雨宮天が9月2日に3rdアルバム「Paint it, BLUE」をリリースする。
アルバムにはリード曲「Queen no' cry」、本人が作詞作曲した楽曲「火花」、シングル曲「Regeneration」「PARADOX」を含む全13曲を収録。雨宮は初となるオーバーチュアで幕を開けるコンセプチュアルなこの作品で数々の主人公を演じており、その多彩な表現からは声優として活躍しながらアーティストとして5年間歩んできた彼女の進化と、真っすぐに音楽制作に向き合ってきた姿勢を見ることができる。また「Paint it, BLUE」というタイトルや力強い信念を歌うリード曲「Queen no' cry」をはじめ、このアルバムにはデビュー5周年イヤーを終え、新たな一歩を踏み出す彼女の心意気が詰め込まれている。
音楽ナタリーではさらなる未来へ向けての出発となるこのアルバムの全容を、1万2000字のインタビューで解き明かす。
取材・文 / 須藤輝
青く塗りつぶせ
──3rdアルバム「Paint it, BLUE」ですが、まずタイトルから最高ですね。The Rolling Stonesの名曲「Paint It, Black」をもじっていて。
今回のアルバムの制作から新しくサウンドプロデューサーの角田崇徳さんとご一緒することになりまして、その角田さんがタイトル案を出してくださったんです。恥ずかしながら私は元ネタを知らなかったんですけど、「青く塗りつぶせ」という力強さがすごくしっくりきて。
──タイトルをストーンズの曲名になぞらえるというのはわりと大それた行為だと思いますが、デビューから一貫して“青”にこだわり続ける雨宮さんが言うなら仕方ないというか、説得力があります。
うれしいです。「Paint it, BLUE」は、私が名前を付けた過去2枚のアルバム「Various BLUE」(2016年9月発売の1stアルバム)と「The Only BLUE」(2018年7月発売の2ndアルバム)とは違う雰囲気で、デビュー5周年を終えてからの新しいスタートにもぴったりだなと。
──2ndアルバム「The Only BLUE」は“攻撃”に全振りしたアルバムでした(参照:雨宮天「The Only BLUE」インタビュー)。今回の「Paint it, BLUE」も攻撃的であることに変わりはありませんが、その攻撃の手段がバラエティに富んでおり、それでいてアルバムとしての統一感もある。通して聴いたときの流れも美しいですね。
このアルバムを作るにあたっては、最初から私の中に具体的な構想があったというわけじゃなくて。まず角田さんとたくさん会話をして、とにかく私の好みや普段聴いている音楽をお伝えしたんです。そのうえで角田さんが用意してくださった候補曲の中から、全体のバランスを考えつつ、でも基本は「私はどの曲を演じたいか」という基準で選んだらこうなったので、アルバムの作り方としては普段とほぼ変わらないんです。
──前作は「“雨宮天だけの世界観”を確立すること」を目指したアルバムでもあり、それを実現できたアルバムだと思います。その次の作品という点でプレッシャーなどは?
正直、「The Only BLUE」は自分でもすごく気に入っていたので「それを超えるアルバムを作れるんだろうか?」みたいな不安はありました。でも、候補曲を聴いていくうちに「これは大丈夫だ」と思えるようになってきたんです。なにしろ1曲1曲のパワーがすごく強かったので、きっとこの曲たちが歌のレベルも引き上げてくれるだろうって。
私にとって「旅人」とは
──アルバムの1曲目にはピアノのインスト曲「Paint it, BLUE」がオーバーチュアとして配置されています。これも角田さんのアイデアで?
