内澤崇仁(androp)×月川翔(映画監督) | 音楽と映像の理想的な作り方

andropが3月7日にニューアルバム「cocoon」をリリースした。

シングル「Prism」「SOS! Feat. Creepy Nuts」や、映画「伊藤くんA to E」主題歌の「Joker」、さらにノスタルジックな雰囲気のバラードナンバー「Hanabi」、Aimerがボーカルで参加した「Memento mori with Aimer」などを収録した本作では、シンプルなバンドサウンドと奥深い音楽性がバランスよく共存している。

今回音楽ナタリーでは「cocoon」の完成を記念し、andropの内澤崇仁(Vo, G)と映画監督の月川翔の対談を実施した。月川が監督を務めた映画「君と100回目の恋」の劇中歌「アイオクリ」「BGM」をandropが提供したことで本格的な交流が始まった2人に、音楽と映像の関係について語り合ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 後藤壮太郎

「君100」では楽曲提供だけでなく演技も

──月川監督と内澤さんが初めて会ったのはいつ頃ですか?

左から内澤崇仁(androp)、月川翔。

月川翔 もともと僕が一方的にandropの音楽を聴かせてもらっていたんです。「Bright Siren」「Bell」のミュージックビデオがすごくカッコいいなと思って、それ以来ずっと聴いていて。その後、長澤まさみさんのマネージャーさんと仕事をしたときに「最近、andropというバンドが好きで」という話をしたら、「長澤がMVに出演するよ」と。

内澤崇仁(androp) 「End roll」(2012年)ですね。

月川 そうそう。その流れでandoropのライブを観させてもらって、そのとき初めてメンバーとお会いしたんです。ライブも素晴らしかったですね。1曲目が確か「MirrorDance」で、リズムに合わせてライトが点滅して、メンバーがシルエットで登場して。それが初めての“生androp”で、始まった瞬間から大興奮でした。

内澤 すごくしっかり覚えてくれてるんですね! うれしいです。

──そして2017年公開の月川監督の映画「君と100回目の恋」では、劇中歌をandropが担当しました。

月川 映画の中に学生のバンドが出てくるんですが、そのボーカルが主人公を演じたmiwaさんで。「男性のアーティストに作曲してもらって、miwaさんに歌詞を書いてほしい」というところから、ぜひandropにお願いしたいという話になったんです。それが「アイオクリ」ですね。

内澤 お話をいただいたときは、単純にすごくうれしかったですね。しかも比較的自由に作らせてもらって。

月川 「『この瞬間を大事に生きよう』ということを描きたい」みたいな話はしましたけど、具体的に「こんな曲にしてほしい」とは言ってなかったので。

内澤崇仁(androp)

内澤 映画を通して伝えたいメッセージを月川監督から聞かせてもらって、それを音楽にしていく感じだったんです。いくつか曲のモチーフを送って、そこから月川さんに選んでもらって、miwaさんとスタジオに入って仕上げていきました。

月川 そのほかの楽曲のモチーフは、映画の中の曲作りのシーンに使わせてもらったんです。何度も同じ時間を繰り返すというストーリーだったから「登場人物が経験したことによって、作る曲も変わってくる」ということを表現したかったので。

内澤 坂口健太郎さんがリアルにギターを弾いていたのも驚きました。出演者の皆さんの演奏がどんどん上達していく過程も知っていたので、映画の中で演奏するシーンはすごく感動しましたね。「短期間でここまでうまくなるなんて、すごいな」って。

月川 撮影が終わったあと、夜中に楽器の練習をしてましたからね。途中で演奏が止まってしまう場面もあるんですけど、撮影前にそのシーンをandropの皆さんに再現してもらったんですよ。

内澤 ベースの前田(恭介)くんがドラムのほうを振り返って、演奏を止めさせるっていう。あれが初演技でした(笑)。

期待以上の曲を作りたいという思いで臨めた挿入歌「BGM」

月川 「君と100回目の恋」では、本当にいろいろな形で協力してもらったんですよ。挿入歌の「BGM」も作っていただいて。

内澤 飲みの席でいきなり言われたんですよね、「挿入歌もお願いしたんだけど」って。

月川 そうでした(笑)。僕のほうからは「音の輪郭はブライアン・イーノ、反復しながら変化する感じはスティーブ・ライヒ、楽しいんだけどもの悲しい雰囲気はSigur Ros」みたいな話をさせてもらって。あとは「こういうシーンで使います」ということだけをお伝えしたんですが、次の打ち合わせのときに内澤さんが持ってきてくれたラフ音源を聴いて「コレですね!」って。

内澤 飲みの席で話を聞いたとき、すぐイメージが湧いたんです。挙げてくれたアーティストも好きなものばかりだったし、作りやすかったんですよね。

左から月川翔、内澤崇仁(androp)。

月川 映像は先に撮っていたので、あとは曲に合わせて編集したんですよ。「BGM」は間奏がかなり長いんですが、それが最高に心地よくて。映画の中でも数少ない幸せなシーンだったし、編集してるときも楽しくて仕方なかったです。

