なんかそれっぽく聞こえる音楽の寄せ集め
──では、本題の「アロハTraveling」に移りたいと思います。こちらは9月に開催予定の東名阪ツアー「angela Tourism -aLIVE & Message-」のテーマである“旅”に沿った楽曲とのことですが、「Alone」とは対照的に、めちゃくちゃやりましたね。
atsuko たぶん、もうちょっと普通の曲を作ることもできたんですけど、それだとつまらないと思って。アニメのタイアップがあるわけでもないから、“旅”というコンセプトだけ決めて、あとは自由に曲を作ろうと思ったときに……東京ディズニーランドの「イッツ・ア・スモールワールド」って、乗ったことあります?
──あります。中学生のときに。
atsuko あれはボートに乗って世界一周するアトラクションで、エリアごとにテーマ曲のアレンジや歌われている言語が変わっていくじゃないですか。そういうことをやってみたくなったんですよ。でも、同じメロディでアレンジだけ変わっていくよりも、例えばサビのメロディは同じだったとしても、それ以外のパートはその国ならではの楽器や音楽ジャンルを取り入れて、まったく違うものにしてもいいんじゃないか。それをギュギュッとつなげて1つの曲にできたらもっと面白いんじゃないか……という妄想から始まった曲ですね。
──その妄想通りにできちゃいましたね。
atsuko 私が曲を作り始めたとき、KATSUさんがいなかったんですよ。岡山に帰ってたんだっけ? まあ、とにかくいなくて、私1人でこの曲の原型というか、例えばタンゴだったりヨーデルだったり沖縄民謡だったり、各パートを単体で作っていたんです。「いつかつなげられたらいいな」と思いながら。でもある程度作ったら、もう自分ではどうしていいかわからなくなってしまって(笑)。そんなときにKATSUさんが帰ってきたので、私が「ここまで作ったんだけど、どう思う?」って聞いたら「俺ならこの国も入れたい」と、さらにいろんなジャンルを上乗せしてきたんです。その結果がこれですね。
──「アロハTraveling」は頭サビから始まり、Aメロに相当するパートとサビを繰り返す、洋楽でいうヴァース / コーラス形式ですが、ヴァース部分は舞台となる国によってメロディから何からまったく違っていますね。順を追って見ていくと、まず頭サビはハワイアン(アメリカ)で、最初のAメロがアラビアン(アラブ)、次のサビはメロディは同じでもアレンジはカリビアン(メキシコ)になっていて、序盤から目まぐるしい。
KATSU 最初はサビを統一しようと思っていたんですけど、やっぱりこの曲はツアーありきの楽曲で。「ライブを楽しむための曲があったらいいね」「今は旅行に行きづらいけど、曲を聴いて世界中を旅してるような気分になれたら面白いよね」とか、スタジオの帰りにみんなでフラッシュアイデア的に言っていたのが起点になっているんです。だからとりあえず行きたい国を並べて、頭サビがハワイアン、1サビがカリビアンだから、2サビはサンバ(ブラジル)にしてみたり、「これ、どこかで崩壊するな」と思いながら組み立てていった感じですね。
atsuko 最終的に10カ国+1惑星で、計14の音楽ジャンルに落ち着いたんだよね。
KATSU 各国の音楽ジャンルは、あくまで日本人が抱いているであろうイメージなんですよ。つまり「この楽器の音色とフレーズなら、あの国が思い浮かぶんじゃないか」みたいな。それが本物である必要はなくて、なんかそれっぽく聞こえる音楽の寄せ集めを、ダメ元で目指したようなところも正直ありますね。
──エセ民族音楽といいますか、タモリさんのデタラメ外国語みたいな。でも、そのステレオタイプな感じがキャッチーでもあります。
KATSU いかに楽器とフレーズのアイデアを出せるかがポイントだったんですけど、よく知らない国もあって。例えばヨーデルって、スイス民謡であることは知っていても、どういう楽器が使われているかまではわからない。じゃあ、スイスのイメージってどんなだろうと考えたとき、出てきたのが「アルプスの少女ハイジ」で。
──歌詞もほぼ「チーズを食べる」しか言っていないですね。
atsuko スイスに行ったことがないので、アルプスとチーズぐらいしか浮かばなくて(笑)。でも、スイスに限らず、そもそも深掘りできるほどの尺がないんですよ。だから歌詞でもその国を感じてもらうために、誰もが知っているような言葉を集めるしかない。
──いい意味で言うんですけど、表層的ですよね。
KATSU そうそう(笑)。上っ面だけをなぞってつなぎ合わせた感じ。イミテーションであることの面白さってあると思うんですよ。
勝手なイメージでその国に飛んでいってほしい
──歌詞の話を続けると、ヨーデルに至る前、2Aにあたるタンゴ(アルゼンチン)とフラメンコ(スペイン)のパートも「知っているスペイン語を並べました」みたいな感じですよね。
KATSU もう、そんなんばっかり。
atsuko 完全にイメージですね。アラブもイメージだけで書いているんですけど、確か仮歌を入れたときにKATSUさんに直されたんだよね?
