ano|僕は武器を渡したい——すべてをやめた“あの”が再び歌い始めるまで

ano名義でソロでの音楽活動を開始し、9月に配信シングル「デリート」を発表したあのが、これに続くソロシングル第2弾「Peek a boo」を配信リリースした。

昨年9月にゆるめるモ!を脱退し、その後の動向が注目されていたあの。かねてから取り組んでいた女優業やタレント業も順調な中、今年10月にはテレビ朝日にて冠番組「あのちゃんねる」もスタートし、彼女はますますその名が広く知られることになった。そんなあのがソロアーティスト・anoとして再び音楽に取り組んだというニュースは、多くのファンに歓迎をもって迎えられた。

彼女がもう一度歌うことを選んだのはなぜなのか。そしてそこに至るまでにどんなことを考えていたのか。このインタビューではグループ脱退後の1年間を振り返ってもらいつつ、自ら作詞した「Peek a boo」に込めた思いを聞いた。

取材・文 / 橋本尚平

全部やめたい、何もやりたくないという気持ちが強すぎて

──あのさんがもしもう音楽をやらないとしたらもったいないと思っていたので、ソロ活動を始めてくれたのは個人的にもうれしいです。

ano

うれしい。そう言ってくれるの。

──もちろん僕だけでなく、同じ気持ちの人は多いはずです。「デリート」がリリースされたときにも、ファンからの「また歌ってくれてうれしい」という反応はたくさん見かけましたし。

そういうリプをしてくれる人もいました。「あー、よかった」って思いました。

──「よかった」ということは、実際に発表されるまではソロデビューについて「どういう反応をされるんだろう?」と心配していたんですか?

賛否両論あるのかなと思ってました。

──どうして否があると思ったんですか?

「アイドルのあのちゃんが好き」って人も、中にはいるのかなと思ったりもして。けど「また歌って」というのは前からずっと言われたから、「まあ大丈夫か」って思ってました。

──前のグループをやめたときは、その後について考えていたんですか?

やめたときは後先なんて何も考えてませんでした。

──その時点では再び音楽活動をするかどうかもわからなかったと。

うん。「とにかく今は何もしたくない。誰にも会えない」みたいな感じだったから。また何かしらやりたいと思えたときにやろう、それまで休もう、って考えてました。

──それ以前から、女優としてもタレントとしても活躍されていましたが、そちらに軸足を置くというのも選択肢の1つとして考えていたんですか?

それはまったく考えてなかったです。ほかの仕事も一旦全部やめようという気持ちだったから。

──じゃあ、すっぱり引退してしまうという可能性もなくはなかった?

そう。どうするのかはあとから決めようと思ってた。そのときはただ、全部やめたい、というか何もやりたくないという気持ちが強すぎて。数年は責任とかいろいろ考えてやめるにやめれなかったけど、そのときはまったく後先考えず何もかもやめちゃいました。

テレビから流れてくる音楽に「なんか楽しそうだな」って感じて

──また歌おうと思えたのは、何がきっかけだったんですか?

しばらく家に引きこもってたんですけど、そのときにテレビとかラジオとかから流れてきたいろんな音楽を聴いて「いい曲だな。音楽ってやっぱいいな」って純粋に思えてきたんです。僕、ホントに流行りに疎いから、最近の音楽も知らないし、今まで自分は音楽はそんなに好きじゃないのかもと思ってたけど違った。好きだった。

──なるほど。

プラス、ファンの人から「また歌ってくれるのを待ってる」って言われたこと。そうなんだって思った。最初はなんかそういうの「うるさ」とか思ってたんですけど。

──まあ、全部やめたいと思ってる時期ですしね(笑)。

そうそう。自分の中で一切やることを決めずにやめたから、そう言われてもなあってなってた。でも、そうやって求めてもらえてることを知ってありがたかったし、それと自分がやりたいことが重なっているのであれば、音楽をやってみてもいいのかもって思えました。

──あのさんの自宅は「デリート」のミュージックビデオの撮影場所にもなっていますよね。ちなみに引きこもっている間、ここでどんな生活をしていたんですか?

“普通の生活”っていうのが、それまでの自分にとってはすごく特別なことだったから、やってみました。例えば料理してみたりとか、そういう今までやらなかったことを。

──じゃあ、わりと心を落ち着けて日常を送れていたんでしょうか?

うーん、心を落ち着けてって感じでは全然なかったかもしれない。殺伐としてた。

──全部やめようと思ったのは、その殺伐とした気持ちをなくしたかったんですよね?

そう。だから結局その感じは拭いきれてないのか。何年もずっと殺伐としてたから、それに疲れて「誰ともいたくない」みたいな状態になっちゃって。対人関係がプツっと切れたみたいな感じで全部やめたので、そのときは知ってる人が周りに全然いませんでした。

みんなに聴いてもらえてよかったなって、逆に僕が感謝してます

──「音楽をやってもいいのかな」と思ったときに、あのさんは何か具体的な行動をしたんですか?

ずっと1人で部屋にこもって作詞をしてました。この「Peek a boo」っていうのも、そうやって去年作った曲です。

──グループにいたときは、自分が作詞した曲は歌っていませんでしたよね。

歌ってないです。でも歌詞はずっと書いてたんです。「それをいつか曲にしよう」みたいなことも特に思わずに。

ano

──じゃあ、実はけっこうストックがあったりするんですか?

そうですね。まだまだあります。出すかはわかんないですけど。

──発表するつもりもなく自分の中だけにしまっていた歌詞を、実際にレコーディングして音源として完成させてみて、感想は?

完成してよかったです。未完成のものが多いから、1曲ずつできあがっていくのはこんなにうれしいことなんだなって知りました。

──手応えはありました?

手応えというか……結局まだ、自分が本当にやりたいサウンドをやれてるわけではないし、突き詰められてもいないから、そこをこれから突き詰めることができたら、さらに自分の納得のいく曲ができそうだなというのはあります。

──ということは今回リリースした2曲については、サウンド面では実験というか、お試しみたいな部分もあるんですか?

ああ、そんな感じです。「お試しでやってみよう」っていうテンションで作ったから、この先リリースする曲はこれとは変わるかもわからない。歌詞もそのとき思ったことしか書いてないし。

──「デリート」について「この曲に救われてる」と言っているファンの反応を見かけました。さっき「誰に聞かせるわけでもなく作っていた」と話していましたし、あくまで自分の本心を歌詞にしているだけで、あのさんの中には「同じ気持ちを持った人たちの代弁者でいよう」という意識はおそらくないと思いますが、赤裸々にさらけ出した自分の素の部分にたくさんの人が共感してくれていることについて、どう思いますか?

なんか……ありがとうございますって感じ(笑)。本当に誰にもどこにも発表しなくていいと思って作ってたから、みんなに聴いてもらえてよかったなって、逆に僕が感謝してます。出してよかったなってすごく思ったし。もしこれで、「この曲が生きるうえでの武器になった」という人が1人でもいてくれたらすごくうれしいです。僕もみんなの声で救われたいけど、僕が作った曲や、僕ががんばることで救われる人が増えるのはいいなって思いました。