ナタリー PowerPush - アンジェラ・アキ
新たな夢への第一歩 有終の美を飾る集大成ベスト
歌が独り歩きした「手紙~拝啓 十五の君へ~」
──「手紙~拝啓 十五の君へ~」は代表曲と言っていいですね。作っているときは、あんな形で広がっていくとは思ってなかったでしょ?
全然思ってなかった。シングルとして気合い入れて作ったとか、そういうことでもなくて。この曲は10代の私が未来の私に宛てて書いた手紙を母が送ってきて、それを読みながら、いろんなことがあるけど必ず時間が解決してくれるから大丈夫だよってそのときの自分に言えたらいいなと思って書いたんです。でも正直に言うと、1行目が書けたときに、これはただならぬものになるなっていう予感はしたんですよね。
──どんどん、ただならぬことになっていったよね。
うん。自分の歌が独り歩きしていくことを初めて実感したのがこの曲でしたね。さっきも言ったけど、教科書にも載せていただいて。中学校の卒業式で歌われるだけじゃなくて、今では小学校の卒業式でも「十五のぼく」を「十二のぼく」に変えて歌ってくれているんです。
──アンジェラといえば「手紙」っていうふうに捉えている人も多いわけですが、それに関してはどうですか?
この曲しか知らないと言われると、少し残念な気持ちにはなりますけど。でもさっき言った通り、歌は独り歩きしていくものだって、この曲でわかったから。歌っているときのプライドみたいなものはちゃんとあるから、別に“手紙のアンジェラ”と思われてもかまわない。セルアウトした気持ちはまったくないので。
──「輝く人」は「手紙~拝啓 十五の君へ~」のアンサーソングっていう言い方をしてましたけど、もともとそういうつもりで書いたんですか?
いや、結果的にそうなったんです。「手紙」を出すときにNHKのドキュメンタリーで何度か中学生たちと交流する機会があったんだけど、みんな若いのに、いろんなものを抱えて生きていてね。ストレスで円形脱毛症になっている15歳の子とか、家庭内の問題で悩んでいる子とか、心がいっぱいいっぱいになりながら生きてる子もいて。もちろんそういう子たちばっかりじゃないけど、いろんな風景、いろんな子を見たことで、私は彼らの気持ちを代弁してこの曲を作って歌っている気がしたんです。「手紙」は彼らに出会う前に作った私からの歌だけど、「輝く人」は会ったあとの気持ちを歌った、彼ら彼女らからの歌というか。
──なるほど。ちなみにこの曲はピアノじゃなくてギターで歌った曲でしたね。
それまではギターを弾きながらできた曲も、アレンジの段階でピアノに置き換えたりしていたんですよ。でもこの曲はあえてピアノに置き換えず、そのままギターでいいんじゃないかって思って。ずっとピアノ、ピアノって言ってたから、ちょっとギターで歌いたくなったの、浮気心で(笑)。
苦悩の末に生み出した「始まりのバラード」
──「始まりのバラード」は2011年6月のリリースだから、さっきの話によるとかなりつらかった時期に書いたわけですね。
本当に曲が書けなくなってたときに作った曲ですね。これは産みの苦しみを最大限に味わって書いた曲。だからなおさら思い入れもあるかな。子宮外妊娠のショックから立ち直りたかったし。震災のこともあったし。「世界一長い夜にも必ず朝は来る」「世界一長い冬にも必ず春は来る」って歌ってるけど、そのくらいストレートに言わないと自分のカラダと心が納得しなかったんですよ。これ以上の苦しみはないっていうときだったから。
──最後のセンテンスでは、「わたしは今歌うよ」って、決意をはっきり表している。
うん。始まりというのは、自分の始まるときでいいんだっていうか。誰かに言われるときではなく、世界に言われるときでもなくて、自分の踏み出すときが始まりなんだっていう思い。それを表現したかったんです。
──こういう曲とはガラッと変わって、「告白」は音にも歌詞にも遊びがある曲でした。
そうそう。私、レジーナ・スペクターがすごく好きなんですよ。で、レジーナの曲を聴いてたら、ちょっと狂った感じの曲があって。
──あの人、そういうの多いですよね。ちょっとヘンな歌詞を書く。
比喩表現がちょっとおかしいでしょ。そういうヘンな表現の仕方で、好きな人への告白をテーマに書けないかなって思って。それで一気に書いたの。
──エレクトロ調のサウンドも面白い。
聴いていて楽しい感じがいいと思って。遊びの感覚を耳でも感じてほしかったんです。
──そして最後のシングルになったのが「夢の終わり 愛の始まり」。この曲、めちゃくちゃいいですよね。この力の抜けたポップ感はすごく新鮮でした。
私もこの曲、すごく好き。亀田誠治さんがアレンジしてくれたんですけど、新しい血を入れようってことでエンジニアも代えて、全部打ち込みでやったんですよ。で、イマドキのサウンドなのにちゃんとオーソドックス感もあるような感じにして。それがうまくいったの。
──フレッシュですよね。こういうフレッシュな曲がラストシングルになったというのも、今思うといいですよね。
うん。ラストシングルに相応しいと思う。
私の次なるステージを温かく見守ってほしい
──このベストアルバムを携えて、4月からいよいよ最後の全国ツアーが始まります。やっぱり締めくくりという意味は持たせるんですか?