KATSU 仮歌では「恋のアブラカダブラ」が「恋の開けゴマ」になっていたんですよ。「開けゴマ」はちょっとどうかなと。
atsuko そこでKATSUさんが「なんか呪文みたいなのなかったっけ?」と言い出して、「アブラカダブラ」になったんだよね。
KATSU すべてにおいて「なんか○○みたいなの」とか「○○っぽい」だけで作ってる。
atsuko サビの1行目の「Traveling リンリリン リンリンリリン アロハオエ」もメロディと同時に出てきた歌詞なんですけど、「アロハオエ」ってすごくハワイっぽいし、ハワイといえば常夏の島とか楽園のイメージがあるじゃないですか。だからキャッチーに聞こえるんじゃないかと思って。仮歌を入れたときにKATSUさんも「もう『アロハオエ』が頭から離れない」と言っていたので、ここは正解だったのかなと。ハワイにも行ったことないんですけど。
──そしてスイスのあとは沖縄民謡からの演歌と、日本にたどり着きます。
KATSU 民謡は「蒼穹のファフナー THE BEYOND」のイメージソング(2017年12月発売の9thアルバム「Beyond」収録の「Prologue -君の向こう側-」)やオープニングテーマ(2019年5月発売の28thシングル「THE BEYOND」表題曲)とかで、演歌は「全力☆Summer!」(2017年7月の26thシングル表題曲)でちょっとやっているんですけど、このへんから様子がおかしくなってきますね。
──ヨーデルパートでハイジがスキップしていたように、演歌パートでは与作が木を切っていそうです。
atsuko でも、英語で「Hey! Hey! Ho!」と言っているので……。
KATSU パクリじゃない(笑)。
atsuko そのあと中華っぽい間奏が入ってワルツ(フランス)になるので、ソプラノ歌手のようにファルセットで歌い上げているんですけど、気付いたらそこにKATSUさんの声が被せてあって。ついでにいうとフラメンコのところでもKATSUさんが歌っているんですよ。
──デュエット風になっていますね。
atsuko それもレコーディングしたときはなかったんですけど、あとから自分で勝手に入れたみたいで。たぶん「俺が入ったほうが面白い」とか思ったんでしょうね。
KATSU フラメンコは男声が入ったほうがそれっぽいというか、アントニオ・バンデラスみたいな人が入ってくるイメージがあったんです。本来ならそういう歌を歌えるボーカリストを呼んだりするんでしょうけど、完璧にその国の音楽に仕上げたいという気はさらさらなくて。あくまでそれっぽい、日本人の勝手なイメージでその国に飛んでいってほしいだけなんですよね。だから歌詞にも深い意味はないです。ただ、ふざけてはいないんですよ。
レクチャー動画でリズムを取る練習をしよう
──先ほどKATSUさんが「このへんから様子がおかしくなってくる」とおっしゃいましたが、フランスへ行ったあと、いきなりアイドルあっちゃん(angelaの事務所の後輩で“あっちゃん星のオムライス村”からやってきた17歳という設定のatsukoそっくりなアイドル)が登場しますね。
atsuko そのあっちゃん星が、10カ国+1惑星の「1惑星」です。
KATSU 「アロハTraveling」はレコーディングしながら作っている部分もあって、さっきのワルツとかフラメンコであとから僕の声を入れたのもそうなんですけど、このあっちゃんパートも実は1回レコーディングが終わってから録り直しているんですよ。というのも、ここは最初はオールディーズになっていて、それだと次にジャズとディキシーランドジャズが控えているのでアメリカが3回続いちゃうんです。だったら、ここはatsukoさんじゃなくてあっちゃんというキャラクターにデジタルなポップスを歌ってもらって、あっちゃん星という惑星を追加したほうが面白いんじゃないかって。そういう試行錯誤の連続でもありました。
──ジャズパートでは「オーマイダーリン ちゃんとついてきてる?」と、リスナーを心配してくれているのが優しいなと思って。
atsuko あまりにもいろんな国に行くので(笑)。
KATSU 確認しておかないとね。
atsuko 突然曲調を変えるという手口は「全力☆Summer!」とか「乙女のルートはひとつじゃない!」(2020年4月発売の29thシングル表題曲)とかでも使っていたけれど、ここまでコロコロ変わることはなくて。それは私たちにとって挑戦でもあったんですけど、面白がりながらできたし、一般的なAメロ→Bメロ→サビみたいなパターンから外れたことで「音楽って自由なんだな」「何をやってもいいんだな」と気付けたんですよね。まあ、それが成功しているのかはわからないんですけど(笑)。
KATSU 「すごくいい曲なんで聴いてください」と言っていい曲なのかはわからない(笑)。
atsuko でも、この曲の本領はきっとライブで発揮されると思うんですよ。だから、このあとレクチャー動画も出す予定で。
──レクチャー?
