angela|オリジナルアルバムだからこそ伝えられるメッセージがある

angelaが10thアルバム「Battle & Message」をリリースした。

今作にはコロナ禍でさまざまな“戦い”を強いられているリスナーに向けてangelaからの“メッセージ”が詰め込まれており、表題曲「Battle & Message」はフィーチャリングアーティストとして遠藤正明を招いて制作されたデュエットソングとなっている。さらにアルバムには「P フィーバー革命機ヴァルヴレイヴ2」「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」「蒼穹のファフナー THE BEYOND」といったアニメ作品とのタイアップ曲のほか、「I'll be...」「Do it!」「夢と希望に殺される」「君想う」といった書き下ろし曲が多数収録されている。本特集ではアルバムのために用意された新曲について2人に話を聞くインタビューを実施。普段はアニメ作品に寄り添い作品のメッセージを伝える役を担うことの多いangelaがオリジナルアルバムの制作を通じて伝えたいメッセージとは? アルバム制作の経緯を紐解きつつ、angelaの2人が楽曲に込める熱い思いに迫った。

取材・文 / 須藤輝

アニソン歌手が歌う令和の「3年目の浮気」

──「Battle & Message」って、シンプルかつ強いアルバムタイトルですね。

atsuko(Vo) 去年の春頃から、活動を制限されたミュージシャンがすごい勢いでSNSやYouTubeを駆使し始めたじゃないですか。私たちも然りなんですけど、そういうのを見て、クリエイターとか表現者と呼ばれる人たちは、戦いながらも自身のメッセージを発信したくてたまらないんだなと思ったんです。そこで「Battle & Message」という言葉が浮かび上がってきて。我々も、たまにコミカルな曲を作る機会もありますけど、主にバトル属性のアニメの楽曲を作ってきているので、このテーマは自分たちに合うんじゃないかと。

KATSU(G, Key) 僕らは今までアニメに寄り添った、作品のメッセージを伝える曲を作ってきてたんですけど、特にこの1年は「じゃあ、angela自身のメッセージってなんだろう?」と考えていたんですよ。そこでatsukoが「次のアルバムのタイトルは『Battle & Message』にしたい」と言ってくれて、しっくりきました。やっぱり純粋にメッセージを伝えることが僕らにとっても必要で……なんかアーティストみたいなこと言ってますけど(笑)。

──そんなアルバムのタイトルトラックで1曲目の「Battle & Message」は、atsukoさんと遠藤正明さんとのデュエットという。

atsuko(Vo)

atsuko ずっとデュエットはしたかったんですよ、男性と。私たちの世代のデュエットといえばやはり昭和の「3年目の浮気」とか「男と女のラブゲーム」とか、男女のバトルなんですよね。じゃあデュエット相手は誰がいいかなと思ったとき、遠藤さんしか考えられなかったんです。

KATSU atsukoが「アニソン歌手が歌う令和の『3年目の浮気』をやりたい」と言ったとき、これは斜め上をいった面白さがあるなと。「3年目の浮気」の男のキャラクターってやんちゃで、でもちょっと尻に敷かれてる感があるんですよ。なので、ご本人には申し訳ないんですけど、遠藤さんにぴったりだなって。これは影山ヒロノブさんにはお願いできない(笑)。

atsuko とはいえ、私たちと遠藤さんは飲み友達みたいな関係性でもないし、本来なら事務所やレコード会社を通してオファーするのが筋なのは重々承知なんですけど、こういうのって「会社に言われてやりました」じゃなくてお互いが「やりたいね」ってならないとつまらないと思うんです。なので、まず私の「やりたい!」という熱意を直接ご本人にお伝えすべきだなと。私は4年前に遠藤さんとLINEを交換していたんですけど、最初の挨拶とスタンプ1個でずっと止まっていたので「ついにこれを使うときが来たな」と思って。でも、ただデュエットのお願いをするだけじゃエンタメ性がないじゃないですか。

──いや……ああ、はい。

atsuko そこで、私が1人でカラオケに行って遠藤さんの楽曲を熱唱している動画を撮って送ったんです。

KATSU ひどいよね(笑)。

atsuko そしたら「うまいな!」とお返事が来たので「それはそれとして、実は……」と切り出したら、即「俺でいいなら全然やるよー」と。そこから関係者の皆さんと情報を共有して進めていったんですけど……。

