ナタリー PowerPush - 坂道のアポロン
菅野よう子、小玉ユキ、渡辺信一郎 現場では聞けなかった質問交換会
映画に例えるとドキュメンタリー
──では作品のことについてお聞きできたらと思うのですが。渡辺監督と組むことには、菅野さんにとって醍醐味というか、ほかとはちょっと違う特別なものってあります?
ありますね。ナベシン(渡辺監督)は音楽と映像のマッチングのさせ方がクールなので、こちらが例えば仮にすごくダサい曲をあげたとしても、上手にカッコよく使うんです。だから私が好きなように書いても大丈夫っていう安心感があって。
──多分、監督も菅野さんならこういう変化球を投げてくるだろう、という予測はしているんでしょうね。「坂道のアポロン」に関しては、どういうふうに音作りを進めていってるんでしょう?
今回の音作りは映画に喩えると、“ドキュメンタリー”なんです。今まで私は“ファンタジー”を撮っていた監督だったと思うんですね。何もないところから構築したり、きちんと譜面を書いて、そのとおりにやってもらうという手法を取っていたんです。それが今回は、主人公2人と同世代の若いピアニストとドラマーが、本当に初めて会って、初めてセッションをしているところから録ってるんで、ドキュメンタリー。もちろんお互いがどういう感じかわかんないので、音楽で会話をしますよね。そうすると、「お前ちょっと違うんじゃないの」とか「グルーヴしてないじゃん」とか、そういうお互いの葛藤とか会話とかが、音楽の中から聞こえてくるんですよ。それをそのまま録っている感じ。
──それは「アポロン」の作品世界を考えた上で、今回はその手法がいいだろう、と?
私がジャズってよくわかんないので、「こう弾きなさい」って成熟したプレイヤーにやってもらうより、本当にジャズを好きなその世代の若者がやったほうがいいと思ったんですよね。しかもあんまりいろいろ考えてない、「こうでしょ!?」ってバンバン弾いちゃう若気の至りみたいなのとか、やり過ぎちゃう感じとか、年を重ねた人には出せないキラキラした感じがあるんですよ。
──まさにドキュメントですね。
そうなんです。録った曲を時系列で並べると面白いんですけど、「ほんとはこの曲を最初に録った」「これは1カ月後」っていうのはあんまりない。ほんとにドキュメンタリー。
ジャズだけど、若くて、青春で、ピチピチ
──今回、菅野さんはオープニングとエンディングの楽曲もプロデュースされているので、そのお話も。まずオープニングはYUKIさんです。
まさか受けていただけるとは思ってなかったです。ダメ元でお願いしたらやっていただけるって。
──菅野さんからのオファーだったんですね。
はい。YUKIさんはこのアニメの世界と合うなと。私の勝手な思い込みなんですけど、ジャズってちょっと夜っぽいというか、酒場でタバコの匂いがするような感じがある。でもこの薫と千太郎って、そうじゃない。夜に酒場で演奏してるシーンがあっても、そうじゃないですよね。すごく若くて、青春で、ピチピチしていて。
──淳兄はそうですけど、この2人は違いますよね。
その夜くさい感じを払拭したかったんですよね。青春の感じが表せて、友情とか、前向きさとかがある。で、音楽によって救われたこの2人の話にぴったりな人は誰か。私が勝手に思い込んでるのは、YUKIさんって音楽によって救われているといったら言い過ぎかもしれないですが、音楽によって生きている方だなと思っていて。
──まさにぴったりですね。
YUKIさんは音楽が大好きだっていうことにてらいがなくて、「大好きなのー!」って叫んじゃう感じじゃないですか。そういうところがそのまま音楽になったらいいなと思って、ドライブしていく感じとかを表現してみました。とてもフィットしてると思います。
──一方、エンディングは秦基博さんです。
秦さんはもう声が圧倒的にいいじゃないですか。アニメの目線は基本的に薫くんなので、結局この薫くんの心の震えとかを最後に表現できたらいいなと思っていたんですけど、それを表現する声はもう秦さんだな、と。
──あのボーカルでエンディングを締めるというのは、すごく納得がいきます。
多分、秦さんでエンディング曲っていうと、「ああ、こんな感じ」っていうのがあると思うんですが、それをもうちょっと超える、いい曲が書けました。おふたりとも自分の世界があるので、もっとこう歌ってとかそういう注文はなく、録音自体はいつになく楽でしたね。
──今、大成功みたいな顔をされてるから、間違いないんだろうなと思います。
すごくいい曲ですよ。楽しみにしててください。
オンエア情報
初回放送:2012年4月12日(木)25:10~
以降毎週木曜24:45~フジテレビ「ノイタミナ」にて放送。ほか各局でもオンエア。
原作:「坂道のアポロン」小玉ユキ(小学館「月刊flowers」連載)
監督:渡辺信一郎
脚本:加藤綾子・柿原優子
キャラクターデザイン:結城信輝
総作画監督:山下喜光
音楽:菅野よう子
アニメーション制作:MAPPA/手塚プロダクション
2009年「このマンガがすごい!」オンナ編で堂々No.1に輝いたマンガ「坂道のアポロン」を、アニメ業界随一の音楽通で知られる渡辺信一郎監督が渾身のTVアニメ化!さらに、映像音楽業界で第一線を走り続ける菅野よう子が作品の音楽をトータルプロデュース!ジャズの名曲と共に、60年代のどこまでも純粋で眩しい青春がよみがえる!
収録楽曲
1. KIDS ON THE SLOPE / 2. Chick‘s Diner / 3. Moanin‘ / 4. Bag‘s Groove / 5. Blowin' The Blues Away / 6. Satin Doll / 7. YURIKA / 8. Rosario / 9. Curandelo / 10. Transparent / 11. Run
CD収録曲
- アルタイル
- アルタイル<backing track>
初回限定盤収録内容
Music Video収録DVD
初回盤/通常版共通特典
小玉ユキ先生 描き下ろし「坂道のアポロン」オリジナル・ジャケット仕様
菅野よう子(かんのようこ)
早稲田大学在学中、てつ100%のメンバーとしてCBSソニーよりデビュー。同バンド解散後、CM、アニメ、映画、ゲーム、ドラマなどの作編曲を中心に幅広く活動。代表作はアニメにおいては「カウボーイビバップ」「攻殻機動隊S.A.C」「マクロスF」「創聖のアクエリオン」「MEMORIES~彼女の想いで」ほか、映画では「SURELY SOMEDAY」「ハチミツとクローバー」「下妻物語」「tokyo.sora」ほか、CMではコスモ石油企業広告、資生堂、docomo、UNIQLO、googleなどをはじめ、手がけたCM音楽作品は1000以上に及ぶ。 またアーティストへの楽曲提供、プロデュースワークでは、SMAP、坂本真綾、今井美樹、小泉今日子、加藤登紀子、Crystal Kayなど。国内外問わず高い評価を得ており、アメリカ、中国、フランス、ブラジルなどからも数多くの支持を集めている。2012年、NHK東日本大震災プロジェクトでの震災復興支援曲「花は咲く」の作曲を担当。