのは、アニメのスクールアイドル部の部室のモデルになった部屋なんです。その部室から思いを乗せた羽を皆さんに届けるという隠しテーマがあって。

──「DREAMY COLOR」は1番のA、Bメロを2年生(高海千歌、桜内梨子、渡辺曜)が、2番のA、Bメロを1年生(津島善子、国木田花丸、黒澤ルビィ)が、Dメロを3年生(松浦果南、黒澤ダイヤ、小原鞠莉)が歌うという構成になっているのもいいですね。

岡嶋 畑(亜貴)先生から歌詞をいただいた段階で音楽プロデューサーさんで歌い分けを考えたようで、千歌ちゃんから始まって、途中で曜ちゃんが入ってきて、梨子ちゃんも……という、Aqoursに加入した順に歌っているそうです。

東市 さっきMEGさんがおっしゃったように、このPVはグローバルスタンダードになってほしいという思いがあって、韓流の撮り方をしているんですよね。一般的な日本のPVって、シチュエーションが3つぐらいしかなくて、その3つを行ったり来たりするんです。一方、韓流のPVはシチュエーションが9個も10個もあって、戻らずにどんどん進んでいく。この「DREAMY COLOR」も後者の撮り方をしていて、沼津の風景を何カットも見せつつ、1サビは体育館、2サビは砂浜、ラスサビはボリュメトリックビデオというCGの世界になるという展開で、同じシチュエーションは繰り返さない。

MEG なるほど。歌い出しから新鮮に映ったんですけど、そういう狙いがあったんですね。

東市 ただ、K-POPアイドルのダンスって基本的に前後の移動が多くて、みんながカメラ目線でパフォーマンスできるようになっているんです。でも、Aqoursのダンスは左右の移動もあるし、センターも目まぐるしく変わる。それだと当初予定していた前後移動の編集ができないと撮影中に気付いて、急遽横軸のカメラの動きも取り入れたんです。ゆみ先生がチャレンジしてくださった素晴らしいダンスでしたので、しっかりお見せしたいなと。

石川 うれしい。なんでそれ現場で言ってくれなかったんですか?(笑)

一同 (笑)。

東市 あと、細かいことなんですけど、手の動きとかも全部、曲のBPMやリズムに合わせて映像を切り刻んでタイミングを変えているんです。音に合わせてスローを30%かけて、ある時点で120%に加速させて音楽的な爽快感に映像的な爽快感をフィットさせるみたいな。もちろんダンスシーンには手を加えていないんですけど、それ以外のシーンではそういうことをしていて。カットとカットのつなぎにしても、前後のカットを半透明にして重ねて、サイズを合わせて、シームレスに見せるためにフレーム単位でカメラワークを微調整しているんです。

石川 そういう細かい作業が視覚的な快感につながっているんですね。最後のボリュメトリックのライブシーンも興奮しました。

東市 そこは時間をかけたかったので、チェック映像のCGパートがいつまで経ってもグリーンバックのままなんで皆さんがかなりざわつかれたと伺っています(笑)。

岡嶋 完成版を観たとき、まさかあんなにスケールが大きい映像になるとは思わなかったです。

東市 ボリュメトリックという技術は対象を360°撮影してフルCG人間みたいなのを作っちゃうので、本当にライブでお客さんと一体になっているようなスケール感で編集できました。そこで一番大事なことに気が付いたのは音楽プロデューサーさんで、「映像に歓声を入れよう」と言ってくれたんです。おかげで臨場感もすごいことに。納期の5日前ぐらいにようやく全体像が見える映像をお送りしたんですけど、音楽プロデューサーさんが映像のスケール感と音楽のスケール感の違和感を感じたそうで、何が足りないんだろう?ってずっと考えてたようです。ちょうどそのとき、2020年に行ったAqoursオンラインライブの編集作業を並行していたそうで、お客さんの歓声ボリュームをいじっているときに、「DREAMY COLOR」に歓声がないから違和感があるのかも?と急遽、歓声追加の提案をいただきました。ちなみにあの歓声はAqours 4thライブの東京ドームに来てくださったお客さんの歓声だそうです。

岡嶋 スタッフで作ったLINEグループでも「いいですね、やりましょう!」「でも間に合いますか!?」「間に合わせます!」みたいなやりとりが行われていて、かなりスリリングでした(笑)。

切なさを忍び込ませたDメロ

──ちょいちょいお話にも出ていますが、沼津での撮影で印象に残ったエピソードなどはありますか?

