amazarashi|人間関係、狭量な社会に募るフラストレーション……人が人らしく生きるための“拒絶”

青森の人間なんだ

──軽快なサウンドでノスタルジックな情景をつづった「夕立旅立ち」は、徹底して韻を踏んだサビが強く印象に残りました。どこか新しいタイプの楽曲でもあると思うのですが、この曲はどんなきっかけで生まれたのでしょうか? また、2017年の弾き語りライブで披露されていた曲をこのタイミングでアルバムに収録した理由は?

amazarashi(Photo by Victor Nomoto)

これけっこう古くて5年くらい前の曲だと思います。定かじゃないです。シンプルに曲が好きなんですけど、amazarashiとして改めて聴かせるほどの歌詞でもないかなと思ってずっとリリースしてなかったんです。でもやっぱりなんか好きで、やっといい曲だと自覚できたのでアルバムに入れました。普遍性があるからいいのかなっていう自己分析です。アルバム1曲目、2曲目でテーマ的なものを提示して、この3曲目で私的な方向に潜っていくというイメージです。

──「帰ってこいよ」は、生まれ育った故郷の持つ温かさ、優しさを感じさせる曲で、胸にグッと染みました。かつて上京した経験のある秋田さんですが、この曲で描いた故郷への思いはその当時に感じたものですか? それとも今というタイミングだからこそ書き得たものなのでしょうか? そして、秋田さんにとって故郷とは?

どちらかというと今の気持ちだと思います。ずっと青森に住んでいて、出ていく人も、地元を離れてがんばってる人も見守る立場になりました。今になってようやく青森の人間になった気がします。昔は地元が嫌で嫌で仕方がなかったんですが、そういうのも踏まえてのこの曲です。今も青森はたいして好きではないですが、好き嫌いじゃなく自分は青森の人間なんだって自覚ができたから、こういう曲が生まれたんだと思います。

amazarashi(Photo by Victor Nomoto)

アニメ、マンガ作品に寄り添う楽曲群

──続いては昨年放送されたテレビアニメ「どろろ」のエンディングテーマとして書き下ろされた「さよならごっこ」です。放送時はアニメの世界観とのマッチングを楽しませていただきましたが、「どろろ」という作品に関われたことへの感想、そして楽曲としてどんな表現で作品に寄り添おうと制作に向き合ったのかを改めて教えてください。

百鬼丸ではなくどろろの目線で描いてくださいという指示があったので、原作を読み込んでたくさん考えて描きました。やはり大きな作品ですし、下手なことはできないなっていうプレッシャーはありました。変にラブソングになりすぎると軽くなるかなとか、どろろの明るい愛嬌のある部分も少し見えて、でもシリアスで、とかいろいろ考えました。サビが一発でできて、それでこれはいけるなって思いました。

秋田ひろむ(Photo by Victor Nomoto)

──「月曜日」は阿部共実さんによるマンガ「月曜日の友達」とのコラボで生まれた曲です。阿部さんとはマンガ家とアーティストとしてお互いにシンパシーを抱き、ファン同士であったそうですが、阿部作品のどんなところに惹かれるのでしょうか? また「月曜日の友達」という作品からどんな感情を受け取り、それを曲としてどう落とし込みましたか?

日々の中で見過ごしてしまう小さな痛みとか、悲しさとか、そういうものが溜まってあふれたときに泣いたり、悲しいんだと自覚したりすると思うんですけど、その感情のゴールだけを描くんじゃなく、小さな痛みをすくい上げてその蓄積を繊細に描いてるところが好きです。視点が優しいというか、痛がってる人にちゃんと寄り添ってる気がして、そういう細かいところも歌にしたいなと思って作りました。全部僕の想像でしかないんですけど。言葉数の多い歌なんですけど、余白があるものにしたいなと思って。マンガだと風景だけが描かれてると余白に見えるじゃないですか。ストーリーの進行がないという意味で。そういうのを歌詞でやりたいなと思いながら作った気がします。

──「アルカホール」は、最初のバースにおいてあたかも酔っ払っているかのように、ポエトリーリーディングと歌の狭間とも言える独特なフロウが用いられています。が、曲が進むにつれて意識が覚醒していく印象もあって。明確な光が用意されているわけでなく、混沌とした雰囲気で幕を閉じるこの曲はどんな思いで作られたものなのでしょうか?

アルコール依存症の歌です。僕もそこに片足突っ込んでるので、酔っ払いながら作りました。特に明確なメッセージはない曲です。この曲は難しくて、伴奏が4拍子で歌が6/8拍子なんです。そしてCメロ辺りで伴奏も6/8になって、ちょうど酔いが冷めるようにエモーショナルに盛り上がって……みたいな構成です。アルバムの中では、いろいろあって旅立った人間が過去に溺れながら身を持ち崩していく、というストーリーです。

──「マスクチルドレン」は、悶々とした日々に心を殺されそうになりつつも、力を振り絞って一歩を踏み出さんとする始まりの歌です。主人公の心を映し出すように緩急を付けながら、最終的に光が見えてくるアレンジは、秋田さんの中に最初からイメージされていたものだったのでしょうか? また、ここで描かれている“始まり”がのちのamazarashiへとつながっていくというストーリーも感じましたが、ここにはどれくらい実際の経験を反映しているのでしょう?

この曲は確かに僕がたどったようなストーリーではあるんですが、気持ち的にはフィクションとして作りました。ここで私的な鬱屈さは解決されるけれど、世間の生きづらさや生活の立ち行かなさや、社会に対する不満が散りばめてあって、ここから先の曲への布石になってます。