これが「歌がうまい」ってことなんだろうな
──レコーディングはどのように進めたんですか?
真部 一緒にいたのは仮歌のときだけで、ボーカル録りには立ち会っていないんですけど、今回僕は演奏で参加していて、しかもひさびさにベースを弾いているんです。そこにあのちゃんが立ち会ってくれて、楽しくレコーディングできました。
あの ひさびさにベースを持ったと言っていたことに、まずびっくりしました。それもあとから聞いたんですけど、その場で聴いている限りでは全然そんな感じがしなくて。でも、本人的にはひさびさだから早く終わらせたかったみたいです。ラジオでそう言ってました(笑)。
真部 自転車と一緒で、一応弾けるは弾けるんですけど、スタミナが全然なくなっちゃっていて。サウンドチェックが終わったら指がプルプルしちゃってたから、数テイクで早く終わらせたかったという(笑)。
あの でも、それを感じさせない演奏だったので、さすがプロだなと思いました。
真部 現場はめちゃめちゃいい雰囲気で心地よかったので、永遠にいたいくらいだったんですけど(笑)。
──2コーラス目に入ってからのAメロでのベースラインとか、とてもしばらくベースを手にしていなかったとは思えないほど冴え渡っていましたよ。
真部 あれは5テイク目ぐらいですかね(笑)。今回はドラムが西浦(謙助)さんだったんですけど、西浦さんは天才型なので毎テイク自分でやったことを覚えていないんですよ。だから、何回もやってよかったやつを採用するスタイルで、「もう1回やろう、もう1回やろう」と言われて「勘弁してくれ」と(笑)。最終的には、あのちゃんの応援パワーとイノタクさんのナイスディレクションでうまくいきました。
──あのさんはボーカルをレコーディングする際、意識したことはありますか?
あの サビがすごくキャッチーで盛り上がるから、そこで声を張るぐらいかな。歌ってはいるけど、語りかけるというか独り言みたいな感覚でした。あとは言葉の置き方がけっこう独特で、「お⽣憎様」をその前の「我爱你」に合わせてリズミカルに歌うことは意識しました。
真部 たぶん本人は否定するかもしれないけど、これが「歌がうまい」ってことなんだろうなと。リズム感もすごくいいですけど、歌い方自体が素晴らしい。昔、西田敏行が「いい役者とは」みたいな質問を振られたときに「役者というのはそこにいるだけでいいんだよ」ということを言っていまして、あのちゃんもまさにそういう感じですね。
あの 歌っているほうも心地よい曲だなと思いました。サビは楽しく声を張ってますけど、それ以外の部分も歌っていて気持ちいいですし。一緒に曲を作る前から「絶対に僕の声とも合うだろうな」と思っていたけど本当にその通りで、自然体で歌えました。
真部 僕のメロディ、本当は歌いづらいんですよ。覚えやすいけど歌いにくいメロディなので、意外と相性が合う人が少ない……って、これを言っちゃうと仕事が減るかな(笑)。そういう意味でも、あのちゃんはドンピシャでした。
ミニアルバム作りましょうか?
──あのさんはご自身のリズム感に関して、意識したことはありましたか?
あの 今までは文章みたいな歌詞が多かったけど、今回はいろんな言葉がいっぱいちりばめられている感じだから、余計にリズミカルさを意識しないと面白くないと思っていました。例えば「チクンチクン」とか「ドクンドクン」とか、僕が今まであまり歌詞に使ってこなかったフレーズを多く入れたし、サビでは「Get get get on!」ってアクセントを置きまくらないと歌いづらいし。特に「Bet bet bet on!」がめっちゃ言いづらいんですよ。レコーディングで一番苦戦して、途中でゲシュタルト崩壊してきましたから(笑)。
真部 これ、絶対に難しいと思いますよ。でも、自分が書いたパートだよね?(笑)
あの そうなんです。そういう意味ではマスターしたら楽しいので、みんなにも歌ってほしい。
真部 僕も鼻歌でよく歌ってますけど、楽しいですよ。
──そういう楽曲のタイトルに「多様性」という言葉を用いるのも興味深くて。
真部 どうしてこのタイトルになったの?
あの 単純に語感です。ゲロチューの曲かもしれないけどベロチューも出てくるし、それも全部1つの愛からでたゲロだと僕は思っていて。多様性って言葉は最近いろんなところで目にしますし、自分もどちらかというと多様性を象徴している人だと言われることが多い。チューにだって多様性はあると思って、それを曲にした時点でこの言葉がうまくハマったというか。
真部 言葉選びに関しても無駄遣いがあまりない、このセンスがすごいですよね。絶対に僕からは出てこないですから。実際やろうと思えば奇想天外な単語を並べて、おもちゃ箱っぽくすることはできると思うんですけど、それをやらないというのは自分の作品作りに対して正直な人なんだと思うし、ちゃんと書きたいものがある人だと思う。なおかつ、意識的にやっているかどうかはわからないですけど、曲に乗せる自己みたいなものをコントロールするのがすごく上手だなと思って。だから、わざとやっているのならすごくがんばっているなと尊敬するし、無意識にやっているんだったら天才だと思います。
──7話のオンエア後、どういうリアクションがあるのか楽しみですね。と同時に、このコラボを機にまた違った形での共作も聴いてみたいと思いました。
真部 あのちゃんさえよければ。
あの こちらこそ、ぜひって感じです。
真部 次は「こういうことをやりたい」というイメージも、すでにけっこうあるので。
あの うれしい。今回は足し算って感じでしたけど、めっちゃ引き算のコラボもやりたい。1枚ミニアルバムを作りたいぐらいです。
真部 じゃあ、やりましょうか?(笑)
プロフィール
ano(アノ)
2020年9月に「ano」名義でソロアーティストとしての音楽活動を開始し、2022年4月にNetflixアニメ「TIGER & BUNNY 2」のエンディングテーマ「AIDA」でメジャーデビューした。またソロとは別軸で、4人組バンド・I'sのボーカル&ギターとしても精力的に活動。さらにアーティスト活動の傍ら、映画やドラマ、バラエティ番組などさまざまなフィールドでマルチに活躍する。
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真部脩一(マベシュウイチ)
相対性理論のベーシスト、進行方向別通行区分やVampilliaのギタリストとして活動。2012年に相対性理論を脱退してからは、自らが中心となって齋藤里菜と西浦謙助とともに2017年に集団行動を結成。2021年にはポップしなないでの2人が中心となったParaisoに参加している。