KATSU 遠藤さんにLINEする前から仕込みはしてたんだよね。

atsuko どうしても遠藤さんとのデュエットを実現させたかったので「もう曲はできてます」「あとは遠藤さんからOKをもらうだけ」という状況を先に作ってね。そうやって外堀を埋めておいたんですけど、遠藤さんが思いのほかあっさりと快諾してくださったんですよ。

遠藤正明のお茶目さを引き出したい

──「Battle & Message」は遠藤さんとのデュエットということでハードロック然とした曲を想像していたのですが、古きよきブラスロックに仕上がっていますね。

KATSU atsukoと遠藤さんが歌うことが発表された時点で「暑苦しいの確定」みたいな感じになるじゃないですか。それをやっても想定内のものしかできない。遠藤さんって、JAM Projectの遠藤正明としてステージに立っているときは熱くてカッコいいんですけど、楽屋とかではめちゃめちゃお茶目なんですよ。

atsuko そのお茶目さを引き出したかったんだよね。

KATSU 僕としては、JAM Projectのファンの皆さんは「こんな遠藤さんもいるんだ?」みたいに思うかもしれないけど、遠藤さん個人のファンの皆さんは「これが本当の遠ちゃんだ!」と喜んでくれるだろうという自信はあります。

atsuko レコーディングも面白かったね。

KATSU うん。1人ずつブースで歌うんじゃなくて「いっせーのせ」で2人同時に録って。しかもテイクを重ねるうちに……といっても5テイクぐらいしか録ってないんですけど、2人が夫婦漫才的なアドリブをどんどん入れてくるんですよ。

atsuko 遠藤さんは、頼んでないのに勝手なことをいっぱいするんです(笑)。それがうれしかったし「遠藤さんがそう来るなら、私も乗っかっちゃおう!」みたいな。ディレクションはKATSUさんがやったんですけど、何も注文しなかったよね?

KATSU 「いいぞ、もっとやれ」しか言ってない。

──曲の最後に遠藤さんが「ごめん」と謝っているのもアドリブですか?

KATSU あれはレコーディングの最後に「OKテイクは十分録れているので記念に1テイク、自由に歌ってください」とお願いしたら、本当に自由で。ご本人もやりすぎたと思ったのか、歌い終わってから「ごめん」って(笑)。その「ごめん」が「Battle & Message」という曲のオチとしてハマると思ったので「遠藤さん、これ使わせてください」と。

atsuko 歌詞の内容は言ってしまえば痴話喧嘩なんですけど、そのわりには私も歌ってて楽しくなりすぎちゃって、声が生き生きしてるんですよね。ただ、やっぱりお互い歌手だし、もっと難しいハモリとか掛け合いとか音楽的なテクニックを見せたいという欲求があったと思うんですけど、この曲はシンプルなものにしたくて。わかりやすく、女性が歌うパートがあって、男性が歌うパートがあって、サビは一緒にみたいな。それも昭和のデュエットの流れですよね。

1回だったらボケられるけど、10回はしんどい

──アルバム用に制作された新曲を中心に触れていくと、次の新曲は3曲目の「I'll be...」です。この曲は歌詞を読む限り、コロナ禍におけるatsukoさんもしくはangelaの心境を歌っている?

atsuko そうですね。現時点で私たちは1年以上有観客ライブをやっていないので「早くライブやりたいな」とか「ファンの皆さんに会いたいな」とか、ざっくりそういうことを歌っています。「I'll be...」は最後に作った曲なんですけど、最後の曲ってだいたい「あと1曲どうするよ?」みたいな感じになってくるんですよ。でも今回は、私が前々からやりたかったことがあって。

KATSU atsukoはコードが1つしかない曲を作りたがってたんですよ。

atsuko ただ、やっぱりKATSUさんもメロディアスな曲が好きで、コードが1つという制限のもとでそれをやるのは難しい部分があったんですけど、私が「アルバム曲だし、自由だし、最後だし、やろうよ!」と押し切って。ざっくりした流れとメロディを私が作ってKATSUさんにアレンジしてもらったら、どこか中近東の匂いがする謎のダンス曲になりました。

──例えばサビの「I'll kiss」と「歩き」で、英語と日本語が同じ音のように聞こえたり、洒落ていますよね。

atsuko 私はこういうダンス曲では、例えば「生きるってなんだろう?」みたいな深いことを歌っちゃいけないと思っているんですよ。なので、そういう遊び心も入れつつ、基本的には“5分で書いたような歌詞”に見えるよう心がけました。

