ナタリー PowerPush - aoki laska
平松泰二と二人三脚で作った「it's you」
「野獣のように歌ってくれ」
──完成されていると思った彼女の個性も、まだまだ引き出しがあったと。
平松 そうなんですよね。まだまだいろんな可能性があった。
aoki 「もっと力を抜いて歌ってみよう!」とか言われて(笑)。
平松 もっと心を解放して歌えよ、と。レコーディング中って神経質になっちゃうんですよ。音程とか気になっちゃって、すごく歌が固くなっちゃう。芯が通ってない声になって。
──慎重になっちゃう。
平松 そうです。“置きに行った歌い方”になっちゃう。それが嫌だから、もう「野獣のように歌ってくれ」と(笑)。
aoki 「適当にやれ!」とか言われた(笑)。
平松 あれこれ考え込むとそれが歌に出ちゃう子だから、もっと解放的に、アバウトにやっちゃうぐらいでいいよと。
aoki で、やりながら発見もあったんです。
平松 「kiseki」とかね。途中で歌い方がわからなくなっちゃって。でもそんな考え込むような歌じゃないし、難しい曲でもないから、もっと野獣のように、音程なんか気にしないで好きに歌ってくださいと(笑)。
──さっきの例と同じで「野獣のように歌ってくれ」とある種極端な指示を出すことで、ちょうどいい塩梅になると。
平松 そうですね。それも計算に入ってます(笑)。
aoki あははは!(笑)
経験や時間が必要だった
──aokiさんはご自分の個性はどういうところにあると考えてますか?
aoki 自分が思っていることはあっても、ほかの人がどう思うかはわからないですね。他人に認めてもらえない時期も長かったし。だから曲を作る時点ではほかのことは一切考えない。でも、いざそれがほかの人に渡るときは怖いですよ。こんなもの出しちゃっていいのかと。だから泰二さんに「いい曲だね」って言われて、すごくうれしかったんですよ。仲の良い友達に褒められるだけじゃ広がっていかないし。趣味でやってるだけならいいんでしょうけど。
──自分にとって歌は趣味じゃない、と思えたのは?
aoki それは歌を始めたときからずっと。19歳のときからプロでやりたいと思ってましたから。でもなかなか認められなくて自信が持てなくて。「やれるわけねえじゃん!」って自分でツッコミを入れたり。全然ライブのお客さんが増えなくて惨めで「何やってるの私!」みたいな(笑)。ずっとそんな感じでしたね。
──当時の自分には何かが足りなかった?
aoki 今思い返すと……もちろん技術的なこともあるし、あと人間として経験や時間が自分には必要だったのかなと。機が熟するために。曲はずっと作ってたんだけど、良い曲を作る、良い歌を歌うってことばかり考えてて、それをどうお客さんに伝えるか考えてなかった。ライブハウスの人に「お客さんつくんじゃない?」って言われても、どうやったらお客さんがつくのか全然わからなかった。
──自分自身がちゃんと表現できた「良い曲」であっても、それがお客さんに伝わるかどうかはまた別ですからね。平松さんは当時の彼女の曲に何が足りなかったと思いますか?
平松 今回やってて気付いたのは、躍動感みたいなものですかね。それはお客さんを引きつける華やかさにもつながるんですけど。デモテープがそうなんですが、ピアノの弾き語りではなかなかそういうものを出すのは難しい。ストイックになりがちなんです。
──「kiseki」みたいな曲は、その足りないところを補ってあまりある曲ですね。
平松 そうですね。彼女が入れてきた仮歌は音程的にはちょっと足りなかったんだけど、すごく“表情”があったんです。なので、それを生かすためにアレンジをあれこれ工夫していたら、どんどん躍動感が出てきましたね。
自分を出さなきゃ相手にも伝わらない
──最近のaokiさんのライブはだいぶお客さんもついてきましたね。お客さんに共有してもらうために何が必要なんでしょうか?
aoki うーん……前はみんな敵だと思ってたんですけど(笑)。MCを笑顔でやるなんて考えられなかったし。
──お客さんも敵だと思ってたの?
aoki うん(笑)。今思うとあれはなんだったんでしょうね……すごく閉じてましたね。
──閉じたまま、周りも全部敵だと思ってたら、そりゃお客さんはつかないですよね。
aoki ですよね。ライブの経験を積むにつれて、だんだん開かれていった感じですね。最近ようやくお客さんの顔を見られるようになりました(笑)。
──エレクトロニカ系の人って、ずっとラップトップの画面見てるから、そもそもお客さんの顔を見ないですよね(笑)。
平松 本当にそうですよね(笑)。
aoki aoki laskaを観に来てくれてる人の前でやると全然違うんですよ。ちゃんと私の音楽に向かってきてくれてるのがわかるから。こないだのアラバキ(「ARABAKI ROCK FEST.12」)のライブでもそんな感じだった。自分を出さなきゃ相手にも伝わらないんですよ。すごくシンプルなことだけど。
──aokiさんのことを知ってるかどうかじゃなくて、ステージ上のaokiさんの振る舞いによってお客さんに伝わるのかもしれないですね。閉じた状態のままステージ に上がっても、お客さんはコミットしようがない。
aoki そう! 自分が客としてライブ行ったときにそれを感じるから。だからアラバキのときに、「お客さんに入ってこい、入ってこい」って思って歌ってましたから。気持ちひとつでこうも違うものかって。自分のこだわりなんて本当に取るに足らないことなんで、それよりより多くの人たちに曲を聴いてほしいと思うようになった。今作もいろんな曲が入ってるんで、アルバム全部を通して聴いてほしいですね。きっと元気になれる作品だと思うので。
CD収録曲
- みてみて
- 物語
- kiss me now
- ひとつになりたい
- kiseki
- 耳のない猫
- 温かいかたまり
- また明日さよなら
- backfire (Aimee Mann cover)
- 流れる
aoki laska(あおきらすか)
神奈川県出身の女性シンガーソングライター。美しく浮遊するような歌声と、聴き手を包み込むようなサウンドでリスナーを魅了している。4歳からピアノとクラシックバレエを習い、大学中退後に滞在したニューヨークで歌を学び、同時期に曲作りも始める。23歳のときに自身で作詞作曲を手がけた自主制作盤「ひかりをじゆうを」を発表し、その頃から都内で弾き語りライブを行う。27歳のときに、YOMOYAの長倉亮介を介して元nhhmbaseの入井昇と出会い、彼らとともにデモ音源作りを開始。2011年冬に、folk squatの平松泰二プロデュースによる初の全国流通作品となるミニアルバム「about me」をリリースし好評を博す。2012年6月、再び平松とタッグを組んだ1stフルアルバム「it's you」を発表。