雨のパレード|自分たちにしかできない音楽で、この世の中を映し出す

好奇心から生まれた音がいっぱい残ってる

──「scapegoat」はぶつ切りにされたサンプルボイスが不穏なムードを醸し出していて、アルバムの幕開けとしても非常にインパクトがありました。あのサウンドはどうやって鳴らしているんですか?

左から大澤実音穂(Dr)、山﨑康介(G, Syn)。

福永 あれはまずコード進行を決めたあと、そのコードに従って自分の声を録音して、それを重ねて構築したものですね。何年か前にソンというアーティストがやっていて、当時からやってみたかった手法なんですけど、いざやってみるとけっこう難しくて。そうしたら今年出たマック・ミラーのアルバムにも同じような手法が使われていたので、やっぱり自分もやってみたいなと。

──「scapegoat」はサビでもゴスペルのような多重録音が施されていますね。

福永 あのサビは僕の声で、コーラスを14本ほど重ねているんです。1人の声で多くの人数を装うというのも、「SNSの誹謗中傷」という歌詞のテーマと合ってるんじゃないかなって。ああいう不条理な問題をこういうサウンドで歌うことには、何かしらの意味があるんじゃないかなと思ったんです。

──「IDENTITY」にもデジタルクワイア的な多重録音が施されていますし、ゴスペルは今作のサウンド面におけるキーワードでもあるように感じました。福永さんがゴスペル的な和声に関心を持つきっかけはなんだったんでしょうか?

福永 多分きっかけになったのは、チャンス・ザ・ラッパーの「カラーリング・ブック」だったと思います。で、そこからポール・エプワースがプロデュースしたジェイムス・ベイの最新作「エレクトリック・ライト」に入ってるゴスペル風の曲が気になって。あと、カニエ・ウェストがやってるゴスペル集団のアルバム(Sunday Service Choir「Jesus Is Born」)も引っかかりましたね。

──あれはものすごく宗教性の強い作品でしたよね。

福永 ええ。それに多分あのアルバムは一発録りで、オフマイクで音のバランスもすごく雑だし、決してハイファイなものではないんですよね。でも、ハイファイサウンドは今や誰でも作れるから、サブスクで音楽を聴いていると、逆にローファイな音のほうが耳に残るような感じがしていて。僕らも今回のアルバムではローファイな質感を大事にしたいなと思って、あえてノイズをそのまま残してるんです。そこはエンジニアの片岡恭久さんにもかなり助けられました。アナログライクなものをすごく理解されている片岡さんの意見があったおかげで、僕らも「これ、普通にいい音じゃん」と思えるノイズをなんのエゴもなく残せたんです。

左から福永浩平(Vo)、大澤実音穂(Dr)。

──3曲目の「if」は80'sポップ的というか、個人的にはThe 1975を連想しました。

福永 「if」はサビの裏でシークエンスのようにアルペジエイターのシンセが鳴ってるんですけど、これも今の自分たちだからこそできたアプローチだと思っていて。あと、あの曲は終盤でサックスが鳴ってるんですけど、あのサックスは康介さんがMIDIキーボードで手弾きしてるんですよ。シンセでサックスを弾くのってすごく難しいんですけど、ROLIのSeaboardという機種を使ったらすごくいい感じに弾くことができたので、その音をiPhoneからイヤホンジャックでそのまま鳴らすという(笑)。

──へえ! それもまた90年代とは違った、現代のローファイとも言えるアプローチですね。手元の音遊びがそのまま作品に反映されていると。

福永 そうなんです。今作にはそういう好奇心から生まれた音がいっぱい残っていて。実際、それは楽曲にすごくいい影響を与えてくれてると思う。

言えなかったことを代弁する音楽

──総じて「Face to Face」はシリアスで重厚な作品だと感じたのですが、エンディングの「Child's Heart」で光が差すような印象を受けました。

福永 アルバムの曲順は毎回本当に悩むんですけど、今回のアルバムに関しては、もうこれしかないという感じでした。つまり「scapegoat」で始まって、最後は身近な人や、コロナ禍でもつながりが強かった人に愛を伝えるきっかけになれるような曲で締めくくりたいなと。あと、「BORDERLESS」のときは「みんなで歌えるもの」を意識していたんですけど、今回はそこをちょっと思い直したところがあって。

──というのは?

福永 自粛期間のときにふと思ったんです。言いたかったけど言えなかったこと、あるいは思いもしなかったことを代弁してくれるような、そういう音楽に人は心をつかまれるんじゃないかなと。だから、今回は自分にしか書けないことを書いたつもりだし、そのおかげで今はすっきりしているんですよね。1stアルバムを出した頃みたいな、自分は誰にも負けないという気持ちにまた、なれているので、とにかく今はもっと曲を作りたいんです。

雨のパレード

──12月25日には東京・Zepp DiverCity TOKYOでの公演が決定しています。ひさびさの有観客ライブを控えて、現在はどのような心境でしょうか?

大澤 私にとってライブは毎回が特別なものだったので、それが急にできなくなってしまったのは、本当にしんどかったんです。配信ライブをやってみて、配信ならではのよさを感じることもできたんですけど、同時に人前で演奏することが自分にとっては一番の喜びだったんだなということにも改めて気付いたので、12月のライブは本当に楽しみですね。今回のライブは会場にお客さんを入れつつ配信も行うので、たくさんの人に観ていただけたらなと思っています。

福永 自分たちで無観客の配信ライブをやってみたあと、学園祭の配信ライブに出演させてもらえる機会があったんですけど、そのときにスタッフの学生が遠くから小さく拍手をしてくれて、そのときに自分たちの存在を認めてもらえてる感じがしたというか、とにかくそれがすごくうれしかったんですよ。正直、配信ライブは今までやってきたライブとはまた別のアウトプットだと思ったし、ひさびさにファンの前で演奏できるのであれば、それはやっぱり何事にも代えがたいものだと思っています。25日のライブは同期も使いつつ、ベースと鍵盤でサポートメンバーを入れようと考えているので、ぜひ生演奏のよさを感じてもらいたいですね。