音楽ナタリー PowerPush - 藍井エイル
4年目に振り返る“藍井エイル”の作り方
今ある幸せをさらに大きくするために
──聞くだに時間がかかりそうな作曲法ですよね。一旦作ったメロディを何度もブラッシュアップするわけですから。
ところが「ツナガルオモイ」の作曲は奇跡的なまでにスムーズだったんですよ(笑)。曲自体は15分くらいでできたんじゃないかな? こればっかりは本当に運とかタイミングとしか言いようがないんですけど、「よし、曲を作ろう!」と思って鍵盤に向かったら、サビのメロディがまず浮かんで、そのままAメロ、Bメロも浮かんできて。その勢いのままメロディをそぎ落とす作業もできちゃってました。だからメロディが降りてくる瞬間と「よし、やろう!」と思える瞬間がタイミングよく重なってくれたんだろうなって思ってます。
──その「メロディが降りてくる」ってよく使われる表現だけど、実はちょっと信じてないんですよ。雨じゃあるまいし勝手に降ってくることはないだろう。メロディや詞は内なるものの発露なんだから、降らせているのは藍井さんなんじゃないの?って。
ああ。確かに考えて考えて考え抜いた結果、ポロッと出てくるっていうほうがイメージに近いかもしれないですね。「こういうアーティストがいたらめっちゃカッコいいだろうな」っていう、理想のボーカリスト像、理想の藍井エイル像をまず想像して、そこから「じゃあ、その藍井エイルはどういうジャンルのどういう歌を歌っていたらカッコいいんだろう?」って考えるところから作曲を始めてますから。そうすると頭の中にだんだんドラムやベースやギターの音が鳴り始めて、それに乗っかるメロディが浮かんでくるんです。
──藍井さんが藍井エイルという人に楽曲を提供している感じ?
そうですね。理想の藍井エイルじゃなくて、実際の藍井エイルが好きなことだけをやっていると、聴いてくれる人は押し売りされているように感じると思うので。「ツナガルオモイ」はタイトルからしてそうですし、それ以外の曲であっても、私は誰かに何かを押しつける気はないですから。どの曲にももちろん自分の思いが120%詰まってるし、120%全力で作ってはいるけど、じゃあそういう曲が作れているのは120%私の力のおかげか?って言われたら、そうじゃないじゃないですか。3年間、ファンの方に支えられてきたからこそやってこられたわけだから「私が、私が」っていう曲を作ってしまうのは、ちょっと違うと思うんです。それに曲に込めた思いが届くか、届かないかは、聴く方次第。独りよがりになり過ぎたら、きっと届けたい思いも届かないはずですし。だから私とみんなの理想の藍井エイルでいたいんです。……まあそう思うのには「ファンの方の存在がなかったら、私はきっとがんばれない」っていうのもあるんですけど(笑)。
──春奈さんとの対談のときにも言ってましたよね。「自己肯定感が薄いタイプだから自分のためにはがんばれない」って。
私の健康とかスタイルのためだけだったら、ジム通いも絶対に続いてないと思いますし(笑)。ただその理由にはこのあいだお話した、自己評価が低いからっていうことのほかに、もう1つ、自分の満足だけを満たしてもそこで得られる幸せって小さなものだと思っているからっていうのもあって。みんなと一緒に見つけた幸せのほうが、たくさんの人が関わっているぶん、大きいはずですから。だったら大きな幸せがほしいんです(笑)。
「理想の藍井エイル」と「変な藍井エイル」
──ちょっと話が前後しちゃうんですけど、自身が思い描いていて、曲の中で実現している「理想の藍井エイル」ってどういうアーティストですか?
ステージに立っているときはちょっとクールで、やっている音はゴリッっと重めなんだけど、歌謡メロディの要素も入っていて、ちょっと懐かしい感じ。そういうアーティスト像を思い描いてます。
──いつ頃、その藍井エイル像って獲得しました?
だんだん組み立てられていった感じですね。3年のあいだにいろんな曲を歌わせていただいて、いろんなステージに立たせていただくうちに「あっ、私はこういう曲が好きだし向いてるんだな」とか「曲の中にああいう要素を入れてみたら、聴く人も楽しいんじゃないかな」って、いろんなことに気付けるようになって「こういう曲を歌って、こういうパフォーマンスをするアーティストが私は好きだし、なりたかったんだ」っていう理想像が見えてきたので。デビューするまで……いや、デビューしてからもそうだったんですけど、もともと自分のことを客観視することが苦手だったから、本当にファンの方とかスタッフさんとか、こういう取材で会った方とか、いろんな方と関わり合っていく中で、なりたい姿を見付けた感じです。
──客観視が苦手っていうのはちょっと意外です。さっきの「自分のためにはがんばれない」話がまさにっていう感じなんですけど、ちゃんと自分の得手不得手を理解している印象があったので。
学生の頃はホントに自分がどういう人間なのかわかってなかったんですよ。よく友達から「変な人だね」って言われてたんですけど、その自覚がまったくなかったので。「そんなはずないんだけどなあ」って(笑)。でも「変な人」って言われたら、さすがに気になるので「変な人に見えない行動をとろう」と思って、変な人であることがバレないようにがんばった時期もあるんですけど……。
──失礼ながら、その発想がそもそも変です(笑)。
そうなんですよね(笑)。だいたい「変だ」って自覚がない人間が思う変じゃない行動ってやっぱり変ですから。結局何をやっても「変な人」って言われ続けてました。
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- ニューシングル「ツナガルオモイ」 / 2014年11月12日発売 / SME Records
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 1599円 / SECL-1619~20
- 通常盤 [CD] / 1300円 / SECL-1621
CD収録曲
- ツナガルオモイ
- Raspberry Moon
- Gladius
- ツナガルオモイ(Instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
- ツナガルオモイ ビデオクリップ
- Making of ツナガルオモイ
- Eir in LA the Movie
藍井エイル(アオイエイル)
北海道札幌市出身の女性シンガーソングライター。高校在学中よりバンドのボーカリストとして音楽活動を開始し、その後、動画サイトの投稿をきっかけに大きな注目を集める。2011年4月にアニソン誌「リスアニ!」の付録CDにオリジナル曲「frozen eyez」が収録され、同年10月、テレビアニメ「Fate/Zero」のエンディングテーマ「MEMORIA」でメジャーデビュー。以降「BLAU」と「AUBE」という2枚のオリジナルアルバムに加え、「AURORA」「INNOCENCE」「シリウス」など話題のアニメのテーマソングを立て続けに発表し、「Animelo Summer Live」などアニメソング系大型フェスにも数多く出演する。2014年8月にはアニメ「ソードアート・オンラインII」のオープニングテーマ「IGNITE」をリリースし、11月にはデビュー4年目第1弾シングル「ツナガルオモイ」で初めてシングル表題曲の作詞・作曲を手がける。