負の感情を燃料にする人への賛歌「リビングデッド」
──「新言語秩序」プロジェクトは、先駆けて公開されるアプリでのストーリーはもちろん、ニューシングルをも巻き込んで日本武道館につながっていくところが新しく、非常に面白い“実験”でもあると感じました。ライブへの期待値を高めてくれるそのアイデアはどのように生まれてきたのでしょうか?
観る側がどれだけストーリーに入り込んでくれるかということを考えました。今回のアプリもストーリー中に出てくる「検閲解除アプリ」です。それをお客さんが実際に操作して検閲を解除してっていうアクションをしてもらうことで、より当日の公演に入り込めるんじゃないかと思い作りました。
──シングルには全3曲が収録されています。資料には、そのすべてが「公演の中で演奏される重要な楽曲」と記されています。楽曲制作においては通常と違った向き合い方を求められる部分はありましたか?
曲作りはいつも通りだったんですが、今回は「言葉」がテーマと決めていたので、3曲とも「言葉」に関する歌です。
──表題曲「リビングデッド」は「新言語秩序」の世界で生きる者の歌であり、同時に今の時代を生きる人々の歌でもあるように思いました。“リビングデッド”というワードを用いた理由とともに、この曲に込めた思いを教えてください。
「リビングデッド」はこの物語の主題歌を作ろうと思って作りました。「死にきれぬ人ら」という意味でリビングデッドとしました。僕も含む、負の感情を燃料にして突き進む人たちの賛歌になればと思いながら歌詞を書きました。
──この曲では死にきれずも前へ進まなければならない無情さと、それでも生きたいと願う強い意志をも感じさせる強靭なビートが一定のリズムを刻んでいく中、スケール感のあるサウンドがシリアスに展開していきます。曲の構成やサウンドの仕上がりに関してどんな部分にこだわりを注ぎましたか?
初めにDTMでデモを作ってアレンジャーの出羽(良彰)くんにアレンジしてもらったんですけど、この曲は僕のイメージをブラッシュアップしてくれた形で完成しました。曲中に蒸気機関車の比喩が出てくるんですけど、機関車がものすごいスピードで駆け抜けて行くイメージで作りました。
──シンガロングできるパートが盛り込まれているところも印象的でした。「少なくとも居場所はここじゃないぜ」「くそくらえ」というフレーズが武道館に響くのを想像すると震える気持ちもあります。制作の過程ではライブで披露することを強く意識した部分もあったのではないでしょうか?
そうですね。作るときにはもう武道館でやる主題歌という気持ちだったので、そこで歌うところをイメージしながら作ってた気がします。
──ある意味、言葉は僕らをがんじがらめに縛り付けるものであり、それに傷付けられることも多い。でもその抑圧された感情から解放してくれるものこそがメロディに乗せた言葉=歌であることも事実で。「リビングデッド」という楽曲、ひいては「新言語秩序」という物語にはそんな歌の力、音楽の力を再認識したいという秋田さんの思いが込められているようにも感じたのですが……どうでしょう?
はい。どんな作品でも部分的に切り取れば、悪く言うことはできます。でも僕らがどこに向かっているのか、どういうメッセージなのか、それを汲み取ってほしいです。一行の詩に感動することもあるけど、千文字の歌詞には回り道をするからこそたどり着く、相応の力と感動があると思います。
等身大の言葉込めた「月が綺麗」と“検閲済み”の問題作「独白」
──2曲目「月が綺麗」はバンドサウンドで言葉に対しての希望のようなものを歌うナンバーになっています。「新言語秩序」にとってどんな意味を持つ楽曲として制作されたのでしょうか?
この曲は「言葉」がテーマの3曲の中でも、僕のパーソナルな部分に一番近い歌だと思います。「新言語秩序」の物語ではあらゆる方法で言葉を肯定しようとするんですが、こういう何気ない日常の情景の中での「言葉」というのも必要だなと思って作りました。
──温かい雰囲気のボーカルが印象的な楽曲ですが、後半の「逆らってるだけ」のあと、エモーショナルな歌声が続くパートに強く惹かれました。この曲に関してはどんな歌声を乗せられたと感じていますか?
この曲の歌詞は僕の本心なので、そのまま歌えればいいかなと思って録音しました。と言うか最近の歌のレコーディングはすべてそうですね。自然に歌えたら伝わると思ってます。
──さまざまな考えに思いを馳せながらも、最終的に「ところで今夜は月が綺麗」という些細で素朴な感情に着地することで、どこかほっこりした聴き心地も味わえました。こういった楽曲が生まれるときの秋田さんの心情はどんなものなのでしょうか?
