ナタリー PowerPush - amazarashi
初のメールインタビュー実現!
事件、なんて言い方をするのはちょっと大げさかもしれない。だが、これまでメディアへの露出が一切なかった状況を考えると、これはもう多くの人が待ち望んだうれしい事件と言わざるを得ないのではないだろうか。そう、amazarashiの中心人物・秋田ひろむへのメールインタビューがついに実現したのである。
青森県むつ市在住ということ以外は謎に包まれた存在であるだけに、訊きたいことはどんどんと溢れてくる。結果、かなりの数の質問を投げかけることとなったが、秋田ひろむはそのほぼすべてに真摯な回答を返してくれた。その貴重な発言の数々を余すことなく紹介していこうと思う。
まずは、前作「ワンルーム叙事詩」からわずか4カ月で届けられることになった最新作「アノミー」について。「今の僕の気持ちにぴったりくる作品になったと思います。不安とか疑問、希望も含めて、心の感情の割合が丁度いいと言いますか、そのままCDになった感じです」と自ら語る本作には、TBSドラマ「ヘブンズ・フラワー」の主題歌となっているタイトル曲「アノミー」を含めた全6曲を収録。そのすべてを自らの言葉で解説してもらうことにした。
取材・文/もりひでゆき
秋田ひろむが語る「アノミー」収録曲
- アノミー
- 「寺山修司の『アダムとイヴ、私の犯罪学』がモチーフになって出来た曲です。1966年の作品なのですが、それが今を舞台にしたらどうなるだろうと考えてたのがきっかけです。普段ニュースを見て感じるような不安感だとか、そういうものの根っこにあるものを知りたいと思って歌にしました」
- さくら
- 「以前東京に住んでいたのですが、その時の事を思い出して作った歌です。わりと昔からある歌です。終わりと始まり、出会いと別れで人生が進んでいくとするなら、それに付随する悲しみは受け入れなければならない、それなら、泣きじゃくりながらでも前に進めたらそれでいいじゃないか、という気持で作りました」
- 理想の花
- 「ポエトリーリーディングです。アルバム的な流れとして大事な曲だと思います。『さくら』は昔の歌なので、今の気持とズレが生じないように、再確認する意味で『さくら』の続きを作るような気持で書きました」
- ピアノ泥棒
- 「深夜泥棒に入った男がピアノを弾いて捕まってしまうという、オランダであった実際の事件が元になっています。そこから妄想プラス自分の感情で出来た曲です。わりと物語に寄った歌で、どうなんだろうと思っていたのですが<どうせのたれ死ぬだけの、くそったれの人生>というフレーズが気持にぴったりきたので、これでいいと思えた歌です」
- おもろうてやがて悲しき東口
- 「レコーディング等でたまに東京に行くのですが、作業が終わってホテルに帰るのが終電間際なんです。その時に、駅前で酔っ払った人達がたむろしている中を、一人で歩いてる時に、ヘッドフォンでこんな曲が流れたらなと思って作りました」
- この街で生きている
- 「東京に住んでいる友達に歌った歌です。応援歌的ですが自分を奮い立たせる歌でもあります。なんか、とても素直に書けた歌だと思います。大事な曲です。この曲で終わることで未来に開けた感じが、余韻として残ればいいなと思いました」
amazarashiにまつわる3つのキーワード
ここでひとつ、秋田ひろむに関する情報が明らかになった。それは「以前、東京に住んでいた」ということ。楽曲の中に東京の地名が登場するのにはそんな理由があったのだ。東京に対してはさまざまな思い出もある様子。
「以前東京に住んでバンドをやっていました。色々打ちのめされて地元である青森に帰ってきました。ですので、歌詞に出てくる地名はその時の思い出を基にしています。当時東京は嫌いでしたが、今は嫌いじゃないです。一度挫折したわけですが、それがamazarashiに続いていると思います。僕の人生で本当に濃い、それこそ人生観を変えるくらいの体験をさせてくれたのは東京に住んでいた数年間だと思います」
またamazarashiの楽曲から感じることができる3つのキーワードについても質問を投げかけてみた。1つ目は“季節感”。「さくら」をはじめ、amazarashiには四季を瑞々しく切り取った楽曲が数多く存在しているが、それはなぜなのか?
「多分、曲を作るときに情景をイメージするからだと思います。メッセージを直接歌うより、情景描写の方がより伝わる、という事は多いと思うので」
2つ目のキーワードは“現代社会”。生きにくい現代社会の中で生き抜くことを歌うamazarashi。その理由と、伝えたい対象とは?
「意識してそうしているわけではないです。ニュースなどを見て“酷い事件だな”とか“どうしてこうなったんだろう”とか、そういう疑問を歌にしているからだと思います。対象は特に考えていません。自問自答でどこが落としどころになるかを考えているので、しいて言えば自分だと思います」
そして、3つ目は“生”。amazarashiの楽曲にみなぎる圧倒的な“生”は、同時にすぐ側にある“死”をも浮き彫りにする。ならば秋田ひろむの考える死生観とは?
「“死ぬ気になれば何でも出来る”ってよく言うじゃないですか。そんな感じでしょうか。もう死んでしまったつもりで生きたいです。人生の財産は今感じた事だけで、それをより良いものにする為だけに生きたいです。中々上手くは出来ないですが」
amazarashi(あまざらし)
青森県むつ市在住の秋田ひろむを中心としたバンド。青森県内500枚限定の詩集付きミニアルバム「0.」を2009年12月に発表し、翌2010年2月にその全国盤「0.6」をリリース。その後ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズへ移籍し、2010年6月に第1弾作品「爆弾の作り方」を発表。アーティスト本人の露出がないまま、口コミを中心に話題を集めていく。11月にメジャー第2弾となる7曲入りアルバム「ワンルーム叙事詩」をリリース。2011年3月発売の「アノミー」タイトル曲は、ドラマ「ヘブンズ・フラワー」の主題歌に起用された。