雨宮天が初のEP「雨宮天作品集1 -導火線-」を3月22日にリリースした。
本作には雨宮が自ら作詞作曲を手がけた歌謡曲テイストのナンバーを5曲収録。歌謡曲を愛する雨宮の情熱とセンスがあふれる1枚だ。
2019年にライブで初披露した楽曲「火花」を皮切りに、雨宮は自身でも作詞作曲を行ってきた。楽曲を生み出す際、雨宮はどこからインスピレーションを得て、どのような手法で作詞作曲をしているのか? 彼女にとって“歌謡曲”とはなんなのか? 歌謡ジャズから演歌まで多彩な歌謡曲が詰まった本作の制作経緯について、たっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 須藤輝撮影 / 塚原孝顕
徐々に妄想を形にできるような気がしてきた
──雨宮さんの歌謡曲路線を振り返ると、まず2017年7月にリリースした歌謡ジャズ「irodori」(4thシングル表題曲)が1つの転機になっているのは間違いないと思います。
間違いないですね。
──その直後、同年9月に1回目の「LAWSON presents 雨宮天 音楽で彩るリサイタル」が開催されました。同イベントは雨宮さんが好きな歌謡曲を好きなだけ歌うイベントで、これを足がかりに自分の力で歌謡曲の道を切り開いてきたように見えます。
確かに「リサイタル」を1回やってみて、お客さんから「またやってほしい」という声がたくさん聞けたことが何より大きかったですね。
──お客さんを味方につけて「ほら、みんな喜んでるんだから、もっと私に歌謡曲を歌わせて」と。
外堀を埋めていく感じ(笑)。さすがに、いくら自分が歌謡曲を好きでもお客さんに求められていなかったらやりにくいですよね。でも、みんなに歌謡曲のカバーを喜んでもらえて、その結果「リサイタル」も現時点で第3回まで開催できているし、きっと私の歌謡曲に対する「好き」という思いも伝わったんじゃないかな。
──その後「VIPER」(2019年7月発売の8thシングル表題曲)で決定打を放ち、さらに雨宮さんが初めて作詞作曲し、2019年9月の第2回「リサイタル」大阪公演で初披露した「火花」(2020年9月発売の3rdアルバム「Paint it, BLUE」収録曲)でダメ押しした感があります。
「VIPER」も「火花」も「リサイタル」を意識した曲で、「これが私のやりたいことです!」と完全に吹っ切れましたね。「火花」はちょっとした遊び心で作ったんですけど、大阪で披露したら思いのほかファンの方の反応がよくて。だから、基本はみんなの反応のおかげですね。振り返れば、それが私の中で成功体験になっていったんだと思います。あと、去年まで私を担当してくださっていたA&Rの方の存在も大きくて。その方も歌謡曲がお好きで、普段から歌謡曲トークで盛り上がれる間柄だったので、かなり背中を押してもらいました。
──僕個人としては、コテコテのエキゾ歌謡曲「Emerald」と、雨宮さんが作詞作曲したラテンディスコ歌謡曲「情熱のテ・アモ」(いずれも2021年7月発売の12thシングル「フリイジア」カップリング曲)の2曲で行くところまで行ったと思ったのですが、まだその先があったという。
ここまで歌謡曲の色が濃くなるとは、自分でも予想外でありつつ、うれしいです。しかも、世の中的にも昔の歌が流行っていますよね。
──でも雨宮さんはシティポップや和モノ、レアグルーヴとは関係ないところで、単に好きだから歌っていますよね。それは2021年10月にリリースした歌謡曲カバー集「COVERS -Sora Amamiya favorite songs-」の選曲にも言えることですが。
「好きだから歌います。聴きたければ聴いてください」みたいな(笑)。
──そうした地盤固めの先に、今回の「雨宮天作品集1 -導火線-」があるのかなと。しかも、今作では雨宮さんが全曲の作詞作曲を手がけています。
実は「火花」のときから妄想レベルで「自分で作詞作曲した曲だけで固めたEPを出せたらいいですよね」みたいな話をそのA&Rさんとしていたんですよ。そのときにいつも「そこに『雨宮天作品集』ってタイトルを付けたら、雨宮さんに絶対に似合うと思う!」と言ってくださって。だからこのタイトルは、A&Rさんが残してくれたものなんです。
──置き土産的な。
当時の私にとっては現実味がなかったんですけど、自分が作詞作曲した楽曲をちょっとずつ世に出していって、ありがたいことに毎回いい反応をいただくうちに、徐々にその妄想を形にできるような気がしてきて。去年、プロデューサーさんに「私、全曲自分で作詞作曲したEPをいつか出せたらいいと思っているんです」と初めてお伝えして、今に至ります。
この曲を「自分で作詞作曲しました、ドヤ!」って言っていいんだ!
