音楽ナタリー PowerPush - 藍井エイル
4年目に振り返る“藍井エイル”の作り方
「つながる思い」ではなく「ツナガルオモイ」
──客観性を獲得した今振り返ってみるに、当時の藍井さんはどこが変だったんでしょう?
テンションの上がるタイミングがおかしかったのかな? みんなが冷静に「そうだね」って言ってるときに「そうだねっ!」ってなっちゃってたり、あと、私、学生時代、お弁当は1人で食べてたんですよ。
──それは「ぼっちだった」みたいな悲しい話では……。
全然なく(笑)。むしろ友達は多いほうだったんですけど、別のクラスの友達から「ウチのクラスでみんなでごはん食べるから来なよ」って言われても「絶対行かない!」って言ってて。
──面倒くさいなあ(笑)。
まさにその「面倒くさい」が理由だったんですよ(笑)。「なんでクラスを移動しなきゃいけないんだろう?」って……。
──みんなで楽しく食卓を囲むためですよ!
なのに「移動が面倒」っていうちっちゃいことにこだわっちゃって(笑)。あの頃の自分は本当に変だった上に、すごくちっちゃい人間だったと思ってます。
──そんな藍井さんが今回「寂しさを背負いながら」も「見上げた空には 同じ星明かり」と、どこかにいる誰かと“オモイ”が“ツナガ”っていることを喜ぶ詞を書いたって考えると感慨深いし、曲の響き方がまた違ってきますね。
我ながら成長したなって思ってます(笑)。で、なんで成長できたかと言ったら、やっぱりファンの方がこの3年間、私と“オモイ”を“ツナ”げてくれたからなんですよね。だからその人たちに改めて「”ツナガルオモイ”を持ち続けてくれてありがとう」っていうことと「たとえライブを観に来られない人、直接会えるわけではない人とであっても、私は“オモイ”を“ツナ”げてるよ」っていうことを伝えたかったんです。ただ私は、まだまだ人との関係を築くことに不器用だからスマートに“思い”を“つな”げられはしてなくて。だからタイトルはちょっとカタコトな感じ。カタカナの「ツナガルオモイ」なんです。
大きなアレンジと大きな言葉
──アレンジについても聞かせてください。石塚英一朗さんが手がけていますけど、さっき藍井さんは作曲するときにはまずドラムとベースとギターの音が頭に思い浮かぶって言ってましたよね。
だからガッツリ携わったわけではないんですけどイメージはお伝えしました。「基本的にサウンドは重めにしたいから、途中でドロップチューンしてほしい」「ギターのコードバッキングは白玉多めで、メロディと同じようにちょっと譜割を大きめにしてほしい」っていうことであったりとか、ラストのコール&レスポンスの小節数だったりはお話させていただいてますね。
──あっ、作曲のときにはそのくらい細かく楽器隊が頭の中で鳴り響いている?
そうですね。あとメロディや詞ができあがってから気付くこともありますし。ちょっと切ない感じでもあるんだけど、基本的には明るいメロディラインと詞になったので、バッキングはヘビーな感じにしたいな、とか、ギターソロはハードに戦っている感じにしたいな、とか。最終的に“オモイ”は“ツナガル”んだけど、人生ってやっぱり紆余曲折あるものだと思うから、その困難さ、重さを音で表現できませんか?ってお願いはさせてもらいました。「人の複雑な事情や感情をできるだけ音で表現したいんです」って。それは詞にもいえることではあるんですけど。
──へっ!? 繰り返しになるんですけど、道に迷ったり、孤独を感じたりしている人が誰かと“オモイ”を“ツナ”げることをストレートに祝福してますよね。
でもその抱えている孤独の種類って人それぞれじゃないですか。これが小説や日記だったら一人称、私自身が抱えている孤独と“ツナガルオモイ”に対する喜びについて書けばいいし、むしろ小説や日記ならそれを書くべきだと思うんですけど、私が書くものは誰かに届けるための詞、誰かと“オモイ”を“ツナ”げるための詞なので。だからできるだけ言葉はシンプルに。より多くの人にとって心当たりのある言葉、できるだけ大きく物事を捉えられる言葉を選ぶことが大事だと思ってるんです。
藍井エイル、“エロい名曲”を語る
──そしてカップリング1曲目の「Raspberry Moon」なんですけど……。
エロいですよね(笑)。
──はい(笑)。ジャジーなシャッフルのビートとブラスに乗って、露骨にセクシャルなわけではないんだけど、どこかエロティックなことを歌っている。
私、この曲をプロデュースしてくれた黒須(克彦)さんのことをローリンって呼んでるんですけど、以前、ローリンに「ジャジーな感じのロックで、メロディは懐かしい歌謡曲テイストっていう曲を歌ってみたい」って相談したことがあって。そうしたらこの「Raspberry Moon」のデモを作ってくれたんです。実は1年半くらい前にはすでに録っていて、リリースのタイミングを見計らっていた曲なんですけど、その1年半前にデモをもらったときは、もうテンション上がりまくっちゃってました。「なんだこの名曲!?」って(笑)。私が本当にやってみたかったジャンルの1つなので、今回形にできたのはめっちゃうれしかったですね。
──ただチャレンジャブルな1曲ではありますよね。ジャジーとはいえ歪みまくったギターが絡んでくるから、ゴリッとしたロックを歌う理想の藍井エイル像から外れているわけでもないし、藍井さん自身シャッフルの曲を歌えない人ではないとは思うんですけど、それにしても途中になまめかしげな吐息が入っていたり、これまでにない遊びがあったりして。
あの吐息はちょっと恥ずかしかったです(笑)。レコーディングで5回くらい連続で録らされたときは「もうイヤ」なんて思ってましたし。でもやっぱり歌ってみたかったタイプの楽曲なので、レコーディング自体も楽しかったし、ライブのときの演出や、「どうやって吐息を魅せようかな?」って考えるのも楽しかったですね。
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- ニューシングル「ツナガルオモイ」 / 2014年11月12日発売 / SME Records
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 1599円 / SECL-1619~20
- 通常盤 [CD] / 1300円 / SECL-1621
CD収録曲
- ツナガルオモイ
- Raspberry Moon
- Gladius
- ツナガルオモイ(Instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
- ツナガルオモイ ビデオクリップ
- Making of ツナガルオモイ
- Eir in LA the Movie
藍井エイル(アオイエイル)
北海道札幌市出身の女性シンガーソングライター。高校在学中よりバンドのボーカリストとして音楽活動を開始し、その後、動画サイトの投稿をきっかけに大きな注目を集める。2011年4月にアニソン誌「リスアニ!」の付録CDにオリジナル曲「frozen eyez」が収録され、同年10月、テレビアニメ「Fate/Zero」のエンディングテーマ「MEMORIA」でメジャーデビュー。以降「BLAU」と「AUBE」という2枚のオリジナルアルバムに加え、「AURORA」「INNOCENCE」「シリウス」など話題のアニメのテーマソングを立て続けに発表し、「Animelo Summer Live」などアニメソング系大型フェスにも数多く出演する。2014年8月にはアニメ「ソードアート・オンラインII」のオープニングテーマ「IGNITE」をリリースし、11月にはデビュー4年目第1弾シングル「ツナガルオモイ」で初めてシングル表題曲の作詞・作曲を手がける。