ナタリー PowerPush - amazarashi

フルアルバム「千年幸福論」リリース記念 短編小説「しらふ」独占公開

amazarashiが初のフルアルバム「千年幸福論」を11月16日にリリースする。

amazarashiは、青森県むつ市在住の秋田ひろむ(Vo, G)を中心としたロックバンド。2010年6月のミニアルバム「爆弾の作り方」でメジャーデビューして以降、「ワンルーム叙事詩」「アノミー」と意欲的な作品を次々と発表し、口コミを中心にじわじわと評価を高めてきた。今回完成したアルバム「千年幸福論」には、珠玉の新曲12曲を収録。その研ぎ澄まされた言葉とサウンドが、さらに切実に聴き手の胸に迫ってくる。

また「千年幸福論」初回限定盤封入のブックレットには、秋田ひろむ(Vo, G)が執筆した短編小説「しらふ」も掲載される。これまで歌詞や詩集などで独特の世界観を提示してきた彼だが、小説を書くのはこれが初とのこと。今回ナタリーではこの小説の第1章を特別に掲載し、全6章からなる物語の一部をお届けする。

しらふ 第1章【前半】

2ちゃんねるメンタルヘルス板を見ていたんだ、練馬区立美術館前の小さな公園のベンチに座ってさ。猫背で携帯電話の画面に食い入る様は、惨めで可哀想なものだろうか。

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街路樹が嫌いなんだ。添え木や縄で縛られているようなやつ。僕は田舎育ちだから、東京でそれを目の当たりにする度にぞっとしていたのを覚えている。まるで罪人がはりつけにされているみたいでさ。それが道路の両脇に秩序正しく並んで、その真ん中を人様が闊歩するってんだからたまったもんじゃないよ。そんなもんが区立の美術館の周りを取り囲んで、これが都会人の美意識でござい、なんてしたり顔してやがるから嫌いだよ。僕はこの街が嫌いなんだ。

丁度そんな感じで、このベンチの後ろに立っている街路樹が、天辺にある夏の日差しをなんとか遮ってくれていたんだけれど、それでも鼻の下と額には汗が滲んでくる。家を出る前に飲んだ発泡酒のせいかもしれない。僕はそれをTシャツの袖で拭いながら、無心に携帯電話の画面の文字を読んでいたんだ。

ブックマークの中から「本物の自殺志願者が語るスレ11」を開いて更新ボタンを押す。新着29件と表示されて、新たな書き込みがスライドして現れる。僕はこのスレッドを見るのが日課なんだ。

悪趣味とは言われたくないな、この東京のど真ん中ではさ。途方もなく退屈で、糞みたいな僕の日常にとっては、丁度今の時間やっているようなワイドショーなんかより、よっぽど楽しめる暇つぶしだったんだ。

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スレッドでは未だに、一ヶ月前に八王子で起きた通り魔殺人の話題が中心だった。犯人を褒め称えるような偽悪的な書き込みが数個。自殺志願者が殺人者にシンパシーを感じるだなんて不思議な話だけど、僕には分からないでもない。まぁ半分がおふざけみたいなもんだろうけど。その他には、身辺整理の報告や自殺決行日の予告、愚にも付かないレスが並ぶ中で、一つの文が目に止まった。

「私は素面じゃ生きていけない。皆が自然に笑ったり怒ったりしているのを見ると、彼らは常に酔っぱらっているんじゃないかと思う。私は素面じゃ笑えないし、上手く話す事も出来ない。そのせいで酔っ払い共から見下されて、馬鹿にされて、もう疲れたんだ。世界中が酔っ払いじゃないか。私こそ素面。私こそまとも。だから、私は素面のまま死んでやるんだ」

このスレッドでは、こういう自殺の動機や、身の上話なんかはよくあるんだけれど、僕はこの「私こそ素面」っていうキーワードが気に入ったんだ。

僕は顔を上げ、火照った顔を撫でる。そうだな、僕も“素面の人間”なのかもしれない。あの気が滅入るボロアパートに居たくはないけれど、素面じゃ公園に散歩する事すらままならない。電車の中じゃTシャツが滲むくらい変な汗をかくし、コンビニのレジで手と頭が震えたりする。人と話す時なんかも、まともに目を合わせたり出来ない。何処を見ていいのか分からない。人に見られる事が怖いんだ。ある人には自意識過剰って言われたけれど、そんなの百も承知だよ。こちとら数年、それで苦しんできたんだから。無神経にそんな事をのたまうそいつこそ、恐らく酔っぱらいだったんだ。

滑り台でやかましい奇声を上げてはしゃいでいる、あの子供達も酔っぱらっているに決まっている。それを微笑みながら眺めている母親達も、その隣を無関心に通り過ぎる、コンビニ袋をぶら下げた作業着の男も、皆酔っぱらっているに違いない。そうでなければ納得出来ないよ。だって僕がこんなに苦戦している社会生活って奴を、誰もがいとも簡単にこなしている。僕には社会人とやらの営みが正気の沙汰とは思えなかったんだ。

1stフルアルバム「千年幸福論」 / 2011年11月16日発売 / Sony Music Associated Records

  • 初回限定盤[CD+DVD+詩集+オリジナル短編小説ブック] / 3300円(税込) / AICL-2319 / Amazon.co.jpへ
  • 通常盤[CD+詩集]/ 2800円(税込) / AICL-2321 / Amazon.co.jpへ
収録曲
  1. デスゲーム
  2. 空っぽの空に潰される
  3. 古いSF映画
  4. 渋谷の果てに地平線
  5. 夜の歌
  6. 逃避行
  7. 千年幸福論
  8. 遺書
  9. 美しき思い出
  10. 14歳
  11. 冬が来る前に
  12. 未来づくり
amazarashi(あまざらし)
  • 2012年1月28日(土) 東京都 渋谷公会堂
    OPEN 17:00 / START 18:00
    料金:前売4000円 / 当日5000円
    チケット一般発売:2011年12月3日(土)

  • ナタリー特別先行予約受付

    受付期間:2011年11月14日(月)12:00~11月21日(月)18:00
    抽選日時:2011年11月22日(火)18:00
    当選発表:2011年11月23日(水)13:00~11月24日(木)18:00
    入金期限:2011年11月25日(金)21:00

  • amazarashi LIVE「千年幸福論」ナタリー特別先行予約

アーティスト写真

amazarashi(あまざらし)

青森県むつ市在住の秋田ひろむを中心としたバンド。青森県内500枚限定の詩集付きミニアルバム「0.」を2009年12月に発表し、翌2010年2月にその全国盤「0.6」をリリース。その後ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズへ移籍し、2010年6月に「爆弾の作り方」を発表。アーティスト本人の露出がないまま、口コミを中心に話題を集めていく。2011年には東京・WWWとLIQUIDROOM ebisuでワンマンライブを実施し、それぞれソールドアウトを記録。同年11月に初のフルアルバム「千年幸福論」をリリースする。


2011年11月17日更新