雨宮天|デビュー5周年を終え、未来に向けて力強く踏み出す一歩

攻撃の手を緩める気はないぞ

──そして5曲目がリード曲の「Queen no' cry」です。ストーナーロック的なグルーヴを感じさせるヘビーでリズミックなロックナンバーですが、よくこれをリード曲にしましたね。

もしこれが2ndアルバムだったら、おそらく「Queen no' cry」はリード曲にはなっていなかったでしょうね。さっきも言ったように「The Only BLUE」は自分でもすごく満足のいくアルバムになったんですけど、このアルバムと、その後にリリースしたシングルでいろんな曲を演じきった今だからこそ「Queen no' cry」をリード曲にできたんだと思います。

──「Queen no' cry」をリード曲にしたこと自体が1つのメッセージになっていますよね。

「攻撃の手を緩める気はないぞ」と(笑)。ただ、実はすんなり決まったわけではなくて、“リード曲どうするよ会議”でも「本当にこれでいいのか?」とずいぶん悩んだんです。私は今まで自分の思うカッコいい曲をたくさん歌わせてもらってきましたけど、「Queen no' cry」のようなちょっと洋楽っぽい雰囲気の、しかもミドルテンポの曲でカッコよさを打ち出したことがなかったので。でもだからこそ、この曲をリード曲にすることで、これからも新しい曲に挑戦していくという決意を表すことができると思ったんです。

──2ndアルバムのリード曲「エデンの旅人」は「初めからリード曲はこの曲以外考えられなかった」とおっしゃっていましたが、「Queen no' cry」に関しては迷いもあったと。

もちろん第一印象からかなり気に入ってはいたんですけど、「絶対に譲らない」とまでは思わなくて。ただ、最初の「Na na na…」のメロディが頭から離れなくなって、何度も聴いていくうちにどんどん癖になっていったんです。だから第一印象のインパクトというよりは、曲の持つ地力の強さに惹かれたんでしょうね。あと私はミュージックビデオも大事にしていて、「Queen no' cry」なら今まで見せたことのないような映像になるんじゃないかという期待もありました。

──アルバムの初回限定盤にはそのMVと共に撮影ドキュメントも収められていますが、撮影、大変でしたね。

本っ当に大変でした(笑)。屋外の撮影であんなにも強い風に当てられたのは初めてです。

──でも完成したMVはロードムービー風のワイルドな仕上がりで、カッコよかったですよ。

そう言っていただけると救われます。もう目を開けるのも難しい、気を抜いたら吹き飛ばされかねないレベルの強風で。ほんの短い距離を歩くシーンでもしっかり踏ん張らないとヨタついちゃうし、あの風ではメイクさんのお直しも意味をなさないので「映像として大丈夫かな?」とずっと心配してたんです。ちなみに「Queen no' cry」の主人公は無骨で、服装も下はジーンズとかラフな感じで、顔に赤土がついているようなイメージで。

──赤土。雨宮さんの楽曲イメージはディテールが独特ですよね。

私としては赤土はけっこう大きなポイントで、それをMVの制作スタッフさんにもお伝えした結果、ああいう感じになりました。

強い曲を歌うことで、自分も強くしてもらっている

──「Queen no' cry」における雨宮さんのボーカルも、今までになくタフですね。

ありがとうございます。もう曲がこれだけ強いので、私も低音を響かせた説得力のある力強い歌声で通したかったものの、それをやるのが絶妙に難しいテンポだったんですよ。しかも意外とサビの音程が高いので、その声色を守りづらくて。だから常に重心を下げることを意識して歌いましたね。そのうえで、歌い方もちょっと変えたんです。

──と言いますと?

例えば、今までは芯の通ったまっすぐな強さを表現するために、小さな点を撃ち抜くような歌い方をしていたんですけど、「Queen no' cry」ではより荒々しく、大きな面に声を叩きつけるようにして歌ったんです。もはやメロディに音を沿わせるのは二の次みたいな感じで。そうすることでまた今までとは違った表情が出ていたらいいなと思いながら。

──歌詞に目を転じても「わたしに嘆きは似合わない」「選んだ未來は渡さない」など、雨宮さんらしいフレーズが随所に見られますね。

確かに(笑)。でも、私もだいぶ強気で生きていますけど、それが100%自分の素なのかと言われるとそうでもなくて、何割かは虚勢なんです。そういう意味では「Queen no' cry」のような強い曲を歌うことで、自分も強くしてもらっているような感覚がありますね。

──この「Queen no' cry」から、6曲目の「VIPER」で畳みかける容赦のなさも素晴らしいです。

本当にこのアルバムの前半は、多方面からぶん殴りにかかるような構成になっていますよね。ただ、ひたすら攻撃あるのみなんだけど、単純な物理攻撃だけじゃなくて魔法も使うし、その魔法も炎だったり水だったり。

──「PARADOX」(2020年1月発売の10thシングル)リリース時のインタビューで歌唱における武器が増えたというお話をしましたが、それともつながりますね(参照:雨宮天「PARADOX」インタビュー)。

そう。しかも、今までは曲に武器を増やしてもらうようなイメージだったんですけど、このアルバムに関しては自分が集めてきた武器からまた新たな武器を錬成している感じで。最初のほうでおっしゃってくださったように「こんなにも攻撃のバリエーションがあるんだよ」と見せつけるような、余裕すら感じる強いアルバムになってくれました。

「偽る」と書いて「いろどる」と読む

──そんな攻撃的な前半から、7曲目の雨宮さん作詞作曲の「火花」でいったんクールダウンします。この曲のレコーディングはバンドとの同時録音だったそうですね。

はい。今年1月の幕張ライブ(参照:雨宮天、初のバンドスタイルに挑戦した幕張公演2DAYS)で演奏してくださった“天ちゃんバンド”の皆さんと一緒に録りました。というより、幕張で初めて生バンドの演奏をバックに歌ったことが、「火花」の同時録音につながったんですよ。

──普段のレコーディングとどんな違いがありました?