宮沢賢治が、山に登って野営して星を観察してたって何かで読んで真似してみました。そのときに思い付いた曲です。ネットとか見てると宇宙とか月とか近く感じるんですけど、身ひとつで見ると遠くて巨大で、当たり前なんですが。そんな心境で作りました。
──3曲目は問題作「独白」です。シングルに収録されているものは“検閲済み”とされ、ボーカルのほとんどが聴き取れず、歌詞に関しても大部分が黒塗りされています。ストーリー上は「新言語秩序」によって“検閲”されたことは想像できますが、こういったスタイルで収録しようと思ったのはどうしてだったのでしょう?
これはネタバレになるので言いづらいんですが、今回のライブの核心であることだけは言いたいです。このバージョンを聴くことでより「新言語秩序」は楽しめるんじゃないかなと思って作りました。
──言葉狩りとも言える“検閲”行為に憤りを覚えつつも、黒塗りされていない部分、かろうじて聴き取れる部分から曲の全貌を想像しようとする、通常ではありえない面白みをこの曲から感じることもできました。それもまたamazarashiの提示する“実験”の1つなのでしょうか?
はい。多分聴いてくれた人は一部分から全体の歌詞を想像すると思うんです。むしろ僕はそうしてほしいんですが、そうするとより面白いですよ、という試みです。
──制作の過程ではご自身で“検閲”することになったのだと思います。その作業っていかがでしたか?
わりと楽しんでやってました。この部分が聞こえたら意味深に聞こえるかな、ミスリードしてくれるかな、みたいな。
──この曲が果たしてライブでどう披露されるかが気になります。きっと“検閲なし”バージョンが聴けることになる……のでしょうか?
それは“検閲解除”をどれだけの人たちが試みてくれるか、にかかっているかもしれません。
言葉を生かす側か、殺す側か
──シングルを聴くと、この「新言語秩序」プロジェクトが前代未聞の“実験”であることに、より確信が持てました。しかし、ライブではさらなる驚きがあるのだと思います。「リスナー皆さんで作る参加型のプロジェクトです」という発言の真意も気になります。ネタバレしない程度に日本武道館公演で作り上げたいと目論んでいることについて教えてください。
いろいろと手の込んだことはやっていますが、中心にあるのは変わらず歌とその感動です。僕らの歌はそれ1曲だけで完成してますが、違った道筋をたどって聴くとまた違った感動があると思います。最後にたどり着く「言葉」によって皆さんがどう感じるのか、何を思うのか、僕自身が一番楽しみにしてます。
──最後に。ある意味、今の現代社会へ問題提起することにもなるであろう本プロジェクト。それを通して何を感じてもらえたらうれしいですか?
一番言いたいことはアーティストには好き勝手やらせろ、ってことなんですが、それはそれとして、皆さんと言葉の距離を感じてくれたらなと思います。言葉を生かす側なのか殺す側なのか、どちらですか?という問いかけです。
- amazarashi「リビングデッド」
- 2018年11月7日発売 / Sony Music Associated Records
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初回限定盤 [CD+グッズ]
2300円 / AICL-3590~1 -
通常盤 [CD]
1280円 / AICL-3592
- 収録曲
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- リビングデッド
- 月が綺麗
- 独白(検閲済み)
- リビングデッド -instrumental- ※初回限定盤のみ
- 月が綺麗 -instrumental- ※初回限定盤のみ
- 初回限定盤グッズ
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- 新言語秩序バリケードテープ
- iOS / android向け“検閲解除ツール”アプリ
「新言語秩序 amazarashi 武道館公演」 - 配信中
- amazarashi 武道館公演「朗読演奏実験空間“新言語秩序”」supported by uP!!!
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2018年11月16日(金)東京都 日本武道館
- amazarashi(アマザラシ)
- 青森県むつ市在住の秋田ひろむを中心としたバンド。2009年12月に青森県内500枚限定の詩集付きミニアルバム「0.」を、翌2010年2月にその全国盤となる「0.6」をリリースした。その後2010年6月に「爆弾の作り方」をSony Music Associated Recordsから発表。アーティスト本人の露出がないまま、口コミを中心に話題を集めていき、2011年11月には初のフルアルバム「千年幸福論」を発表した。2015年2月に発表した1stシングル「季節は次々死んでいく」の表題曲がアニメ「東京喰種トーキョーグール√A(ルートエー)」の主題歌となり、3月には台湾にて初の海外ライブを実施。2016年2月にアルバム「世界収束二一一六」をリリース。10月にはミニアルバム「虚無病」を発表し、千葉・幕張イベントホールにて360°全方位から映像を投影するという自身初の試みとなるワンマンライブ「amazarashi LIVE 360°」を開催した。2017年3月に初のベストアルバム「メッセージボトル」を発表。12月には秋田が千葉・舞浜アンフィシアターにて弾き語りライブ「理論武装解除」を2日間行った。同月には4thアルバム「地方都市のメメント・モリ」をリリース。2018年4月からは今作を携え、全10公演のライブツアーを実施した。11月にシングル「リビングデッド」を発表し、初の日本武道館公演「朗読演奏実験空間“新言語秩序”」を開催する。