明るい曲の表現の仕方がわかってきた
──カップリングの「一番星」は、「Lilas」(2ndアルバム「The Only BLUE」収録曲)や「Song for」(7thシングル「Defiance」カップリング曲)路線の青春パンク的なナンバーです。またシングル「誓い」の話をすると、同作では表題曲「誓い」が雨宮さんにとっては異質な“光”のバラードだったから、カップリングで「いつもの私はこうです」と“闇”の「Abyss」をぶつけたと。
あっはっはっは(笑)。そうでしたね。
──しかし今回はカップリングの「一番星」も、表題曲と同様に非常にポップですね。
この5年間、ソロとしての活動以外にも、TrySailでの活動やアニメのキャラソンを通していろんな楽曲に触れる機会があって。そのおかげで、今はソロデビューした当時よりも明るい曲の表現の仕方がわかってきたし、今なら明るい曲もスコーンと迷いなく歌える気がしたんです。あと、やっぱりライブを想定したときに、何も考えずにみんなで盛り上がれるような曲があると、ライブ自体の幅も広がるし、お客さんと私で作る時間の充実度も一段上のレベルに持っていけるんじゃないかと思って、この曲を選びました。
──歌詞も難しいことは言っていないですね。ざっくり言うと少年時代の思い出を呼び覚ますような。
これは私から作家さんにお願いしたんですけど、「一番星」はわかりやすくポップな曲でありつつ、青春感を漂わせたかったんです。仮に、今後この曲をライブでたくさん歌って明るい曲として浸透したあと、例えばバラードバージョンにして披露する機会があったときに「ああ、この歌詞って、実は……」みたいにじんわり響いたら素敵だなって。なので「そういうイメージで歌詞を書いてください」と。
──すごいオーダーの仕方ですね。原曲のバラードバージョンを想定するって。
ついつい頭がライブのモードになっちゃって(笑)。
──僕は歌詞にも出てくる“秘密基地”を子供の頃に友達と作ったりしましたが、雨宮さんもそういう遊びをされました?
秘密基地と言えるほどではないんですけど、小学生のときはよく学校の体育館裏に仲よし数人で集まっては、粘土層まで土を掘って……。
──粘土層(笑)。
そこで取れた粘土でお団子を作ったりしていました(笑)。結局先生に怒られちゃうんですけど、そういう特別な、自分たちだけの場所みたいなワクワク感も歌詞から伝わってきますよね。
住み込みの家政婦を雇いたい
──「一番星」の雨宮さんの歌声もやんちゃというか、少年のようで。
うんうん。無邪気に歌いたいという気持ちはありましたね。でも、無邪気なんだけど、ちょっといたずらっぽくもあるというか……。
──悪ガキみたいな?
そうそう。邪気のない悪ガキですね。
──同じポップな曲でも「PARADOX」とは表情の付け方が全然違いますね。
どちらかというと「PARADOX」はアニメ的な乙女のかわいらしさに持っていきたくて。それに対して「一番星」は、歌詞の一人称は“僕”ですけど、女の子だとしたらおてんばで、媚びてない感じを出したかったんです。だから「PARADOX」とは打って変わって、声をスパーンと飛ばすようなイメージで歌いました。
──「一番星」の歌詞には「描いていた夢物語」「あの日の誓いは永遠に」といったフレーズが出てきますが、雨宮さんはそういうマインドを今でもお持ちですか?
持ってると思いますね。童心みたいなものは捨てずに済んでいるというか、多少は形を変えたりしているかもしれないけど、いつまでも自分の中にあるのかなと。やっぱり大人になるにつれて、いろいろとあきらめなくちゃいけないシーンも経験するうちに、いつしか現実的になって夢を描くのを忘れてしまう瞬間もあるじゃないですか。でも、この仕事をしていると何かしら夢を思い起こさせてくれる機会がちょこちょこあって、おかげで私の子供心はずっと輝き続けている気がします。
──今お話しできる夢ってあります?
話せる夢かあ……ええと、「住み込みの家政婦さんを雇う」とかですかね。
──そこ?(笑)
小さいですか? ちょっと現実的すぎちゃったかな。
──いや、家政婦を住まわせられるレベルの豪邸に住む必要があると考えれば小さくはないかと。家政婦を雇いたいのは、自分で家事をしたくないから?
そうです。お世話されたいんですよ。靴下も履かせてほしいし、歯磨きもしてくれたらうれしいし。
──家政婦ってそこまでやらなきゃいけないんですかね。
職務の範疇を超えてますかね(笑)。それをやってくれる人はなんと言うんでしょう?
──召し使い?
そっちか(笑)。いや、メイドさん? わからないけど、マンガとかだと手厚くお世話してくれるシーンがあるじゃないですか。ああいうのに憧れるんです。
裏切り続けられる自分でありたい
──先ほど「明るい曲の表現の仕方がわかってきた」とおっしゃいましたが、それは雨宮さんの武器がどんどん増えているということだと思うんです。
ああ、確かに。最初は粗末な装備だったけど、いろんな戦いや出会いを経て、より斬れ味の鋭い剣や魔法使いの杖とかもゲットして……ネットゲームみたいなイメージで話しちゃったんですけど、そういう実感はあります。
──デビュー当時、そういう自分の姿を想像できました?
いやあ、できなかったですね。本当に、当時とはいろんなことが大きく変わったんですよ。自分がこんなにも広くさまざまな意見や状況を受け入れられる人間になれるとは思っていなかったですし。その延長でポップな曲に対しても、無理して気持ちを込めるんじゃなくて、むしろ積極的に「こうしたい!」という欲が生まれるようになったんじゃないかな。そうやって前向きに表現していく自分の姿も、まったく想像していなかったですね。
──予想外の自分になるというのはとてもよいことだと思います。
そうですよね。「人って変われるんだなあ」って思いました(笑)。今までずっと閉じた世界にいたけど、どんどん世界が広がっている感じがします。
──そうなってくると、リスナーとしては次の手が読めなくなるというか。雨宮さんとしても、期待の裏切り方の手札が増えているのでは? 例えばここからまた闇の底に落っこちてもいいわけですし。
そう。自分でもこの先自分がどうなっていくのか、まったく予想がつかないんですよ。やっぱり新しい武器を手に入れたなら、その武器で戦ってみたいじゃないですか。
──試し斬りを。
そうそうそう。なおかつ声優の仕事で得たスキルも実戦で使いたいし。だからたぶん、今後もいい意味で皆さんを裏切っていくことになるというか、裏切り続けられる自分でありたいですね。
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よりクセの強いライブになる