青春時代に聴いていた楽曲が広がっていくうれしさ
──ANCHORさんは「ORANGE RANGEと一緒に仕事をしたい」とおっしゃるくらいですから、この「キズナ」という曲にも思い入れがあるかと思いますが、今回アレンジする際に意識したこと、こだわったポイントはどういったところでしょう?
ANCHOR こだわりについて話し始めると3時間は平気でいけちゃうんですけど(笑)、割愛して話すと、まず、りりあ。さんが海辺で歌っているようなアレンジにできたらいいなというイメージがあって。アカペラから始まって、アカペラだけだったところにアコギが加わって、そこからリズム隊が加わってとだんだんと仲間が増えていくような感覚で、アンサンブルもサビに向かってどんどん増えていく。そういうところで“キズナ”を表現しつつドラマ性が出せたらいいなと考えました。あと、カバーではあるけれども、まるでりりあ。さんのオリジナル曲かのように聴かせられたらいいなという気持ちもありまして。原曲はピアノとストリングスが入った壮大なアレンジですが、このカバーではアコギを軸にしつつ、生ドラムの代わりにトラッピーなリズムトラックを使ったり、ストリングスではなくコーラスを使うことでオリジナリティを出せたらなと思っていました。
──そういったANCHORさんによるトラックを歌う際、りりあ。さんはどのような点に注力しましたか?
りりあ。 アカペラから始まるので、最初から気持ちが伝わるような歌い方は意識しました。それと、ORANGE RANGEさんの原曲だと歌い方にも沖縄民謡のテイストが含まれているじゃないですか。そこを民謡っぽくならないよう注意して歌うことは、一番意識したことかもしれません。映画の舞台が長崎ですから、そういうところも気を付けて歌いました。
──最初に聴いたとき、ORANGE RANGEのカバーだということを忘れるくらいにオリジナリティが強くて、りりあ。さんの歌としてスッと入ってきました。
りりあ。 それはアレンジの力も大きいと思います。本当に歌いやすかったですし、原曲とはまた違った魅力があって、本当に気に入っています。
──すごくまっすぐで透明感もしっかりあって、かつ曲が進むにつれてどんどんドラマチックさが増していく。そのアレンジとボーカルの相性が抜群だなと思いました。
りりあ。 ありがとうございます。
ANCHOR 最初のアカペラがいいですよね。あの時点で僕はグッときちゃいました。
──実際、映画のエンディングでこの曲が流れるのを聴いたとき、どう感じましたか?
りりあ。 本当に感動しました。映画の主題歌を担当するっていうだけでも自分には現実離れした出来事で、どこか人ごとのような感覚もあって。でも、それは自分の曲じゃなくてカバーというのが一番大きいのかもしれません。きっとORANGE RANGEさんのファンの方も聴いてくださるんだろうなと思うので、それも新しいなと思いましたね。
ANCHOR 僕は映画本編を観てボロボロ泣いて、そこからエンドロールを観たときに、先ほども話した「ORANGE RANGEさんとお仕事をしてみたい」「りりあ。さんとお仕事をしてみたい」ということ、さらにVIAとの初めてのお仕事だったので、主題歌のクレジットにそういった要素と自分の名前を見つけたときに、「本当にメジャーデビューするんだな」という実感がもう一度湧いてきて。僕が青春時代に聴いていた楽曲がまたこうやっていろんな方に聴いていただけるんだな、広がっていくんだなといううれしさもありました。
──完成した楽曲に対して、監督からの感想は聞きましたか?
ANCHOR ただひたすらに「よかったよ」と言っていただけて。それとりりあ。さんのことをすごく褒めてらっしゃいました。
りりあ。 本当ですか?
ANCHOR 「りりあ。さん、よかったよね!」とめちゃめちゃ明るくおっしゃっていましたよ。あのエンディングシーンはずっとORANGE RANGEさんの「キズナ」を流しながら撮っていた、という話も伺っていたので、そのあとのオーダーも含めて「すごくいいエンディングになりました」という話をいただき、僕には身に余るような光栄な言葉ばかりでした。
りりあ。 私も「命を吹き込んでくださってありがとうございます」と、すごく褒めていただきました。
──お二人の相性、抜群だと思いました。今回はカバー曲でしたが、ぜひ今後オリジナル曲でのコラボレーションにも期待したいです。
ANCHOR せっかくいただいた縁ですし、そういう方向につなげていきたいですね。
りりあ。 私もぜひ歌いたいです。
ANCHOR 僕が作曲で携わるのか、あるいは編曲で関わるのかはわからないですけど、そういうことを夢見ちゃうような、すごくいい機会でしたね。
りりあ。 今後の楽しみが増えました。
ANCHOR 僕は普段、比較的激しくてやかましい音楽をやっている人間なので、りりあ。さんとご一緒することで新しい引き出しが増えそうな気がします。
りりあ。 私も、また新しい道が見えそうな気がします(笑)。
集めていたものは「石」
──映画「サバカン SABAKAN」についても話を聞かせてください。映画をご覧になった感想はいかがですか?
