あのによるソロプロジェクト・anoが配信シングル「AIDA」でTOY'S FACTORYよりメジャーデビューした。この曲は、Netflixにて独占配信中のアニメ「TIGER & BUNNY 2」のエンディングテーマとして書き下ろされたミディアムバラード。あのが作詞、TAKU INOUEが作編曲を手がけ、まるで「TIGER & BUNNY」に登場する鏑木・T・虎徹とバーナビー・ブルックスJr.をはじめとする各バディの関係のような、互いを思うがゆえのすれ違いが描かれている。
この1年ほどは特に、音楽活動においてもその他の芸能活動においても、これまでにないほどに充実した日々を送ってきたように見えるあの。活動の規模をさらに拡大していくために、彼女がメジャー進出を選んだのは自然な流れのようにも見えるが、本人の口から語られたのはどこか冷めた言葉だった。
このインタビューではメジャーデビューに対する思いや、彼女が「TIGER & BUNNY」を観たことで手に入れたという新しい表現についてなど、「AIDA」に関連するさまざまな話を聞いた。
取材・文 / 橋本尚平撮影 / 新元気
大きめなステージで歌ってたら「気持ちいいものだな」って気付いて
──この1年ほどの間、あのさんは今まで以上にいろいろな仕事を精力的にこなしていたように見えました。
いろいろやりましたね。何足の草鞋を履いてるんだろうって気持ちでした(笑)。音楽はもともとやるって決めてたんですけど、テレビとか雑誌とかのお仕事は、気付いたらいただいててこなした感じ。
──その中で印象に残っていることはありますか?
ライブをやれたことですね。「あのちゃんねる」っていうバラエティ番組のイベントだったんですけど(参照:あのちゃんねるイベントでano念願の有観客ライブ、ザコシにメガネもらい「眠たくなってきちゃった」)、お客さんに生で自分の音楽を聴いてもらうのは楽しくて、やってよかったなと思いました。ライブは1回やればOKってものじゃないし、あの日に来れなかった人もいただろうし、「もっといろんな人にライブを観てもらう機会を増やしたい」って気持ちです。
──前回インタビューをさせてもらったときに「何よりライブをしたいです」と話していましたが、それが実現した形になりましたね(参照:ano「Peek a boo」インタビュー)。初めて1人きりでステージに立ってパフォーマンスをした感想は?
やってみて「すごいことなんだな」って思いました。終わってからそのことの重大さに気付いたというか(笑)。僕は小さいライブハウスに出るのが好きなんですけど、このときEX THEATER ROPPONGIの、後ろにスクリーンが付いてる大きめなステージで歌ってたら「気持ちいいものだな」って気付いて。広い会場のステージには今までも何回も立ってるはずなんですけど、1人で立ったときに今まで感じたことがないような解放感があったから、また大きいステージでライブやれたらなと思ってます。
──昨年8月には、あのさんがボーカル&ギターを担当するI'sを結成し、ソロと並行してバンドでの音楽活動もスタートさせましたが、バンドでステージに立つのとソロでステージに立つのでは、感覚は違いますか?
僕からしたら全然違うというか。ソロのときもたくさんの方が関わってくれて心強いんですけど……何が違うのかはっきりはわからないけど、1人のときとバンドのときとでは絶対的に何かが違う。ソロでは自分の持ってる世界観だけをすごく強調した表現をやれてるんですけど、バンドは4人が合わさったうえで1つの世界観を作ってる分、意見がまとまらなかったり自分の思ったようにいかないこともたまにあるから「なかなかバンドも大変だな」ってわかりました(笑)。
──ちなみに、このタイミングでバンド活動を始めたのはなぜですか?
そもそもソロで音楽を始める前までは、一旦全部やめて何もしないつもりでいたので、「バンドをやりたい」という前に音楽自体やりたい気持ちはなかったんです。でもソロ活動を始めてギターを弾いたりしてるうちに、ソロはソロのよさもあるけど、バンドの中でゼロから一緒に音を重ねたり歌詞を書いたりという過程を踏むのもやってみたくなって。アイドルをやってたときはそういう過程は端折られがちというか、経験をさせてもらえないことが多かったけど、してみたい気持ちはその頃からずっとあって、それを実現させた感じです。
──「やりたいことがあるけど、できない」と思っていた時期の反動みたいなものが、一気に出たのがこの1年だったんですね。
うんうん、そうです。
──じゃあ、やりたいことがやれていてこの1年は充実していたんじゃないですか?
あー……、基本ずっと変わんないですけど、まあ一昨年とかと比べたら充実してたかな……? 1年あっという間だったし。そういうことにしておきます(笑)。
──ソロとバンドを合わせると、けっこうハイペースに曲を発表していますよね。今はあのさんの中で歌詞がどんどん湧き出ている状態なんですか?
本当に時期によるんですけど、湧き出るときはどんどん湧き出ます。言いたいけどなかなか言いづらいことも、歌にすれば言えるので。歌詞を書くようになって、気持ちを伝える手段が1つ増えたなって感じです。
メジャーデビューしても何も変わらなそう
──そんな充実した時期を経て、このたびメジャーデビューが決まりました。それについて、あのさんの中で特別な感慨はありますか?
メジャーデビューがどんなものなのかいまだに詳しくわからないけど、TOY'S FACTORYって名前がかわいいから好きです。
──言われてみると確かにかわいい社名ですね(笑)。あのさんはここ数年、メジャーにいるのと変わらないくらいのメディア露出もあって、むしろ「今までメジャーじゃなかったのか」と思ってる人もいそうな気がします。
それよく言われる。
──メジャー契約したことで、何か変わることはあると思いますか?
いや、ないんじゃないですかね。「今までメジャーじゃなかったんだ」って言われるくらいだから、メジャーでやるようなことは今までもできてたってことだろうし、これからも何も変わらなそう。
──そんなタイミングでリリースされる新曲「AIDA」は、Netflixで配信されるアニメ「TIGER & BUNNY 2」のエンディングテーマです。あのさんがアニメ主題歌を担当するのはこれが初めてですが、やってみた感想は?
タイバニのプロデューサーさんといろいろ話をさせてもらって、改めて作品の世界観を意識できたのはアニメならではだなって。自分の世界観の中だけで、自分だけに向き合った曲だと出ないような言葉の歌ができたので、それはこういうお話の曲を作るよさだなって思いました。
──作詞家には「ある程度は縛りがあったほうが書きやすい」という人が多い印象ですが、あのさんの場合はどうでしたか?
こういう書き方は初めてだったけど、わりと歌詞はすぐできたんで、そんなに困難ではなかった感じです。
──具体的に作詞で悩んだ部分はどこですか?
人と関わっていると、相手のためを思ってしたことが、結局すれ違いを引き起こすってよくあるじゃないですか。自分はひねくれてるから、そういうのは愚かでバカバカしいことだなという見方をしちゃうんです。でもそれを歌詞にしようと思ったときに、ストレートに言葉にしたらあまりよくないかもなと思って。確認したら「“馬鹿”は文脈によってはいいと思います」ってことだったので、「二人はきっと馬鹿さ」という歌詞を書きました。歌い出しの「役に立たなくなった空は」も、もともともうちょっと残酷な言葉だったんですけど、「役に立たなくなった」ならアリじゃないかってことになって。結果的にどちらも最初のよりよくなったのでよかったです。