──雨宮さんは約2年半前、アルバム「Paint it, BLUE」リリース時のインタビューで、コロナ禍で図らずも自分の時間を持てるようになったので、その時間を音楽の勉強に充てたら、よりクリエイティブな方向での挑戦にもつながるんじゃないかとおっしゃっていました(参照:雨宮天「Paint it, BLUE」インタビュー)。その通りになりましたね。
本当だ。そのときはまだ妄想レベルだったと思うんですけど、有言実行ですね。
──音楽の勉強もされたんですか?
2020年1月のライブ(「LAWSON presents 雨宮天ライブ2020 “The Clearest SKY”」)から角田崇徳さんという方がサウンドプロデューサーとして入ってくださっているんですけど、角田さんはご自身でも作曲や編曲をされるんですよ。なので空いた時間に、リモートで音楽理論とかCubase(音楽制作ソフト)の使い方を教えてもらったりして。
──ではデモもCubaseで、自分で打ち込んで作っているんですか?
そうですね。一応、メロディにコードを付けて、ベースと、入れられたらドラムも入れて。ギターとかは入れられないんですけど、ある程度形にしたものを角田さんにお渡ししています。同時に曲に対する私のイメージもお伝えして、そのイメージに沿って角田さんが軽く手を加えたものを各アレンジャーさんにお送りするという流れで。今回のEPもそういう作り方をしています。
──そのEPに収録された5曲はどれもクセが強くて……。
だいぶクセ強かもしれませんね(笑)。
──一聴して「雨宮さんが楽しそうで何より」という感想を抱きましたが、1曲目かつリード曲の「TRIGGER」の編曲は塩野海さんですね。まさに「irodori」と「VIPER」の作詞、作曲、編曲をなさった方なので、雨宮さんのやりたいことをわかっていらっしゃるのかなと。
本当にそうなんですよ。塩野さんから戻ってきた「TRIGGER」のアレンジに対して「もうちょっとこうしてください」みたいな部分が一切なくて、イントロから「解釈一致!」という感じでした。それこそ「irodori」や「VIPER」を一緒に作っていく過程で塩野さんにはいろいろとリクエストしていたので、私の好みを完全に把握してくださったんでしょうね。もう「この曲を『自分で作詞作曲しました、ドヤ!』って言っていいんだ!」という、うれしさしかなかったです。
──「TRIGGER」も「irodori」と同路線の歌謡ジャズですが、作曲は具体的にどのように?
もともと私はジャズっぽい曲が好きなので、このEPにも1曲は必ず入れたくて。そしたら、まずはジャジーな曲をひたすら漁るんですよ。歌謡曲だけじゃなくて、例えば「枯葉」のようなスタンダードナンバーとかもボーカルのあるなし関係なく聴いて、とにかくインプットする。そのうえで適当に鼻歌を歌ってみたりして、モニモニ揉んでいくとそれっぽくなってくるんです。そこで「あ、曲の種できた」と思ったら、それを育てていく感じですね。コードから作る方もいると思うんですけど、今の私には鼻歌から生まれたメインメロに合わせてコードを付けていくやり方が一番合っている気がします。
もっと生きようよ、あんたの人生をさ!
──「TRIGGER」の歌詞についてもお伺いしますが、雨宮さんは「疾風(かぜ)伝説 特攻(ぶっこみ)の拓」というマンガをご存知ですか?
