最近めっちゃ気付いてる。「僕だけこんなに世界に置いていかれてるんだ」って
──今回公開された「Peek a boo」のMV、撮影したのは本物の鍾乳洞なんですか?
コウモリとかいました。見たことない虫もいた。すごい山奥を、すごい登って、疲れた。気付いたら鍾乳洞にいた、って感じ。
──完成したものを自分で観て、どうでしたか?
木村太一さんの世界観が出てるなって思いました。木村さんは女性を撮るのは初めてだったらしくて、スタッフ陣も男しかないから「ゴリゴリだな」って思いました。
──この曲のサビ頭の「死ねない理由を探しては 生きるのが難しくなった」というフレーズは耳に残りますね。すごくあのさんらしい言い回しですし。
うん。
──ちょっと無神経な言い方になってしまうかもしれないんですけど、傍目には今のあのさんはすごく順調に見えているんです。それでもまだ「死ねない理由を探す」くらい追い込まれるって、すごくつらいことだなって思ったんですよ。そういう死にたくなるような感覚って、やっぱり今のあのさんでも拭いきれないものですか?
昔からだけど今の時代は特に「死にたい」とか言うのがタブーになってきていて、僕も死にたいときあんまり吐き出せなくなってきちゃって。前よりも息が詰まってる感じがします。消えたくなる気持ちは学生時代からずっと変わらずに今もある。そんなときは“消えなくていい理由”を必死で探してます。もしそれをしてなかったらとっくに死んでたと思う。でも「死んだら周りに迷惑かけるかな」とか「どうでもいい人に『この人はこんな人だった』とか死んでから言われるのヤダな」とか考えるの、すごくつらいです。
──ああ。
死にたい人は、生きるのが難しすぎるから死にたいわけじゃないですか。でも、生きたいと思ってる人でも生きるのってすさまじく大変なことなんですよね。生きたいけど生きるのつらいよなって。「死にたい」と「生きたい」って表裏一体なんじゃないかってすごく思う。だから「死にたい」がマイナスな言葉って僕は思わない。生きたいっていう意思表示でもあるし、自分や世の中と向き合わないと感じない感情だから。
──それが「死ねない理由を探しては 生きるのが難しくなった」というフレーズが意味していることなんですね。「Peek a boo」にはこのほかに「バイバイ理想と現実の境界 変わること何もなく今日かい」という歌詞がありますが、今のあのさんにとって“理想”とはどういう状態で、“現実”とはどういう状態ですか?
結局、僕にとって“普通のことを普通にする”っていうのが理想なんです。“大丈夫な自分”になりたいし、普通の人として強く生きていくのが理想。「当たり前のことが普通にできない」というのが僕の昔からの悩みで、今もそれは変わらないんです。それが僕の現実。何もできないんですよ、マジで。ビックリするくらい何もできない。人との距離が測れなくて会話もうまくできないし。そういうことを克服したいと思いながら、何も変わらないまま今日になったという感じだし。
──いやいや、何年も前と比べたら、今はずいぶん変わったと思いますよ? テレビに出てトークすることで鍛えられてるのかもしれませんが。
ホントですか?(笑) 今は「周りに誰もいないから、仕方なく自分がしゃべるしかない」って感じなんですよね。前はほかにメンバーがいたので全部任せてたんですけど……そう、自分1人だと何もできないんだ、っていうのが浮き彫りになってくる。
──ああ、そういうのはあるかもしれませんね。
あと僕、財布とか鍵とかをめちゃくちゃなくすんですよ。で、最近また財布をなくして、一緒にクレジットカードもなくなっちゃって。
──うわー、大変ですねそれは。
もう何十回目だかわからないくらいの再発行。
──えっ? そんなに?