りりあ。 まず最初に、そのタイトルから「『サバカン』ってどんな映画なんだろう?」と思ったんですけど、実際に観てみると男の子になった気分でワクワクできる映画だなと思いました。感動もあるし笑いもあるし考えさせられる部分もあるし、ちょっと忘れていたことを思い出させてくれる部分もあるし。そういう意味でも、子供の気持ちを純粋な気持ちで楽しめる作品だと思います。
ANCHOR 僕は1992年生まれなので、映画の舞台になっている1980年代ってちょっとファンタジーを感じるんですよね。当たり前のことなんですけど「あ、スマホがないんだな」とか、連絡するにも直接会ったりとか電話をするとか、そういうことが多いですし。実際、僕も小さい頃はまったく同じだったんですけど、そういう時代背景をりりあ。さんとか今の若い世代の方々が観てどう感じるんだろうと考えてみると、僕はこれって一番身近な時代の昔話だなと思ったんです。
──35、6年前って、そういう感じかもしれませんね。
ANCHOR ですよね。劇中に出てくるきれいな風景も、現実味がありつつもちょっぴりノスタルジックで。あと、「僕の時代だったら、きっとあれはこれにあたるんだろうな」という置き替えじゃないですけど、例えばキン消し集めだったら僕はドラクエのバトエンだよなとか、そういう置き替えで理解できる部分もたくさんありました。りりあ。さんの時代だったら、それって何にあたるんでしょうね?
りりあ。 石……とか?
ANCHOR それ、時代感全然関係ないじゃないですか!(笑)
りりあ。 私、普通の子と比べてちょっと変わっていたので(笑)。
ANCHOR 例えばカードとかシールって集めませんでした?
りりあ。 あ、確かにシールは集めました。
ANCHOR あとはプロフィール手帳を交換したり。
りりあ。 あーっ、ありました! やっていましたね(笑)。
ANCHOR よかった、まだ共通言語がありました(笑)。なので、親子で観に行ったときに子供から「キン消しって何?」って聞かれることで、より会話も弾むんじゃないかな。
──お二人が映画の中で、それぞれ印象に残った場面についても聞かせてください。
りりあ。 ネタバレしないように話すのがとても難しいんですが……久田が竹本の家に遊びに行ったとき、竹本の妹たちも集まって一緒に“あること”をするシーンかな。あそこがすごく印象的でした。
ANCHOR りりあ。さんがおっしゃったシーンって、「サバカン」というタイトルの意味や、映画の冒頭で草彅剛さんが話す意味深な言葉の意味を回収する場面ですしね。
りりあ。 そうです、だから説明が難しいんですよね(笑)。
ANCHOR わかります。僕はちょっと視点が違うのかもしれませんが、主人公の2人(久田、竹本)が自転車に2人乗りして走っているシーンでの、風を切る気持ちよさといいますか。僕も田舎生まれなので、「自分もこんなことしたなあ」っていう共通する部分も見つけられて。映画の中の2人はまだ気付いていないけど、ああいう経験ってあとになって青春の1ページだと感じるんじゃないかな。
──確かにあのロードムービー感はたまらないですよね。
ANCHOR そうなんです。それこそ、「スタンド・バイ・ミー」みたいな、往年の青春映画と印象が重なりますよね。
りりあ。 それでいうと私も、もう1つ印象的なシーンがありまして。2人が自転車で走っているシーンに出てくる長崎の景色が、すごくきれいじゃないですか。海に向かって走っているシーンなんて、景色がすごく印象的なんですよね。
ANCHOR まさにファンタジーじゃないですけど、「こんなに素敵な場所が長崎にあったんだ!」と、もっと長崎のことを知りたくなりますし。
りりあ。 わかります。あの景色を観たら実際に行きたくなりますよね。
ANCHOR 監督と話していて知ったんですが、それこそ(劇中に登場する)ブーメラン島って本当に存在するそうですし。
──そうなんですね。では改めて、映画を通じて「キズナ feat. りりあ。」という曲を知った方、これから知ってもらえるであろう方々に向けてメッセージをいただけますか?
りりあ。 この曲が、みんなそれぞれ夏の思い出を振り返るきっかけの曲になってくれたらうれしいです。
ANCHOR 「サバカン」という作品と同時に、この曲が誰かの青春に重なるような、そういう曲になったらいいなと思っております。ぜび映画ともども愛してあげてください。
プロフィール
ANCHOR(アンカー)
さまざまなアーティストやアニメ、ゲーム作品へ楽曲提供するサウンドプロデューサー。テレビアニメ「地縛少年花子くん」のオープニングテーマ「地縛少年バンド(生田鷹司×オーイシマサヨシ×ZiNG)」や、育成ゲーム「A3!」のキャラクターソングなどを手がけ話題に。2017年にはピエール中野(凛として時雨)、 Nob(MY FIRST STORY)、滝善充(9mm Parabellum Bullet)とクリエイターユニット・ZiNGを結成し、幅広く活躍している。2022年5月よりトイズファクトリー内のレーベル・VIAに所属。8月公開の映画「サバカン SABAKAN」で主題歌を担当した。
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りりあ。
女性シンガーソングライター。2019年秋にTikTokやYouTubeで顔出しなしで弾き語りのカバー動画を投稿し始めると、エモーショナルな歌声と豊かな表現力が瞬く間に話題に。2020年5月に各配信サイトでリリースした初のオリジナル曲「浮気されたけどまだ好きって曲。」はLINE MUSICウイークリーランキング1位を獲得した。2022年5月公開のアニメーション映画「バブル」ではヒロイン・ウタの声優を務め、エンディングテーマ「じゃあね、またね。」も担当。現在放送中のテレビアニメ「サマータイムレンダ」では第2クールのエンディングテーマ「失恋ソング沢山聴いて 泣いてばかりの私はもう。」を書き下ろした。