音楽ナタリー Power Push - anderlust

小林武史手がけるユニット、デビュー

Interview

心臓より大事なもの

──まずはお2人がこれまでの生活の中で音楽とどのように関わりを持ってきたか、聞かせてもらえますか?

越野アンナ(Vo)

越野アンナ(Vo) 私の家では常に音楽がかかっていたので、生まれてから今まで音楽を聴かなかった日はない、という感じで。音楽は自分の一部という感覚です。それで私、小さい頃から「私だったらこうするのにな」って、聴いた曲を勝手に自分の中で編曲していたんです。「リトル・マーメイド」の「Part of your world」とかを全然違うふうに変えて歌ってみたり。そんな曲をある日友達に聴かせたら感動してもらえて、そのときに「音楽ってすごいな」って思えて。そこから本格的に作曲活動を始めました。なんらかの形で音楽に携わる仕事に就けたらいいなということはずっと思っていたんですが、はっきりと音楽家を目指したきっかけは、その出来事ですね。

──それはいつ頃の出来事だったんですか?

越野 12歳か13歳のときでした。編曲を始めた時期はしっかりと覚えていないです。

──音楽は自分の一部なんですね。

越野 はい。むしろ、心臓より大事なものかもしれないと思っています。

──常に音楽に触れてきた中で、今の音楽活動のルーツになっているなと思う音楽はありますか?

越野 けっこうあります。BlurとかJamiroquaiとか、OasisもThe Beatlesも大好きだし、そのあたりのバンドの曲はルーツになっていますね。私はアメリカ出身なんですけど、彼らの音楽が街でよく流れていたんです。それが自然と耳に入って、心に残っているんだと思います。でも、今はいろんなジャンルの曲を広く聴いていますよ。

──先ほど行ったフォトセッションでは、ギターを構えるカットで椎名林檎さんをリスペクトしているとおっしゃっていましたね。

越野 大好きなんです、椎名林檎さん! あと今、スペースシャワーTVで洋楽番組のVJをさせてもらっているんですが、その影響でスぺシャもよく観るようになったのでデビューしたてのバンドさんをチェックしたり。フェスにも出かけていろんな音楽に触れています。

──西塚さんはいかがですか?

西塚真吾(B) 僕は小さい頃からピアノをやっていました。ベースを始めたのは兄の影響ですね。兄がバンドをやっているのを見て、自分も「バンドやってモテたいな」って、そんな理由でベースを始めました。

──なぜベースを選んだんですか?

西塚 もともとはバンドの花形のギターをやろうと思ってたんですよ。だけどギターは弦が多いなと思って、弦が少ないほうのベースに行きました(笑)。

──音楽の道を志したきっかけは何だったんですか?

西塚 最初はRed Hot Chili Peppersのコピーをやってみたり、遊び程度のバンド活動だったんですけど、高校生の頃に日本の音楽がどんどん好きになって。斉藤和義さん、大塚愛さん……中でもYUIさんの歌はメロディも歌詞もすごく好きになって、「YUIさんと仕事したいな」って思い始めたんです。で、そんな気持ちでバンドをやっていくうちに音楽をやっている自分以外の姿が想像できなくなっていったので、プロを志しました。

抑えきれない旅への衝動

──越野さんは2014年に開催された「NYLON JAPAN」とソニーミュージックによる「JAM」というオーディションで賞を獲ったんですよね。なぜこのオーディションを受けようと思ったんですか?

越野 「ちょっと自分を試してみようかな」って。オーディションを受けるかどうか、それまではずっとためらっていたんですけど、「NYLON」が大好きだったので「受けるしかないじゃん!」と思って。友達にも相談してみたら、「やってみるしかないよ」って背中を押してくれたので挑戦しました。今となっては受けて本当によかったと思っています。

──オーディションで披露したのはオリジナル曲ですか?

越野 そうですね! オリジナルを1曲と、アヴリル・ラヴィーンのナンバーをカバーしました。

──その後anderlustが結成されるわけですが、2人の出会いはどういったものだったんですか?

越野 私がソロ活動していたときに、真吾さんにサポートで入ってもらって。そこで出会いました。

──お互いの第一印象って、どんなものでした?

越野 私は、最初真吾さんは熱血な方だと思っていたんです。だけど実際は繊細でクールでしたね。

西塚真吾(B)

西塚 もうお分かりだと思うんですけど、彼女はアメリカ育ちということで話し方やスキンシップの取り方が“アメリカン”なんですよ。僕は人見知りなので……いきなりこの感じでグイッと来られて、初対面では若干引いてしまいました(笑)。

越野 ええ! 嘘!