atsuko はい。ライブツアーの物販でカスタネットを売るんですよ。で、曲の中に出てくるいろんな国の音楽のリズムに対して「ここはこうやって叩くんだよ」と、KATSUさんがレクチャーする動画をYouTubeにアップします。例えばワルツだったら3拍子で「うん・タッタ、うん・タッタ」とか。皆さんには家でその動画を見て練習してきてもらって、ライブ会場で「さあ、みんなでやってみよう!」みたいな。
KATSU カスタネットを作りましょうという話になったときに、クラップだけでもいろんな音楽ジャンルを表現できることに気付いて。(12拍子を叩きながら)これだけでフラメンコになるし、フィンガースナップをすればジャズになる。あるいは演歌だったら揉み手で手拍子を打つんですけど、これって日本独特の文化じゃないかな。ただ、沖縄民謡に関してはカチャーシーを踊ってもらいたいので、ここだけ「踊れー!」みたいになるんですよ。その踊り方にしても男性は手をグーにして力強く、女性はパーにして優雅に踊るっていう、これもすごい文化だと思うんですよね。
──angelaはこれまでもさまざまな楽曲で民族音楽的な要素を取り入れてきましたし、「アロハTraveling」はその全部乗せというか、お二人の引き出しの多さのなせる業でもあるのかなと。
KATSU この19年間アニソンを作り続けてきた中で、僕らは常にフレーズや音色でそのアニメの世界へリスナーを連れて行くことを考えていて。例えば日本が舞台で着物を着ているキャラクターたちが出てくる作品なら、和楽器を入れたりするんですよね。そういう意味では「この国を表現するにはどうすればいいか?」という点に関しては、ほとんど悩まなかったですね。ただ、それをつなげるのだけは本当に大変でした。
──つながっているのがウソみたいな曲だと思います。
KATSU まずトラック数が今までのangelaの曲の中でずば抜けて多くて。アラビアンとかサンバのパート単体で普通に1曲分ぐらいトラック数を使っているんですよ。
atsuko ジャンルが変われば使う楽器も変わってくるからね。
KATSU そう。14ジャンルあるから、単純計算で14曲分のトラック数になる。沖縄民謡なんかは三線が2本と三味線、笛、パーカッション、かけ声ぐらいだから15、16トラックに収まっているんですけど、トータルの楽器数がハンパじゃなくて。でも、atsukoさんは歌う気満々だったので、なんとかしてつなげるしかない。
──曲調と同様に歌い方もコロコロ変わるので、歌うのもかなり大変ですよね。
atsuko レコーディングだったらね、途中で1回止めてから次のパートを録ることができるんですけど、ライブとなると一気に歌い切らなければいけないので……ちゃんと歌えるかどうかは、ライブに来て確かめてください。
KATSU ヨーデルを歌った直後に沖縄民謡を歌ったり、ワルツを歌った直後にアイドルあっちゃんになったり、課題は多いよね。でも、レコーディングでもほぼ通して歌っているんですよ。行けるところまで行って、たぶん1回止めたぐらいじゃないかな。だから本番も大丈夫だと思うんですけど、ライブに来て確かめてください。
ツアー情報
angela Tourism -aLIVE & Message-
- 2022年9月4日(日)大阪府 なんばHatch
- 2022年9月17日(土)愛知県 DIAMOND HALL
- 2022年9月24日(土)東京都 チームスマイル・豊洲PIT
プロフィール
angela(アンジェラ)
岡山県出身のatsuko(Vo)とKATSU(G, Key)による2人組ユニット。それぞれ音楽を志して上京したのちに結成し、2003年にテレビアニメ「宇宙のステルヴィア」のオープニング主題歌「明日へのbrilliant road」でメジャーデビュー。以来「蒼穹のファフナー」シリーズ、「K」シリーズ、「シドニアの騎士」、「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」など、多くの人気アニメの関連楽曲を担当している。2021年5月に10thアルバム「Battle & Message」を発表。2022年7月に「Alone」、8月に「アロハTraveling」を配信リリースした。
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