内澤 映像に合わせられるように、間奏パートは繰り返してもいいし、カットしてもいいように作ったんです。出来上がりを観るとかなり長く使ってもらってたので、すごくうれしかったですね。キスシーンで流れる音もイメージ通りでした。

月川 そうですよね。個人的にも「BGM」は一番好きな曲になりました。

内澤 ありがとうございます。管楽器を使ったのも初めてだったし、新しいことにチャレンジできたこともありがたいなって。ここまで深く映画作りに関わらせてもらったのは初めてだったし、「こんなにも愛情を注ぎ込んで作っているんだな」ということもわかって。とにかく月川監督の熱意がすごかったんですよ。その気持ちに応えたい、期待以上の曲を作りたいという思いで臨めたのも楽しかったです。バンドで制作しているときは孤独を感じることも多いんですが、「君と100回目の恋」のときは一緒にモノ作りしている感覚だったんですよね。

月川 こちらこそ、ありがとうございました。個人的に好きで聴いてたandropと仕事ができたこともよかったし、本当にいい曲を作っていただいて。

内澤 月川監督はこちらの気持ちも受け止めてくれるし、まっすぐに意志を伝えてくれるんです。「映画監督は怖い」という勝手なイメージを覆してもらいました(笑)。

月川 よく「映画監督らしくない」って言われますけどね(笑)。

androp「cocoon」
2018年3月7日発売 / image world / ZEN MUSIC
androp「cocoon」初回限定盤

初回限定盤 [CD+DVD]
4212円 / UPCH-7399

Amazon.co.jp

androp「cocoon」通常盤

通常盤 [CD]
3240円 / UPCH-2152

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CD収録曲
  1. Prism
  2. Arigato
  3. Joker
  4. Hanabi
  5. Sorry
  6. Catch Me
  7. Sleepwalker
  8. Kitakaze san
  9. SOS! feat. Creepy Nuts
  10. Proust
  11. Ao
  12. Memento mori with Aimer

bonus track

  1. Tokei(album ver.)※通常盤のみ収録
初回限定盤DVD収録内容

studio live

  • Catch Me
  • Proust
  • Hanabi
  • SOS!
one-man live tour 2018 "cocoon"
  • 2018年4月28日(土)愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
  • 2018年5月3日(木・祝)宮城県 電力ホール
  • 2018年5月12日(土)福岡県 福岡国際会議場
  • 2018年5月26日(土)大阪府 NHK大阪ホール
  • 2018年6月3日(日)神奈川県 パシフィコ横浜 国立大ホール
androp(アンドロップ)
androp
内澤崇仁(Vo, G)、佐藤拓也(G, Key)、前田恭介(B)、伊藤彬彦(Dr)の4人組ロックバンド。2009年12月に1stアルバム「anew」でデビュー。2011年2月にメジャー第1弾作品となる3rdアルバム「door」をリリースした。2014年3月には東京・国立代々木競技場第一体育館で行われた初のアリーナ単独公演を実施。2016年3月に自主レーベル・image worldを設立し、10月には4thアルバム「blue」を発売。2017年2月からはユニバーサルミュージック内のZEN MUSICとタッグを組み、シングル「Prism」をリリース。さらに初のコラボ楽曲「SOS! feat. Creepy Nuts」の発表、東京・日比谷野外大音楽堂での初の野外ワンマンライブなど精力的な活動を展開した。内澤は楽曲提供も多数行っており、これまでに柴咲コウ「EUPHORIA」「ラブサーチライト」、Aimer「カタオモイ」「twoface」などを手がけている。2017年2月公開の映画「君と100回目の恋」では、劇中バンドのThe STROBOSCORPが歌う「アイオクリ」を作曲した。2018年1月には映画「伊藤くん A to E」の主題歌として書き下ろした「Joker」をシングルリリース。3月に約3年ぶりのアルバム「cocoon」を発表し、4月より全国ワンマンツアーを行う。
月川翔(ツキカワショウ)
1982年8月5日生まれの映画監督。東京芸術大学大学院映像研究科修了。在学中は、教授である黒沢清や北野武のもとで「心」など4作品を制作する。ウォン・カーウァイ、ソフィア・コッポラらが審査員を務めた「LOUIS VUITTON Journeys Awards 2009」にて審査員グランプリに輝き、「グッドカミング~トオルとネコ、たまに猫~」で「SHORT SHORTS FILM FESTIVAL & ASIA 2012」のミュージックShort部門シネマティックアワード・優秀賞を受賞した。これまでの監督作に「君と100回目の恋」「君の膵臓をたべたい」、ドラマ「ダメな私に恋してください」などがある。4月には菅田将暉と土屋太鳳のダブル主演作「となりの怪物くん」が公開。その後は竹内涼真と浜辺美波出演の「センセイ君主」、秋には「響 - HIBIKI -」の公開も控えている。