──ちなみに今はどうですか?

西塚 今はだいぶ慣れてきました。

越野 ああもう、私心折れそう……(笑)。

──ちなみに、なぜこのユニット名になったんですか?

越野 「抑えきれない旅への衝動」を表す「Wanderlust」っていう言葉があるんですけど、私小さい頃からその言葉が大好きで、メモ帳の隅にこの言葉を書き留めていたりしたんです。このWanderlustっていう言葉から、頭文字のWを抜いてみようっていう遊び心で、ユニット名をanderlustにしました。

枠にとらわれない

──デビュー作「帰り道」にはプロデューサーとして小林武史さんが携わっています。小林さんはanderlustのデビューにあたってコメントを発表されていますが、その中で越野さんのことを「ある意味日本人離れした幅の広い音楽性を持ったシンガーソングライター」と評されています。このように言われることについて、越野さん自身はどう思われますか?

越野 そうですね……。そう、性格も日本人離れしてるような気がするって、最近自覚を持つようになったんですよ(笑)。例えば寝言が英語だったり、駅で誰かとぶつかってしまったとき「Oh, Sorry!」って言ってしまうとか、とっさに英語が出てくるところが抜けなくて。曲を書くときも最初は英語詞を付けていたりするんです。もちろん日本の、いわゆるJ-POPの歌詞も書こうと思ったら書けますが、自分の中から自然に出てくるのは洋楽らしい表現なのかな。それはきっと、小さい頃に海外で聴いていた音楽が自分のルーツになっているからだと思います。

──西塚さんはこの小林さんの言葉について、どう感じますか?

西塚 確かに、彼女の書く歌詞には“越野節”というか……日本人の考えではなかなか出て来ないんじゃないかな?って思えるような独特な表現があるので、特に歌詞の面で納得するところがありますね。

──小林さんは、西塚さんのことは「音楽に対して誠実」だと評されています。

西塚 そう言っていただけるのはうれしいです。僕は自分がいいと思うものを追求したいタイプなので、普段からこだわりが強いとはよく言われますね。

越野 これは本当にその通りだと思います。anderlustの曲のベースラインに関しては、すべて真吾さんにお任せしているんですよ。真吾さんは私の中でイメージしていたベースラインを表現してくださるので、一緒にやっていて楽しいし、今後もずっと一緒に作っていきたいなって思える。テレパシーが通じている感じなんですよ!

anderlust

──本当にいいコンビなんですね。

越野 はい! そうだと信じてます!

西塚 ……はい(笑)。

──そうして、anderlustのことは「確固たるメッセージがあるわけではなく、とにかく『伝えたい』と強く思っている」と分析されています。

越野 そうですね。私は昔から、そのときに伝えたいと思ったことを曲にして表現していくっていうやり方を取ってきました。なので、昔書いた曲と今書いた曲のメッセージが全然違ったりするんです。小林さんのおっしゃったことは、そういった私のスタンスを表してくれたのかなと思います。今回のデビューシングル「帰り道」も、シングル収録曲の1曲目2曲目3曲目、全部が違うメッセージを持っているんです。枠にとらわれないっていうところがanderlustの魅力なんじゃないかなと、自分では思っています。

デビューシングル「帰り道」 / 2016年3月30日発売 / Sony Music Records
デビューシングル「帰り道」
初回限定盤 [CD+DVD] / 1620円 / SRCL-9013~4
通常盤 [CD] / 1300円 / SRCL-9015
CD収録曲
  1. 帰り道
  2. 風船 ep.1
  3. A.I.
  4. 帰り道 ~Instrumental~(※通常盤のみ収録)
初回限定盤付属DVD
  • 「帰り道」MUSIC VIDEO + MUSIC VIDEOメイキング映像
anderlust(アンダーラスト)
anderlust

シンガーソングライターの越野アンナ(Vo)と、ベーシストおよびアレンジャーの西塚真吾(B)によるユニット。2014年に「NYLON JAPAN」とソニーミュージックが主催したオーディション「JAM」のミュージック・パフォーマンス部門でNYLON賞を受賞した越野が、ライブを通じて知り合った西塚とともに立ち上げた。2016年3月にリリースするメジャーデビューシングル「帰り道」は、小林武史がプロデューサーを務めた作品。今後は音楽に限らず、映像やアート、ファッションなどさまざまなクリエイティビティを持つ新メンバーの加入を視野に入れながら活動を行っていく。