そうですね。角田さんとの会話の中で、私はピアノの音色が好きだということをしつこく言っていて。その意見を大事にしてくださって、新録曲に関してはリード曲の「Queen no' cry」以外はどれもピアノが効果的に使われているんです。だからどの子も世界観は全然違うけど、ピアノがみんなをつなげるピースになっていて、そこにオーバーチュアとしてピアノ曲を入れることでより全体のまとまりが出るんじゃないかって。
──言われてみれば、ピアノの音色がアルバムのキーになっていますね。
ただ、実は最初にいただいたオーバーチュアのアイデアはもっとロックな雰囲気もある荒々しいものだったんですけど、それは私のイメージとは少し違っていて。私はクラシックピアノも好きなので「もっとクラシカルな雰囲気にしていただけませんか?」と図々しくも意見を伝えさせていただいて、今の形になったんです。結果的に、このクラシカルな「Paint it, BLUE」から始まって、最後はクラシックをベースに作っていただいた新曲の「雨の糸」で終わるというきれいな流れにできて、それもすごく気に入っています。
──「Paint it, BLUE」に続く2曲目の新曲「Fluegel」は、雨宮さん好みのエキゾチシズムを感じさせるパーカッシブなナンバーですね。
私は、この「Fluegel」からはすごくシャーマンを感じて。イメージとしては、乾いた大地で、近代的都市生活からは離れて自然と共生している人々がいて、その集落では祈祷師が重要なポジションを占めているみたいな。そういう世界観の中で、集落の期待を一身に背負ったシャーマンが強い祈りを捧げる。そんなイメージで歌いました。
──確かにこの曲のパーカッションやコーラスには儀式的な響きもあり、歌詞も含めて大地や自然を思わせるスケール感もあります。
ちなみに私のイメージするシャーマンは年齢的にはまだ20代と若いんですけど、10代で祈祷師デビューしているので祈祷の経験は十数年積んでいるんです。なおかつ、このイメージ上の世界では人の寿命自体がそんなに長くはなく自然の流れに任せているような……。
──だいぶ設定が細かいですね。
あはは(笑)。これは声優ならではだと思うんですけど、やっぱりキャラを具体的に作っていくとそのぶん歌いやすくなるので。
──「Fluegel」の歌詞には「旅人」が出てきます。「The Only BLUE」にも「エデンの旅人」という曲がリード曲として収録されていましたが、雨宮さんにとって「旅人」とはどのようなモチーフなんでしょう?
ああ、私にとって旅人とは……なんなんだろう? たぶん旅人って、何かに飢えているというか、自分に欠けている何かを追い求めている人でもあると思うんですよ。私もいつも自分の好きなものを追い求めているという自覚があるので、リンクする部分はあるでしょうね。だから旅人が描かれている曲に自然と心惹かれたり、そういう曲の主人公の気持ちを自分の声で表現したいという欲求が生まれたりするのかもしれないです。
小悪魔セクシーな女性を演じたい
──曲順に沿うと次の新曲は4曲目の「Catharsis」です。この曲は、雨宮さんとしては極めて珍しいラブソングですか?
ラブソングと解釈できる要素もあるかもしれませんけど、私はそういうつもりでは歌っていませんね。この曲の主人公は自由奔放に生きているだけなんですけど、そうすると勝手に男の人が寄ってきちゃうみたいなイメージで。
──ああー。
そういう意味では、そこには誰かへ向けた愛はなくて、強いて言えば自己愛があるだけだと私は思っていて。ただ、自分を愛して自分の好きなように振る舞っているけれど、どこか満たされない部分があって、それがDメロの「弱さという醜さを 見せてしまった日には どうせ貴方 面倒くさそうに 離れていくんでしょ」という歌詞に表れているんです。だから「Fluegel」の主人公が超然としていたのに対して、この「Catharsis」の主人公はすごく人間臭いんですよ。
──今おっしゃった「満たされない部分」って、雨宮さんにも共通するものですか?
ああ、そんな気はしますね。本当の意味で自分を肯定したい、自己承認欲求みたいなものは自分にもあるので。それが満たされる瞬間があったとしても、結局どこかで寂しさが残ってしまうというか。うん、そこは「Catharsis」の主人公に共感できるところではありますね。
──「Catharsis」はダンサブルで艶っぽいサウンドも耳を引きますが、この曲を選んだ決め手は?
「歌ったら楽しそう」というすごく安直な理由なんですけど、このサウンドを聴いたときに“小悪魔セクシー”な女性像がすぐに浮かんで。つまりセクシーだけどかわいくもある。そういうキャラクターを今まで曲で演じたことはなかったんですよ。やっぱり演じたことのないキャラクターはつい演じたくなってしまう性分なので。
──雨宮さんのセクシーな歌唱というと「irodori」(2017年7月発売の4thシングル表題曲)や「VIPER」(2019年7月発売の8thシングル表題曲)が思い浮かびますが、それらとは毛色が違いますね。
そうですね。雨宮天のセクシー曲というのはちょくちょくあるんですけど、「irodori」や「VIPER」にはかわいい要素は一切入れていなかったので。それに対して「Catharsis」の主人公は、年齢もちょっと若めのイメージで声色を作っていきました。
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攻撃の手を緩める気はないぞ
2020年9月8日更新