それでカードを止めてもらう電話をしたんですけど、あっちの言ってることもわからないし、こっちもパニックになっちゃって。電話の相手が「おっしゃってる意味がよくわからないんですけど……」とか言ってきて、泣きました。「無理だ、難しい」って。
──コールセンターの人もきっと悪意があるわけでなく、事務的に仕事をこなしているだけなんでしょうけどね。でもそこにつらさを感じるのはよくわかります。あのさんは必死で伝えようとしていたんでしょうし。
日々そういうことばっかりです。車の免許も何十回と受けに行ったんですけど、会話ができなくて。まず受付の時点で、言っていることがわからないし、こっちが言ってることもわかってもらえない。すごいしかめっ面で「え? え?」みたいに言われたりして、お金を持って行ったのに泣きながらお金だけ置いて帰っちゃったこともあった。周りから「全然大丈夫だよ!」って言われたから行ったのにダメだったから、「大丈夫じゃなかったじゃん!」って、背中を押してくれた人にキレちゃったりして。そういうのが日常茶飯事だから。
──でもこうやって話していて、わからないことなんて何もないですよ?
それだけじゃない。僕は世の中のこともまったくわからない。今何が起きてるかとか、誰が有名で、テレビに出てて人気があるかとか。音楽の流行りもわからないし。だから例えば、そこで誰かがしゃべってても基本的に内容がわからないんです。全然話題についていけないことが多い。そしてそのわからなさから、「自分は世の中に置いていかれてるんじゃないか」という気持ちになることがよくあって……。
──そういうことを悩んでいるのは意外でした。あまり周囲のことを気にせずに自分のペースで生きていたいタイプだと思っていましたが。
そうなんですよ。自分のペースでは生きてるんですけど、最近めっちゃ気付いてる。「僕はこんなに世界に置いていかれてるんだ。僕だけ何もわかってないんだ」って。でもそれを山里さん(山里亮太。テレビ東京「あるある発見バラエティ 新shock感 それな!って言わせて」で共演中)に言ったら「何あのちゃんが世の中のことをわかろうとしてるんだよ。バカか!」って笑われて、ちょっと救われました(笑)。
──本当にそう思いますよ(笑)。
ふふふ(笑)。「知らなくていいんだ」ということも最近知ったけど、知らなすぎると生きるうえですごく苦労しちゃうから、本人的には嫌なんだよって落ち込む……。
──まあでも、「音楽の流行りがわからない」って言いましたけど、音楽に関しては無理に流行りを知ってそこに身を置く必要はないと思いますよ。すでにあのさんは強い個性を確立していて、そこに対してファンもいますし。無理に「勉強しよう」と思ってしまうと、むしろ悪い方向にいく可能性もあるかもしれません。
うん。
「ライブをしないと何も伝わらないんだな」ってわかっちゃったんです
──ソロアーティストとしてレコーディングをしたのは、今回の2曲が初めてだったと思います。レコーディングでの初めての体験は何かありましたか?
今までは、何十回も歌って一番キレイなのが使われるので、僕が「こう歌いたい」って言っても却下されることが多かったんですけど、ソロになってからは歌い方を自由にさせてもらってるって感じです。そこはけっこう違うのかなって。
──じゃあ、歌ってて楽しそうですね。もちろん今までも楽しかったとは思いますが、それ以上に。
そうですね。「もっと明るく」とか「もっとかわいく」とか言われないから、そこは楽。
──あのさんはギターを弾くじゃないですか。
うん。
──今のところリリースされてる2曲はどちらも作詞だけですけど、家で曲作りをしているときは作曲もしているんですか?