東市 沼津では3月~4月で2回撮影したんですけど、とにかく寒くて(笑)。特に夕暮れの砂浜で3年生の果南ちゃん、ダイヤちゃん、鞠莉ちゃんが歌うシーンは風が強すぎて髪の毛が顔にバッサバサかかってしまうので、倍速リップというのをやったんですね。要は、楽曲を早送りで再生して、早口でリップシンクしてもらったのを、あとからスローモーションにするんです。小宮さんがこの倍速リップがめちゃくちゃ上手で、普通は1.5倍速ぐらいでしかできないんですけど、2倍速で歌ってくれました。

岡嶋 Dメロのところですよね。あそこで3人がランタンを持っているのも素敵。

東市 テレビアニメ1期の第6話で、3年生が加入する前の、メンバーが6人だったときにPVを作る回があって、そこでランタンを使うんですよ。それを、アニメではいなかった3年生がやるというのもグッとくるんじゃないかと思って。そう、この曲って、まさにDメロの「ミライの色が変わる 変わってもきっと」という歌詞のところでボサノバっぽくなるというか……ジャンル的なことはよくわからないんですけど、それがめっちゃ新しく感じたんですよ。

岡嶋 私もあそこはお気に入りなので、そう言っていただけてうれしいんですけど、ジャンル的に何になるんだろう?

MEG なんなんでしょうね?

一同 (笑)。

岡嶋 たぶん、私たちは2人とも陰キャなのか、爽快感がある曲の中でもどこかで切なさを忍び込ませてしまうというか(笑)。そこで儚げだったり物憂げだったりする表情を見せてほしいと思っちゃうんですよね。「今までのAqoursがシングルの表題でやってこなかったような大人っぽさみたいなものを出せたら素敵だよね」って2人で話してもいたので、Dメロはチャレンジパートと言えるかもしれません。

東市 ここって、表情とか雰囲気も含めてアーティストの表現力が極めて重要になるんですけど、3年生の3人がばっちりキメてくれました。

MEG たぶん、ボサノバっぽく聞こえるのは、ウクレレでアルペジオを弾いているからでしょうね。ガットギターの音に近いから。あと、ダンスミュージックのトラックにはある程度マナーみたいなものがあって、あのBPM感で半分に落とすとなると、レゲトンやムーンバートン、それかヒップホップとかに限られてくるんです。その中で「切ない感じでレゲトンしたらどうなるんだろう?」と遊び感覚で作ってみたら、結果的にああなったという。

東市 あそこはラスサビを爆発させるためのパートでもありますよね。

MEG 映像的にもラスサビに入った瞬間、一気に視界が開けるじゃないですか。あの静と動の振れ幅がすごすぎて僕、泣いちゃいましたもん。

9人全員が並んだときにどう映るか

東市 寒かったといえば、9人でジャンプするラストシーンも、夕日が沈みかけるタイミングをずっと海辺で待っていたんですけど、みんな歯がガチガチガチガチ鳴り出しちゃって。ロケバスまで戻ると日が落ちちゃうかもしれないから、「もうちょっとだけ粘ろう」と言いながらがんばってもらって。スタッフさんも「みんなありがとう。ここまでで終わりにしよう」って喉まで出かかってたそうですけど……。

石川 おかげでめちゃくちゃいいシーンが撮れましたよね。

東市 今回は奇跡のショットがいっぱい撮れて、例えばダイヤちゃんと鞠莉ちゃんが行ったホテルオハラ(小原鞠莉の実家のモデルとなった淡島ホテル)から富士山が見えたり。富士山をバックに撮れるのは珍しいらしくて、しかも当日は雨の予報だったのに、天気も味方してくれたんですよね。ちょうど曜ちゃん役の斉藤(朱夏)さんが「ズームイン!!サタデー」のお天気キャスターを担当していた時期だったので、そのおかげかもしれないって。「さすがお天気キャスター! 晴れたね!」って言ってました(笑)。あと、たまたま長井崎小中一貫学校の敷地内に桜がきれいに咲いていて。そこで、そういえばヨハネ(津島善子)ちゃんは初登場シーンで桜の木から現れたんだよなと思って、アドリブで彼女のカットを撮ったんですよ。

岡嶋MEG へえええ。

東市 そうやって、例えば図書室では花丸ちゃんとルビィちゃんが出会っているとか。アニメを観ていた人が観ればわかる感じの雰囲気にしたくて。

──スクショを400枚撮ったのは伊達じゃないですね。

東市 とはいえ、ただの聖地巡礼ビデオになったらダメだから、そこにはちゃんと自分なりの意味合いやストーリーがあって。それをつないでくれたのが羽であり、羽と連動していた素晴らしいグラデーションの衣装なんですよね。

TAKUTY Aqoursに関わるのは初めてだったんですけど、例えば私服衣装にしても、アニメのメンバーに寄せればいいのか、それとも個々のキャストの好みに合わせればいいのかとか、けっこう迷ったんですよ。結果として、フィッティングのときに各キャストとしっかりお話ししたうえで、沼津の街で画として成り立つポイントを探りました。演出と一緒で、あからさまに意図が見えすぎてもダメというか、それぞれの衣装からちょっとずつ何かを感じ取れる程度の塩梅を目指したんですけど、なかなか大変でしたね。

