メモリ8MBのMacが100万円した時代から
──ところで、ALI PROJECTの楽曲は打ち込みをベースに制作されていますが、デビューから25年の間に打ち込みの環境もずいぶん変わりましたよね。その変化とはどのように付き合ってこられたんですか?
片倉 まず1つは、予算との戦いですね(笑)。
──そのつど機材を買い換えていったと。
片倉 うん。最初、僕はヤマハのQX1(1984年に発売されたシーケンサー)を使ってたんですよ。こいつを2台シンクロさせて16trにしてたんだけど、16trじゃ間に合わないから、フロッピーディスクを入れ替えてトラックを追加させて。音色は、当時は誰でもそうだったんだけど、鍵盤を何台も積み上げて、音源モジュールもラックにたくさん収納してね。レコーディングのときはそれを全部持ってくわけです。
宝野 ああそうだね。大変だったよね。
片倉 で、80年代末にMacが出てきて、Visonというシーケンスソフトを使うようになったんですね。そのとき僕はMacintosh IIciっていうパソコンを買ったんだけど、当時100万円ぐらいしたんですよ。それでメモリが8MBだったから(笑)。
──当時はそうでしょうね(笑)。
片倉 だから外付けハードディスクが必要なんだけど、それも1GBで80万円だよ。そんな時代。
──今だったら3TBくらいあっても1万円切りますからね。
片倉 だからMacのテクノロジーの進化は、僕たちみたいなのが一所懸命お金を落とした結果なんですよ(笑)。ソフトはVisionから、1990年代の後半あたりにLogic Proに乗り換えて。そうするともうパソコン1つでだいたいのことはできるでしょ。だから昔を振り返ると、今はなんか楽すぎるっていうか。
ヒマだったから、細かいことをむちゃくちゃやってた
──でも今は当時よりも、頭の中で考えていた音が意のままに出せるようになったのでは?
片倉 もちろんそうなんですけど、当時のアナログ的な発想というのも大事で……音色にしても、1つひとつ一所懸命作るじゃないですか。そこに快感を覚えたりとか、作ってるうちにアイデアが増幅するようなことがあったんですよね。今はわりと「この音楽にはこれ」という音色なり弾き方なりが自分の中でマニュアル化されちゃってるというか、苦労しなくなったことで創造性が失われているような感覚があるんですよ。もちろん、失われないように注意はしてるんですけど。
──そのご苦労という点でいうと、それこそVisonの時代から、片倉さんはかなり緻密なオーケストレーションも打ち込みで作ってらっしゃいますよね。
片倉 めんどくさかったですね(笑)。例えば3連符だったら、人間が弾くと「タタタ、タタタ」って均等になるんじゃなくて、「ンタタ、ンタタ」ってちょっともたるとかね、そんなことをいちいち意識しながらやってたから。スネアを打つときでも、わざわざどこかでフラムを入れたりするんですよ。ちっちゃい音で。
──曲をお聴きして、きっとそういう細かいことをやってらっしゃるんだろうなと。
片倉 むちゃくちゃやってました。まあ、オタクだよね。
宝野 そうだよね。私は片倉さんが作業してるところはほぼ見てないんですけど、すごい時間かかってるのは知ってる。
片倉 以前はヒマだったから、納得いくまでやってたというのもあるしね。例えばある箇所の和声を変えたいと思ったら、その曲全体をいじらなくちゃいけなくなるんですけど、それも厭わずやってたね(笑)。
もともと歌もギターもヘタなバンドマンだった
──最初のほうで「ヒストリー的なお話も伺おうと思っていた」と言いましたが、それ、今お聞きしてもいいですか?
