ナタリー PowerPush - Applicat Spectra
音作りから紐解くスペクタクルな世界
レコーディングは勝負の場
──1音1音に説得力を出すってことは、つまり1人でも欠けたらこの音は生まれないってことですよね。
全員 (顔を見合わせて)ふふふ…。
ナカノ えっと、僕がよく言ってるのは……「代わりはいくらでもいる」。
──先生、厳しい!(笑)
ナカノ そのくらいの気持ちでやりたいなと。
ナカオ だからアレンジを作るときは勝負ですよ。「デモに入ってない音を考えて」って言われたときは、ものすごく神経を使う。レコーディングの現場ですぐアレンジが出てこなかったらいけないから、自分の引き出しをあらかじめ増やしておかないとダメなんですよね。でもそれが最近楽しくて。
ナカノ レコーディングでは、僕がいないと「あわよくば!」って思ってるでしょ(笑)。僕がちょっと現場を離れると、無駄にエロいギターを弾いたりとかしてるんで、気が抜けないんですよ。
ナカオ うん、思ってるよ。「あわよくば」って(笑)。ほんとにせめぎ合ってます。
──じゃあレコーディング現場の空気はピリッとしてそうですね。
イシカワ うん。勝負の場ですから。
ナカノ でもすごく楽しいんですよ。まあ僕はシンセデータを家でも作らなきゃいけないので、常に眠気とも戦ってますけど(笑)。
音を増やして、楽器を減らしたい
──今後、新しい楽器に着手しようというアイデアは?
ナカノ いや、楽器は減らしたいです(笑)。これまでは必要だから増やしてきたけど、今はもう早くPCで鳴らしたい。
──それはひとつの楽器に集中したいということ? それとも、もっと音を増やしたい?
ナカノ どっちもですね。楽器を増やすと、そのぶん手が回らなくなることもあるので、減らしたい。
──なるほど。そのへんは柔軟に変わっていきそうですね。ちなみにスタジオを離れた普段の会話はどんな感じなんですか?
ナカノ 普段はエッチな話ばっかりです(笑)。あと最近は、みんな引っ越したので、一人暮らしならではの話が多いかな。
イシカワ どこのスーパーが安いとかね(笑)。
曖昧な言葉のほうが伝わる
──では、1stアルバムを作り上げて気付いたことはありますか。
ナカノ 僕は、ボーカルとしての腕が足りなさすぎるなと。歌うことに関しては、まだまだ先が長いというか、もっといろんなものが歌に込められるようにならないと。今はまだ気持ち良さともどかしさが入り交じってますね。
──ナカノさんは以前「メッセージは受け手の解釈に委ねたい」と言ってましたが、歌を通して伝えたいことは明確にある?
ナカノ そうですね……そんなに具体的じゃないけど……ちゃんと考えて生きられるようになろうというメッセージは伝えたいかな。例えば、つらいことをどうやって乗り切るか。答えのないものをどう納得するか。そういうことを自分で考えられるようになりたいと思ってるし、それをお客さんに向けて歌ってるというか。
──歌詞には「宇宙」「時間」「生命」といった目には見えないものが多く出てきますね。
ナカノ 曖昧なもののほうが、聴いてる人がイメージしやすいと思うんです。だから名詞ひとつにしても、その単語が歌詞にふさわしいかどうかは、こだわって考えます。たとえば「ドライヤー」っていう単語は使えない感じがするな、とか。
ナカオ 「ティーポット」はギリギリだな、とか。
イシカワ そうそう、「ティーポット」は使えるかどうか話し合ったよね。
──なんとなくわかります。例えば「ペットボトル」は具体的すぎるからダメですよね。
ナカノ そう、まず歌詞として使える言葉のラインがあって、そうなると曖昧なものごとで表現するのが一番ぴったりくるなと。まあ僕は、元々妄想が好きだったし、そういうことを考えて少し救われた部分があって。
──その妄想を音楽にしてみたいと思った?
ナカノ いや、妄想を形にしたいというより、まずは音楽を作りたかった。そこに言葉が必要となれば、自分が言えることはこれだって感じで。
──ナカノさんがそれほど音楽に惹かれるのはなぜでしょう。
ナカノ それは……音楽を好きになって、自分のことを好きになれたから。音楽だったら自分にもできるんじゃないかと思って、実際に作ってみたら、できることが少しずつわかってきて。それでちょっと自分を認めてあげられたところがあった。それまでは将来、自分が何してるのかずっと不安でした。
「自分の出したいキラキラはこうじゃない」
──アルバムの最後を飾る「イロドリの種」には「救いの手」っていう言葉がありますけど、ここに音楽に対する姿勢が出てるのかなと。
ナカノ そうですね。この曲は、気付いたら自然にできたんですよ。本当はアルバムのタイトルにも「イロドリ」って言葉を使いたかったぐらい、バンドのテーマになってる曲です。
──音がキラキラしていて、高揚感や浮遊感を誘われる感じがあります。
ナカノ やっぱり僕は、こういう音が好きなんですよね。ただ、「キラキラしてる」っていう音の表現は、世の中にわりとあるじゃないですか。でも僕はずっと、そういう音楽を聴きながら、「自分の出したいキラキラはこうじゃない」っていう感覚がありました。
──ピュアなだけじゃつまらないと思った?
ナカノ うん、なんかもうひとつ上の、神々しさみたいなものを含んだキラキラしたものを作りたかった。THE BEATLESも後期では宇宙のことを歌ったりしてるじゃないですか。なんか音楽って、結局はそういうところに向かっていくのかな……とか思ったりしてます。
──そういう抽象的でスケールの大きなものに向かっていく怖さは?
ナカノ 全くないです。むしろその怖さを、これからいい感じに出していきたいです。
Applicat Spectra ONE MAN LIVE
「SPECTACLE ORCHESTRA」
- 2012年4月30日(月・祝)東京都 WWW
OPEN 17:00 / START 18:00 - 2012年5月12日(土)大阪府 OSAKA MUSE
OPEN 17:30 / START 18:00
チケット一般発売日:2012年3月24日(土)
Applicat Spectra
(あぷりきゃっとすぺくとら)
2010年8月に大阪にて結成された、ナカノシンイチ(Vo, B)、ナカオソウ(G)、イシカワケンスケ(G, Syn)、ナルハシタイチ(Dr)からなる4人組。フロントマンの3人が2つ以上の楽器を駆使しながらパフォーマンスを行うスタイルが注目を集めている。エレクトロとギターロックを軸にした、壮大かつドリーミーなサウンドスケープが魅力。2012年4月4日にA-Sketchよりメジャーデビューアルバム「スペクタクル オーケストラ」をリリースする。