やっぱり生身の人間の演奏に合わせて歌うというライブ感がすごくあって。例えばレコーディングしながらバンドの皆さんが「どのテンポが一番しっくりくるかな」とテンポをちょこちょこ変えてくださって、それに対して、私としては「火花」は遅れ気味のテンポで歌いたかったので、そういう要望をお伝えしたり。そうやっていろんなテイクを試していく中で、ピアノもギターも毎回アドリブで違うフレーズを弾いてくださって。それに合わせて自分の歌唱も変わっていくし、やっぱりみんなで「せーの」で録ると、すべてのテイクが全然違うものになるんだなという驚きがありました。

──僕は「火花」を幕張のライブで聴いていますが、歌詞をテキストで見るのは初めてで。「偽る」を「いろどる」「かざる」と読ませていたり、かなり凝っていますね。

ちょっと恥ずかしいけど、すごくうれしいです。そこは私なりにこだわったというか、もちろん歌なので耳に歌詞が届くことは大事だと思いつつ、どうしても日本語の文字そのものが好きなので。文面で見たときのきれいさだったり、文字にして初めてわかる意味みたいなところに執着しながら書いていきました。

──雨宮さんの中で化粧したり着飾ったりするというのは、自分を偽る行為でもあるのかなと。

うんうん。さっきも“虚勢”という言葉を持ち出しましたけど、いろんな方法で自分を偽ってはいるなと(笑)。例えばライブであれば、きれいな衣装をまとって戦闘力を上げることで“雨宮天”としてステージに立てているところがあると思いますし。

──「PARADOX」のインタビューでは、「火花」の歌詞はある思い出をベースに書かれたとおっしゃいました。当該記事ではその詳細は伏せていますが、まだ内緒にしているんですか?

まだ内緒です(笑)。というのも、「火花」の世界を広げてくれるのはファンの皆さんだと思っていて。そのインタビューでもお話しした通り、私には歌で伝えたいことを見つけられなくて、歌詞を書くのにすごく悩んだんですよ。そのとき見つけた自分なりの手法が、身近で起こった取るに足らない出来事を、さも重大事のように、シリアスに情緒的に書き換えていくことだったんですね。そこで改めて日本語が持つ奥行きにも気付けたし、そうやって書かれた歌詞を皆さんがどう解釈してくれるのか楽しみで。

──であれば、ファンの皆さんが歌詞を読み込む時間を設けるべきであると。

はい。ちょっとしたいたずらも仕込んでありますし。というか、この歌詞自体が壮大ないたずらみたいなものでもあるので、いずれ訪れるネタばらしの瞬間も含めて皆さんも楽しんでいただけたらうれしいです。

自分の時間が持てたからできたこと

──ところで、今回のアルバムの制作期間はいわゆる自粛期間と重なっていると思いますが、何か影響はありました?

まず事実として、この状況下で自分の時間が増えたんですね。例えば本業の声優のお仕事にしても、アフレコが少人数での収録になったことで1話あたりの拘束時間がすごく短くなって。その結果、この「Paint it, BLUE」は音楽というものとしっかり向き合いながら、今までで一番丁寧に作れたアルバムだと思っています。だからといって「コロナのおかげで」みたいな言い方は絶対にしたくないんですけど。

──そりゃそうですよ。

今までのアルバム制作は、前作の「The Only BLUE」にしてもかなりスケジュールが詰まっていて。だから勢いで録っていたり、レコーディング当日に歌い方の方向性とかを決めなくちゃいけないことも多かったんです。それに対して今回はプリプロの時間も、プリプロ後に自分自身が曲と対峙する時間も取れたんですね。サウンドプロデューサーの角田さんもすごく会話を大事にしてくださって、お互いの意見を1つひとつすり合わせながら作っていけたので、何かに納得しないまま進むということがほとんどなかったです。

──4月にはTwitterでボイス付き絵日記企画「そらのはるやすみ」(参照:そらのはるやすみ (@sora_haruyasumi) | Twitter)を開始し、6月には公式YouTubeチャンネル(参照:雨宮天YouTube公式チャンネル)も開設しましたね。

それも自分の時間が持てたからできたことですね。私はイベントやライブの中止のお知らせをしなくちゃいけない側で、そのたびにファンの皆さんの嘆きの声が届いてきて。そんな中で、アニメや声優が好きな方々に支えられ、さらに言えばエンタメに支えられている身として何を発信すべきかを考えた結果が「そらのはるやすみ」であり、YouTubeで公開した「奏」の弾き語りだったんです。

──オンラインであったとしても、ファンの皆さんも雨宮さんをより身近に感じられたのではないかと思います。

だとしたら本望ですね。どちらも私にとっては挑戦でしたし、結果的に私も皆さんのコメントにすごく励まされています。


2020年9月8日更新