KATSU 僕は、コードが1つの曲は極力やりたくなかったです。

atsuko ふふ(笑)。

KATSU アレンジャーの技量にすべてがかかってしまうので。コードが1つしかない音楽って、ジャンルでいうとトランスミュージックとか民族音楽がそうなんですよ。そういう音楽を参照しつつ、ある意味でトランス状態で作るような楽しさはあったし、自分なりに面白いものができたとは思うんですけど、1つのコードに感じさせないアレンジというのは本当に大変で。

atsuko (テーブルに置かれた紙コップを手に取り)「このコップで10回ボケて」って言われるようなもんだよね。

KATSU そう、モノボケと一緒。1回だったらボケられるけど、10回はしんどい。だから僕はもうこの「I'll be...」で限界です(笑)。

atsuko そんなことないよ、まだいけるよ!

angela

8年ぶりの「革命機ヴァルヴレイヴ」曲

──続く「連撃 Victory」と「クライシス」はいずれも「P フィーバー革命機ヴァルヴレイヴ2」用に書き下ろされた楽曲です。

atsuko 「ヴァルヴレイヴ」の曲をまた書くとは思いませんでした。

──angelaがアニメ「革命機ヴァルヴレイヴ」のエンディングテーマ「僕じゃない」を手がけたのが2013年ですから、8年ぶりになりますね。

atsuko ついこの間のような気がしますけどね。これは裏話なんですけど、サンライズ(「革命機ヴァルヴレイヴ」の制作会社)の音楽出版の偉い人が岡山県出身で、高校時代にKATSUさんのバンドと私のバンドと対バンしたことがあって。

KATSU 僕の1個下で幼馴染なんですよ。彼は音楽をやめてサンライズに入社して今は偉くなっちゃったんですけど。

atsuko その人からKATSUさんに、世の中がコロナで大変になる前だからもう1年以上前ですけど、突然「飲みに行こう」って連絡があったんだよね。

KATSU 飲みに行って僕が「よう、ひさしぶり」って言ったら、開口一番「曲を作ってほしいんだけど」って。

atsuko 8年経って新たに曲が必要になったときに「angelaがいた」って思い出してもらえたのはうれしいですよ。

──「連撃 Victory」は四つ打ちのシャープなロックナンバーで、「クライシス」はより重厚でドラマチックなロックナンバーと、同じロックナンバーでもタイプが異なりますね。

atsuko 当初は1曲だけの予定だったんですけど、「連撃 Victory」を途中まで作っていたら「もう1曲お願いできますか?」と連絡が来て(笑)。もちろん喜んでお受けしたはいいけれど、やっぱり「ヴァルヴレイヴ」はバトル属性の作品だし、もう1曲をバラードにするのもちょっと違うよなと。もともと「連撃」は、(水樹)奈々ちゃんと西川(貴教)さんがオープニングテーマとして歌った「Preserved Roses」と「革命デュアリズム」の遺伝子を受け継ぐような楽曲にしようと考えていたんですけど、「連撃」が真っ赤に燃え盛る炎だとしたら、「クライシス」は同じ炎でも青い炎みたいな、クールなロックにすることで差別化を図りました。

KATSU 特に「連撃」は、「Preserved Roses」を作曲・編曲した浅倉大介さんのサウンドをかなり意識してますね。あと、いろんなアニソンがある中で、“サンライズ色”ってあるんですよ。

atsuko サンライズ色(笑)。

KATSU そのサンライズ色を醸し出す要素を研究したうえで、「連撃」とは違う方向性の「ヴァルヴレイヴ」感を模索してできたのが「クライシス」ですね。

atsuko 「連撃」に関してもう1つ言うと、間奏で「撃て 撃て 撃て 撃て」と歌っている部分があって、ここは私の中で最もダサいポイントなんですね。私の言う「ダサい」は褒め言葉で、「キャッチー」とほぼ同義なんですけど、KATSUさんがトラックダウンのときに「撃て」のボリュームをけっこう下げたんです。でも、そのあと取材があって、インタビュアーさんがこの曲のこの部分が印象的だったと褒めてくださったんですよ。そしたら後日、KATSUさんがエンジニアさんに「やっぱり『撃て』のとこ、ちょっと上げたいんですけど」って(笑)。

KATSU 「連撃」はトラックダウンを4回やりました。

atsuko そういうとこ、KATSUさんはわりとグラグラするよね。私は「下げなくていいのにな」と思ってたからよかったんですけど。