テレビ東京系で放送中のアニメ「チェンソーマン」は、エンディングテーマを全12話すべて異なるアーティストが担当。アニメ自体が話題作であることも相まって、週替りで新たなエンディングテーマがオンエアされるたびに、アニメファンも音楽ファンも盛り上がっている。
そんな「チェンソーマン」の第7話でエンディングテーマとしてオンエアされたのが、anoの「ちゅ、多様性。」だ。真部脩一(Paraiso、集団行動、進行方向別通行区分、Vampillia)が作曲、anoと真部が共同で作詞、TAKU INOUEが編曲を手がけたこの曲は、かつて真部が所属していた相対性理論の初期のテイストを思い起こさせる、いわゆる“真部節”が炸裂したポップチューン。そこにanoらしいセンスを感じる言葉がたっぷりとちりばめられている。
音楽ナタリーでは今回、「ちゅ、多様性。」を共作したanoと真部へのインタビューを実施。初のコラボとなった2人がどのようにしてこの曲を作り上げたのか聞いた。
取材・文 / 西廣智一撮影 / 須田卓馬
そこにいるだけで成立する声
──今回のコラボ以前、お互いに対してどんな印象を持っていましたか?
真部脩一 僕はVampilliaというバンドをやっているんですけど、最初にあのちゃんの存在を知ったのはリーダーが1枚の写真を見せてくれたことがきっかけ。それが昔バズった、あのちゃんがステージでベロを出してカーってパフォーマンスしている写真だったんです。
あの ああ(笑)。
真部 そのときは「すごくいい顔してますね。ロックスターじゃないですか」って話したんですけど、実はそのあと何度か対バンをしていて。Vampilliaとは別にVMO(Violent Magic Orchestra)という、ブラックメタルをテクノでやるというユニットがあるんですけど、そのライブであのちゃんが当時やっていたアイドルユニットと対バンしているんです。そこで「ああ、声もいいんだな」と思って、自然とチェックするようになり、ソロ作品も聴いてきました。ぶっちゃけた話をすると、いつか一緒にやりたいなと思っていたんです。
あの 僕の印象はやっぱり……あんまり実態がないというか。相対性理論自体、バンドだけど実際にいるかどうかがわからないイメージだったから、曲を聴いても人間が作り出しているものだと思ってなかったというぐらいの印象。でも、幅広くいろんな人が聴いていて、曲調とか雰囲気とか歌っていて楽しい感じがあって、よく弾き語りとか勝手にやらせてもらったりしていました。
真部 そうだよね、全然顔出しもしていなかったから。
あの そう、それもあって。
──真部さんはシンガー、アーティストとしてのあのさんをどう評価していましたか?
真部 僕はサービス過剰なものが苦手で、ちょっと気合いの入ったラーメン屋さんに行くと「いや、そこまではいいです」って、なんだか申し訳なくなってしまって(笑)。エンタテインメントの世界でもサービス過剰なものが多いので、ちょっとそこに息苦しさを感じて、自分がやることに関してはちょっとそこから遠ざかりたいなと思っていたんですけど、あのちゃんをいろんなメディアで見たときに、すごくパンチが効いているのに押し付けがましくなくて。歌唱だったり声質だったりからも本人が醸し出すものが自然体に見えてくるし、アピール過剰でもないしお客さん本意でもない。僕、サービス過剰なものも苦手なんですけど、斜に構えすぎているものもダメで、その中間にあるバランスのいいものが自分の好みとしてあって。あのちゃんはそこにすんなりハマる人だなと思ったんです。あとは声質の魅力かな。正直、オケに乗せてしゃべったり「アー」って言ったりしただけでも成立するくらい存在感も強いですし。今回も仮歌を入れるときに立ち合わせてもらったんですけど、「ああ、そこにいるだけで成立する声ってこんな感じなんだ」ということを自分の曲で実感できたので、すごくよかったです。
──あのさんは自分の声に対して、人と違うだとか特徴的だとか意識することは今までありました?
あの 自分では普通だと思っているんですけど、テレビとかに出ると発言よりもまず先に、必ず声のことを言われるんです。周りの人と同じようにしゃべっているだけなのに、自分の声ってそんなに目立っているんだと思うと、自分でも嫌になってしまって。それが歌を歌うことになったときに、僕が嫌いだった声をひとつの材料にしてもらえることがうれしくて、アーティスト活動をしていてすごくよかったことだなと思っています。
──実際、聴いていて惹き付けられるし、気が付くと夢中になってしまう中毒性がある声なんですよね。
真部 そうなんですよね。
イメージは破壊が始まる前の最後の宴
──「ちゅ、多様性。」は「チェンソーマン」のエンディングテーマとして制作したわけですが、お二人のコラボレーションはどういう流れで決まったんですか?
真部 最初はあのちゃんからお話をいただいて。
あの そうです。「チェンソーマン」のエンディングテーマのお話をいただいて、せっかくだから誰かと一緒に制作したくて。そこでパッと浮かんだのが真部さんでした。僕がレーベルの人に名前を伝えて、ダメもとで声をかけさせてもらったらすんなりOKだったという(笑)。
真部 こっちから売り込もうかなと考えていたくらいなので、ありがたいタイミングでした。
──アニメの制作サイドからは「こういうストーリーなのでこんな曲が欲しい」とか、何か具体的な話はあったんですか?
あの 7話で使用するという指定があったので、ただカッコいいとか激しいというよりはポップで、キュートな感じもありつつカオスというのがパッと浮かんだイメージで。制作側もまさにそういうものが欲しいということだったので、その方向で進めることになりました。
真部 7話というのはちょうどストーリー上でもターニングポイントの一歩手前というか、日常が崩壊するギリギリのところだったので、それを飾る曲ということで、アレンジの自由度も高くて。僕は破壊が始まる前の最後の宴をイメージしていました。
──ストーリー的にはどのあたりになるんでしょうか?
真部 姫野さんのチームで一緒に戦って、そのあとの歓迎会のあたりかな。
──なるほど。そう考えると、この歌詞から歓迎会でのあるシーンが想像できますが……。
真部 はい(笑)。
あの 歌詞に関してはアニメに寄り添いつつも自由度高めで。
真部 今回は僕とあのちゃんの共作なんですけど、僕が一番心配だったのは歌詞がストーリーに忠実なことが作品にとって誠実なのかどうかということ。僕は変なところで生真面目なので、わりとストーリーを追っちゃいそうで。ただ、今回は共作ということであのちゃんとキャッチボールしながら、自分が作ったものをいい感じに壊してもらって、再構築してもらえるのかなと安心しているところもありました。
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尊敬していた人の言葉だけど、容赦なく壊せました