いえ、知らないです。
──1990年代に「週刊少年マガジン」で連載されていた暴走族マンガで、例えばバイクで事故った人のことを「“不運(ハードラック)”と“踊(ダンス)”っちまった」と表現する、ある意味で文学性の高い、特殊なルビの振り方をするマンガでして。
文学性が高い(笑)。
──「TRIGGER」の歌詞にもそれに通じるものがあると思いました。具体的には「抵抗(ナイフ)の切先」「都合主義(いかさま)で作られた」「甘み増させる彩(スパイス)」といったルビ使いなんですが、中でも常軌を逸しているのが「赤裸々な欲望(ラララ)」です。「欲望」を「ラララ」と読ませた例って、いまだかつてないのでは。
言われてみればそうかも(笑)。でも、このへんはノリでしたね。「欲望」の前に「赤裸々な」があったから、その流れで「『赤裸々なラララ』って、めっちゃ面白い響きだな」と思ったんです。表記として「欲望」を残せば歌詞を読んだときに意味は伝わるし、じゃあ「欲望(ラララ)」にすれば一石二鳥かもって。
──楽曲の舞台としては、歌詞に「赤いスペード」「黒いジョーカー」とあるので、カジノでしょうか。
実は「スペード」も「ジョーカー」もトランプのつもりはまったくなくて、ジャケット撮影のときにトランプが用意されて「ああ、そっか」と気付いたくらいなんです。でも、確かに舞台としてはカジノが近いのかな。カジノだけど、華やかというよりは闇があって、そこに集まる人たちもワケありというか、なんなら人ならざる者でもいい。私の中では、ちょっと異世界感があって、いろんなショーや賭け事が行われている、架空の……アミューズメントパーク?
──急にファミリー向けみたいになりましたね。裏カジノっぽい雰囲気だったのに。
そう、裏カジノ的な場所で(笑)。「TRIGGER」は悪役の歌をイメージしていたので、色気と毒気をまとわせたかったんですよ。だから、例えば1番Bメロの「ああ濡れた 瞳の奥光る 抵抗(ナイフ)の切先 もっともっと 掻き乱してよ」というフレーズは、自分が悪者っぽくなる瞬間を思い浮かべて書いていて。要は、私はゲームも好きなんですけど、ゲームに負けて悔しそうにしている人を見ると、ゾクゾクしちゃうんです。「その表情、たまらん!」って。そういう、自分の中の悪役要素をちりばめていますね。
──例えば「王道(すじがき)にトリガー引いて」という歌詞は……これもいいルビが振ってありますが、予定調和的なものに反抗しているようで、雨宮さんらしいと思いました。
そうですね。曲を作るときはいつも、雰囲気を伝えるために1番だけ仮歌詞を書いて提出するんですけど、その仮歌詞がなんだかんだでハマって、それを軸に2番以降の歌詞を書くことが多くて。でも、仮歌詞はあまり深く考えずに15分とか20分で書いたものなので、そこで初めて「じゃあ、この曲のテーマは何にしよう?」と考えるんです。そうなったとき、「TRIGGER」の場合は悪役の雰囲気はそのままに……あの、悪役のくせにいいことを言う悪役って、たまにいるじゃないですか。
──悪には悪なりの道理や信念があったりしますからね。
そうそう、その方向性で行きたくて。悪役って、社会のルールや常識をぶち壊しているから悪役なんですけど、そこをポジティブに反転させるというか。ぶち壊してでも貫きたい信念があるなら、常識なんかにとらわれずに、「もっと生きようよ、あんたの人生をさ!」というメッセージにしたかったんですよ。それって私の考え方とも重なるし、今の世の中は遠慮がちな人が多いと感じていて。もちろん調和を重んじるのはいいことではあるけれど、遠慮しすぎて自分の個性を殺してしまっている人もいると思うので、そういう人へ発破をかけるような曲になったらいいなという願いもちょっとあります。
──そこに乗る雨宮さんのボーカルは官能的かつ退廃的で、ときに挑発的で。こういう曲、似合いますね。
それは、声優としてもすごくうれしい感想です。こういう曲に似合うように歌う技術って、キャラソンに通じるものがあると思うので。悪役イメージの歌詞に沿って、悪役になりきって歌いました。
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中森明菜さんを脳内に召喚