石川 私服衣装も素敵でした。

──ベタにイメージカラーでそろえていないというか。

TAKUTY まったく寄せていない人もいれば、ちょっと寄せている人もいて、そこは全体のバランスですね。ダンスシーンの衣装もそうなんですけど、単体で見たときはもちろん、9人全員が並んだときにどう映るか。なので、一般的なアイドルの衣装を作るときはどの角度からどう切り取ってもかわいく見えるように作るんですけど、今回は必ずしもそうではなくて。あくまで全体の画として観てもらうことを大事にしました。今回のスタイリングが彼女たちにとってフレッシュな体験になっていればいいなと。今後、きっとアーティストとしての衣装の見せ方や着こなしというものにもより自覚的になっていくでしょうから、どんな色が付いていくのか楽しみですし、またそのお手伝いができればうれしいです。

このPVが完成したのは、沼津の方々のおかげ

──石川さんは「ラブライブ!」ファミリーの一員ですが、実写PVの撮影はいかがでしたか?

石川 彼女たちと関わるのは主にライブのときなので、いつもステージでの立ち位置を守るように教えているんですね。だいたい90cm幅で0、1、2、3、4と番号を振るんですけど、1と2の中間の1.5や1.75という場合もあるので「いや、そこは1.75じゃなくて1.5だから」とか、かなり厳しく言うんです。でもPVは正面からだけじゃなくて、いろんな角度から撮ってもらえるので、撮影で「今は気にしなくていいよ!」という瞬間もあって。

東市 特に砂浜は位置がつかめなくなるんですよね。地面が平らじゃないから踊りにくくもあって。

石川 立ち位置を気にするよりも、この砂浜で踊っているからこそ生まれる表情を見せてほしいなと。だからいつもと言ってることが違うけれど、そういうセッション的な感覚は新鮮でした。初めての実写PVということで、監督も撮影チームも初めましての方々だったんですけど、ダンスも堂々と、いつも通りの雰囲気でできていましたね。

東市 そうだ、今日どうしても言いたいことが1つあって。このPVが完成したのは、沼津の方々のおかげです。体育館や図書室、音楽室などを快く使わせてくださった長井崎小中一貫学校をはじめ、あわしまマリンパーク、淡島ホテルなど、アニメの舞台になったロケ地で気持ちよく撮影できました。すごかったのが、東海バスですよね。バスの車両を貸切で使わせてくださって。しかも、路線変更の影響で電光掲示板の「大瀬岬行き」表示と、「長井崎中学校」のバス停が2021年3月いっぱいでなくなることが決まっていたんですけど、撮影ではアニメ放送当時と同じ、いわばオリジナル版を用意してくださったんですよね。

石川 あの表示もバス停ももうないけれど、PVの中には残っているんですよね。愛があるなあ。「お帰りなさい」と言ってくださる方もいたそうで、本当に温かいですね。

東市 今、こういう世の中でAqoursが心の支えになったという人はたくさんいると思うんですよね。そういうエンタテインメント、あるいは表現というものをどんどん広げていけるように、毎月でもPVを撮らせてほしいです(笑)。

東市篤憲(トウシアツノリ)
東市篤憲
映像プロデューサー。クリエイティブプロダクション・A4Aの代表取締役。BUMP OF CHICKEN、GLAY、乃木坂46、ONE OK ROCK 、BE:FIRSTなど、数多くのアーティストのミュージックビデオを制作。2016年に「SPACE SHOWER MUSIC AWARDS」で「BEST VIDEO DIRECTOR」を受賞した。
岡嶋かな多 / Kanata Okajima (オカジマカナタ)
Kanata Okajima
作詞作曲家 、音楽プロデューサー。BTS、嵐、安室奈美恵、King & Prince、TWICE、NiziUをはじめ、通算500曲以上の作品の制作に参加、提供。オリコン1位の獲得は100回を超える。2017年に作詞作曲を務めた三浦大知「EXCITE」でレコード大賞優秀作品賞を受賞。2020年には、作詞を務めたSnowmanが歌う「Kissin' My Lips」、2021年には「Crystal Snow」が収録されたBTSのベストアルバム「BTS, THE BEST」がともに売り上げ100万枚を超え、2年連続でミリオンセラーソングライターとなる。
MEG(メグ)
MEG
作曲家、編曲家、音楽プロデューサー、レコーディングエンジニア。ARTEMAの元ボーカリスト。SixTONES、BABYMETAL、ゆず、Da-iCE、THE ORAL CIGARETTES、さなりなど数多くのアーティストの作品に携わっている。
石川ゆみ(イシカワユミ)
石川ゆみ
振付師、ダンサー。ももいろクローバーZの振り付けを担当し、2012年に発表された楽曲「サラバ、愛しき悲しみたちよ」で「MTV Video Music Awards Japan 2013」の「最優秀振付賞」を受賞した。μ'sやAqours、スフィア、小倉唯といったアーティストの振り付けを手がけている。
TAKUTY(タクティー)
TAKUTY
スタイリスト。2013年よりLUCKY STARに所属している。「ヘビーローテーション」をはじめとしたAKB48の数々の代表作や、乃木坂46、私立恵比寿中学の作品の衣装を担当している。

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