ダイナミックなようで緻密なパフォーマンス
ANI あと、デイヴィッド・バーンってすっとぼけた感じもいいね。力が入ってない感じで。
Bose でも、すごく強い意志があると思う。じゃないと、こんなステージできないって(笑)。
ANI めちゃくちゃ大変だよ。ずっと歌いっぱなし踊りっぱなしで。
SHINCO 想像しただけで吐きそう。
Bose 大人計画の舞台に近いな、とも思った。松尾スズキさんがよくやるミュージカルっぽいやつあるじゃない?
ANI 最初に観たとき「当て振りかな?」と思ったけど、途中のMCで本人が「ちゃんと演奏してる」って説明してて。
Bose でも、「とは言いつつ、実は?」みたいなところもあったよね。「シンセを使って、ホーンの音がこんなにハッキリ出る?」とか。本人も「オケが悪いということもない」とか言ってて、オケに乗っかってる部分もあるんじゃないかなとか……ミュージシャン的な見方もしてました(笑)。
ANI 単純な話、ステージ上にバミリがないのがすごい。あんなに、たくさんの人数が複雑なフォーメーションで動いてるのに。
SHINCO 確かに、バミリなかった! ステージ真上からの映像もけっこうあったけど床が超キレイだった。
ANI バミリがないと思わせといて、実はステージ上にレーザーポインターを当ててるんじゃないかとか思ったり。ハイテクバミリみたいな(笑)。
Bose あれだけ踊りまくるステージだったらステージ上がバミリだらけになると思う。それが汚いと思ったんだろうね、デイヴィッド・バーンは。
ANI だからシンプルなだけに裏ではすごいことになってるんじゃないかっていうね。ダイナミックなパフォーマンスのように見えて、実は細部まで緻密に計算されてるんだと思う。
Bose やっぱり確固たるビジョンがないと、あのステージは作れない。そのへんも、また小沢健二感というか。スタッフは「またすごいこと言いだしたぞ! 大変だー!」って(笑)。
ANI・SHINCO はははは。
Bose Cornelius感もあるよね。歌とダンスとか、ステージ上でいろんな要素がシンクロしてる感じ。
ANI フリッパーズ・ギター feat. ASA-CHANG&巡礼って感じで(笑)。
──CorneliusやASA-CHANGのファンが観ても楽しめるかもしれませんね。
Bose ぴったりだと思いますよ。もちろん小沢くんのファンも楽しめるだろうし。かたや「オザケンっぽいわ目線」、かたや「Corneliusっぽいわ目線」で。
ANI あと「大人計画っぽいわ目線」と「ラジカルっぽいわ目線」も(笑)。
Bose そうそう。いろいろ合わさってる感じがある。そもそも、みんな多かれ少なかれデイヴィッド・バーンの影響を受けてると思うし。
SHINCO (ラジカルの演出家だった)宮沢章夫さんとかも影響受けてるかもね。
スパイク・リーらしさあふれる映像
──さっき、SHINCOさんがおっしゃっていたスパイク・リーらしさって、どういうところに感じられました?
SHINCO 映像がモダンというか。俯瞰のアングルを使っているところとか。
Bose 被写体にグンッて寄ったり、ああいうアングルの使い方もスパイク・リーっぽい。スパイク・ジョーンズがBeastie Boysのドキュメンタリー(2020年公開の「Beastie Boys Story」)を撮ったりしてるけど、スパイク・リーもスパイク・ジョーンズも、音楽が好きっていうのが根本にあるから、音楽モノがちゃんと撮れるんだろうね。2人ともミュージックビデオをいっぱい撮ってるし。
──今回の映画もカメラワークとかカット割りが曲にシンクロしてて気持ちいいですよね。スパイク・リーの音楽的な感性が反映されている。
Bose カット割り、全体的に洒落てましたよね。映画の撮影って1日きりだったのかな?
SHINCO 何日かに分けて撮影しているようにも見えるけど。
──2日半で撮影したみたいです。
Bose リハのときにも撮影してたのかもね。だって、近距離で演者に寄ってるシーンもあるし。ああいうカットはカメラマンが舞台の上にいないと絶対撮れないでしょ。
ANI 舞台上のカメラマンをCGで消してるんじゃないの?(笑)
Bose マジで!?(笑) でもそれ、ありえるか。
ANI そこまで徹底的にやりそうじゃない?
Bose アナログ感重視で作ってるかと思いきや、実は超デジタル! ありえる(笑)。
──実は全部バーチャル空間だったとか(笑)。
Bose あと、人種差別の被害者の写真が出てくる終盤のシーンとかもスパイク・リーっぽいなと思った。
──ジャネール・モネイの「Hell You Talmbout」をカバーするシーンですよね。歌詞に名前が出てくる被害者の遺族が遺影を持って立っている姿を、次々と正面から撮る、という強烈なシーンでした。
Bose あそこは印象的ですよね。
SHINCO あのシーンだけ異質だもんね。
──あのシーンはスパイク・リーのアイデアで、舞台にはない映画オリジナルの演出だったみたいです。そのアイデアを初めて聞かされたとき、バーンはヘビーなシーンになってしまうんじゃないかと迷ったけど、結局やることにしたとか。
Bose ギリギリの線で成り立ってる。そもそも、この映画でデイヴィッド・バーンがMCで観客に投げかけるメッセージも強烈じゃないですか。「絶対に選挙に行こう」とか。
──大統領選挙の前の年でしたからね。
Bose 地方選挙の投票率が20%だったと言って、その少なさが目で見てわかるように客席の20%に照明を当ててみたり。投票した20%の平均年齢が57歳だったということを引き合いに出して、「若者たちよ、御愁傷様」って言ったり。ああいうMCはおしゃれだよね。観客と政治的な会話のやりとりをして、全然違和感を感じないんだから、やっぱりアメリカのエンタテインメントシーンは進んでるな、と思ったね。
ANI 日本だとすぐに「音楽に政治を持ち込むな!」って始まっちゃうもんね。
Bose エンタテインメントの世界で、ああいうことを自然にやれてる人が日本にはいないわけだから。日本だと「なんか小うるさいオッサンがいるな」みたいな感じになっちゃうでしょ? でも、アメリカでは演者と観客の間で、ああいうコミュニケーションが普通に成立してしまうわけで。
スタイリッシュに皮肉に政治的なテーマを
──例えばスチャの楽曲で歌詞の中に社会的なテーマを織り込む場合、気を遣ったりするところはありますか?
Bose 我々は昔から、社会的なテーマを面白おかしく歌詞に盛り込むのがいいなと思ってたんで、そこまで気を遣ったりはしないですね。
ANI 普通に暮らしてたら感じるようなことだったりするし。
SHINCO そうそう。
Bose 僕らは、ラジカル・ガジベリビンバ・システムみたいにユーモアと皮肉を交えて政治的なメッセージを表現するような舞台を観て育ってますから、自分たちの表現も、そういうものの続きをやってるような感じなんですよね。だから、この映画にすごくシンパシーを感じました。スタイリッシュに、皮肉に、政治的なテーマを表現に盛り込むのがカッコいいっていう。
──そのへんにはニューウェイブ的な感覚もありますよね。ちょっと斜めの目線で世の中を見る感じとか、アートのポップな取り入れ方とかも含めて、デイヴィッド・バーンは今もニューウェイブであり続けているんだな、と思いました。
Bose やってることが全然変わらないですからね。
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表面的に真似してもああいうふうにならない