宝野&片倉 いいですよ。
──前回のインタビューで記事には入れませんでしたが、もともと宝野さんはニューウェイブが、片倉さんはグラムロックがお好きだったとおっしゃっていました。そこからどうやってアリプロの音楽ができあがっていったのかなと。
片倉 グラムロックというか、まあロック全般が好きだったんだけど、僕はもともとバンドでギターを弾いて歌ってたんです。でも、歌もギターもターヘーで(笑)。
宝野 音痴だったよね。
片倉 それでバンドがぶっ壊れちゃって、どうしようかと思ってたら、ある人に女の子のスリーピースバンドを紹介されて、「この子たちをバックに歌ったら、自分がヘタなのをごまかせるかもしれない」ってくだらないこと考えて。そしたら乗ってくるレコード会社が2つくらいあって、実際にスタジオで録ったんですよ。でも僕だけ落とされて(笑)。
──はっはっは(笑)。
宝野 片倉さんはナシで。
片倉 そう。そのあとにジャズとかいろんな音楽を勉強したんですけど、あるときね、僕は歌もギターも才能ないけど、作曲だったらけっこういい線いってるんじゃないかって思ったの。そこからリスタートして、そのうち宝野さんと出会ったっていう感じですかね。
宝野 そのときはテクノっぽい曲を作ってたよね。
片倉 そういうのもやってたね。打ち込みを始めたのもその頃。
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宝野アリカのブレなさが、アリプロの精神的支柱
- ALI PROJECT「血と蜜~Anthology of Gothic Lolita & Horror」
- 2017年6月21日発売 / Lantis
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[CD2枚組+Blu-ray]
4860円 / LACA-9514~5
- DISC 1
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- 私の薔薇を喰みなさい
- ALICE同罪イノセント
- ローズ家の双子達
- 百合の日々は追憶の中に潜み薫る
- 乙女の贖い
- 令嬢薔薇図鑑
- 薔薇美と百合寧の不思議なホテル
- Lolicate
- à la cuisine
- 少女と水蜜桃
- Royal Academy of Gothic Lolita
- 禁じられた遊び(strings Ver.)
- 聖少女領域(orchestra Ver.)
- 薔薇獄乙女(strings Ver.)
- Fräulein Rose
- 今宵、碧い森深く
- DISC 2
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- 凶夢伝染
- 雪華懺悔心中
- 夜見のたそがれの、うつろなる蒼き瞳の。
- 血の断章
- 六道輪廻サバイバル
- 禁書
- 少女蜜葬~Le sang et le miel
- 北京LOVERS
- 阿芙蓉寝台
- 蓮華幽恋
- 眼帯兎と包帯羊のMärchen
- 朗読する女中と小さな令嬢
- 女化生舞楽図
- 赤い蝋燭と金魚
- 秘密の花薗
- Blu-ray収録内容
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- 少女蜜葬~Le sang et le miel Music Clip
- Royal Academy of Gothic Lolita Music Clip
- 血と蜜~Anthology of Gothic Lolita & Horror -Shooting in France-
- ALI PROJECT TOUR 2017 血と蜜
~Gothic Lolita & Horror編 -
- 2017年6月25日(日)千葉県 舞浜アンフィシアター
- 2017年7月13日(木)愛知県 DIAMOND HALL
- 2017年7月14日(金)大阪府 なんばHatch
- ALI PROJECT(アリプロジェクト)
- ボーカルと作詞を務める宝野アリカと、作・編曲を担当する片倉三起也からなるユニット。1992年7月にALI PROJECTに改名しシングル「恋せよ乙女 -Love story of ZIPANG-」でメジャーデビューを果たす。官能的で妖艶なゴシック&ロリータの世界観と文学的な歌詞、現代音楽の影響も見られるサウンドで独自の音楽を追求し、コンスタントに作品を発表し続けている。ライブも精力的に行っており、「月光ソワレ」シリーズではオーケストラをバックに従えた幻想的なステージパフォーマンスが好評を博している。2017年3月には、独自のコンセプト“大和ロック”を追求したデビュー25周年記念シングル「卑弥呼外伝」を発表。6月にはベストアルバム「血と蜜~Anthology of Gothic Lolita & Horror」をリリースし、その後は千葉、名古屋、大阪の3都市を回るライブツアー「ALI PROJECT TOUR 2017 "GOTHIC Lolita & Horror" ver.」を行う。