はい。このベスト盤に沿った形になります。あと、向こうの大学に行くって決めてから、もっとピアノの腕をあげたいと思って、レッスンを受けているんですよ。その成果がいい感じで出てきたので、それを反映させたいとも思っています。ただの集大成じゃなくて、私自身が自分の成長を感じられるものになればいいなと。今まで観てきてくれた人に「これまでで一番よかったよ」って言ってもらえるものを作りながら、なおかつ私自身が毎晩魔法を感じられるような、いい意味でのドキドキ感を持って演奏したいですね。
──では最後に今の気持ちとこれからのことをもう一度、ファンに向けて。
はい。ファンのみんなには、お別れとかそういうことじゃなくて、私の次なるステージを温かく見守ってもらえたらうれしいです。つながることのできた絆のようなものは永遠だと私は思ってるし、みんなからもらったものは必ずこれからに生かしていく。生かさなきゃいけないって思うしね。だから私の決断を支えてほしい。そしてこのツアーが終わったらしばらくは会えないから、絶対にライブに来てほしい。そこでひとつの時代の思い出を作りましょう。必ずパワーアップして帰ってくるので、次に会える日まで、ずっと持っていてもらえる思い出を。
» ツアー情報
- ベストアルバム「TAPESTRY OF SONGS-THE BEST OF ANGELA AKI」 / 2014年3月5日発売 / EPICレコードジャパン
- 初回限定盤 [2CD+DVD] 3990円 / ESCL-30010~2
- 通常盤 [CD] 3059円 / ESCL-4170
CD収録曲
- HOME
(2005年9月発売デビューシングル) - 心の戦士
(2006年1月発売2ndシングル) - Kiss Me Good-Bye
(2006年3月発売3rdシングル / 「ファイナルファンタジーⅩⅡ」挿入歌) - This Love
(2006年5月発売4thシングル / MBS・TBS系アニメ「BLOOD+」エンディング・テーマ) - サクラ色
(2007年3月発売5thシングル / ソニー「サイバーショット」CMソング) - 孤独のカケラ
(2007年5月発売6thシングル / TBS系ドラマ「孤独の賭け ~愛しき人よ~」主題歌) - たしかに
(2007年7月発売7thシングル / au LISMO CMソング) - Again
(2007年9月発売配信限定シングル / フジテレビ系「めざましテレビ」テーマソング) - 手紙 ~拝啓 十五の君へ~
(2008年9月発売8thシングル / NHK全国学校音楽コンクール「中学校の部」課題曲) - 愛の季節
(2009年9月発売9thシングル / NHK連続テレビ小説「つばさ」主題歌) - 輝く人
(2010年4月発売10thシングル / NHK総合「こころの遺伝子」テーマソング) - 始まりのバラード
(2011年6月発売11thシングル / フジテレビ系ドラマ「名前をなくした女神」主題歌) - I Have a Dream
(「始まりのバラード」カップリング曲 / 「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」テーマソング) - 告白
(2012年7月発売12thシングル / TVアニメ「宇宙兄弟」エンディングテーマ) - 夢の終わり 愛の始まり
(2013年7月発売13thシングル / シオノギ製薬「セデス・ハイ」CMソング)
初回限定盤ボーナスディスク収録曲
- Rain
(ミニアルバム「ONE」収録) - 宇宙
(1stアルバム「Home」収録) - MUSIC
(1stアルバム「Home」収録) - TODAY
(2ndアルバム「TODAY」収録) - モラルの葬式
(2ndアルバム「TODAY」収録) - One Melody
(2ndアルバム「TODAY」収録) - 愛のうた
(2ndアルバム「TODAY」収録) - ANSWER
(3rdアルバム「ANSWER」収録) - ダリア
(3rdアルバム「ANSWER」収録) - Final Destination
(3rdアルバム「ANSWER」収録) - LIFE
(4thアルバム「LIFE」収録) - Every Woman's Song
(4thアルバム「LIFE」収録) - 愛と絆創膏
(4thアルバム「LIFE」収録) - Cry
(6thアルバム「BLUE」収録) - One Family
(5thアルバム「WHITE」収録 / NHK「宇宙の渚」テーマソング)
初回限定盤DVD収録内容
- 150分にもおよぶ、全てのミュージックビデオ+「手紙」の新ミュージックビデオ、未発表の秘蔵ライブ映像を収録
アンジェラ・アキ
1977年徳島県出身、ピアノ弾き語りスタイルが特徴の女性シンガーソングライター。日本人とイタリア系アメリカ人とのハーフで、黒縁メガネにTシャツ&ジーンズといった気取らない格好がトレードマーク。中学卒業時からアメリカに移住し、大学時代から本格的に音楽活動を開始した。2005年9月にシングル「HOME」でメジャーデビュー。2006年6月にリリースした1stアルバム「Home」は60万枚を超えるロングセラーを記録し、老若男女問わず幅広い人気を獲得する。また、同年12月日本武道館にて史上初となるピアノ弾き語りライブを行い、以降年末の武道館弾き語りライブが恒例化する。2008年には全国学校音楽コンクールの課題曲として「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」を提供し、このシングルはプラチナディスクに認定。2009年リリースの3rdアルバム「ANSWER」もチャート1位を記録した。2013年11月に、2014年秋からアメリカの大学に留学しブロードウェイミュージカルプロジェクトに専念することを発表。2014年3月5日にベストアルバム「TAPESTRY OF SONGS -THE BEST OF ANGELA AKI」をリリース後、4月より全44公演の全国ツアーを実施し、8月4日の東京・日本武道館公演をもって日本での音楽活動を無期限休止する。