作曲自体にまったく興味はないんですけど、まだ発表されてない曲で作曲してるものもいくつかあります。出るか出ないかわかんないけど。家でアコースティックギターを弾きながら考えてます。
──Twitterなどで弾き語りの映像を公開していますよね。こんな感じで弾き語りでライブをするのもいいなと思いました。
それはやらせてもらえるならやりたいです。やりたいですけど、やらせてもらえるならって感じ(笑)。
──ソロアーティストになったわけなので、本人の意向が活動に反映させやすくはなってるんじゃないですかね。今までやりたくてもできなかったことも、意見を通しやすくはなってると思いますよ。
もっといろんなことにこだわっていきたいなというのはありますね。グッズとかもこだわりたいし、コラボとかしてみたいし……でも何よりライブをしたいです。
──僕もライブを観たいです。やっぱり、ステージに立って刹那的で衝動的なパフォーマンスをしているところも、あのさんの魅力の1つだと思っているので。
うん。
──もちろんテレビに出て活躍しているあのさんもすごく魅力的なんですが、それだけだと思われたくないというか。
うれしいです、そんなこと言われて(笑)。ありがたいな。
──テレビでのあのさんを知ってファンになったという人にも、ぜひライブを観てもらいたいですね。
そうですね。観てほしいなって思います。がんばります(笑)。来年できたらやりたいな。
──まあ、今はコロナ禍ですし、これに関してはなんとも言いづらいですよね。
そうなんです。この状況がどうなるか次第ですね。ライブが観たいって声がありがたいことに多くて、僕はテレビやモデルのお仕事もさせてもらってるけど、去年まではスケジュールのほとんどがライブだったなと思い出しました。やらせてほしいって気持ちしかない。今までライブで全部を発散してきたところがあって。
──確かにそれはありそうですね。
だからグループをやめてから、ライブがないのが一番つらかったかもしれない。「ライブをしないと何も伝わらないんだな」ってわかっちゃったんです。自分にとってライブという存在がこんなにデカかったんだっていうのに気付いた。だからヤだ、今。ライブできないのが。
──かといって、あんまり急いで無観客でライブをやるというのも、たぶんあのさんはそんなに興味がないんじゃないかという気がしていて。
そうなんですよね。無観客ライブとか流行ってるけど、あんまりやりたいとは思わないです。そういうことじゃないな、みたいな感じ。ライブって、お客さんとどんだけ向き合うか……向き合うって言うとちょっと重いか(笑)。とにかく何もかも忘れて一緒に爆発できるかみたいなところがあるから、お客さんが目の前にいないライブはそんなにやりたいと思ってない……と本人は考えてますと伝えておきます(笑)。
──ははは(笑)。
どうなるかはわからない。やるかもしれない。でも本人の気持ちはそれです。
夢とか希望とかをあげるんじゃなくて、僕は武器を渡したい
──ソロアーティスト「ano」として、今後どうなりたいですか?
なるべく等身大でいたいなというのはいつも思ってるし、だからこそ全然希望とか夢とか与えられるようなものは作れる気がしないんですけど、夢とか希望とかをあげるんじゃなくて、僕は武器を渡したいなと思ってて。
──先ほども「『この曲が生きるうえでの武器になった』という人が1人でもいてくれたら」という話をしていましたね。
それはずっと思ってることだし、そういう意味では、やってることは昔と変わらないのかもしれない。別に「大衆が共感する曲」とか、「明日もがんばろうと思える曲」とかそういうものじゃなくて、その武器さえ持てば1人で何にでも立ち向かえるような、唯一無二なものを作れたらいいなって思ってるんです。それが僕にとっての音楽だから。今できてるのかって言われたら、たぶんできてないのかもしれない。けど、これからもっとそういう武器を作って渡せていけたらと思うし、僕もその武器を持って、いろんなことに立ち向かえたらいいなと思ってる。
──自分のためにも。
そう。
──デビューしたばかりの人にこういう話を聞いたときに、例えば「大きなステージに立ちたい」とか、「誰もが口ずさむヒット曲を出したい」とか、そういう話をする方が多いですが、そういう気持ちはないですか?
大きいステージは純粋に楽しそうだから、いつかやってみたいなという好奇心はあるし、いろんな人に聴いてもらいたいという気持ちもありますけど、自分の曲をヒットさせようとかは今は全然考えてないです。
──現時点でリリースされている2曲は、誰に聴かせるつもりもなく作っていた曲だったので、たくさんの人に聴いてもらうつもりがないのは当然だと思います。でも、最近も曲作りは続けてるんですよね?
はい。
──ソロ活動が決まってから曲を作るときは、意識に変化はありませんでしたか? 人に聴かせる前提で曲を作るようになったんじゃないかなと。
そうですね……「ヒットを考えてない」というのはあんまり変わらないけど、レパートリーは増えているから、それは聴いてくれる人を考えてるからなのかもしれない。
──じゃあ、それらの曲が聴けるようになる日を楽しみにしてますね。
うん。楽しみにしててください。