作曲はロケーションと尺の都合ありき
──その新曲の作曲に関して、25周年記念シングルの「卑弥呼外伝」はずいぶん難産だったとおっしゃっていましたが(参照:ALI PROJECT「卑弥呼外伝」インタビュー)、今回の2曲はいかがでした?
片倉 今回はまず、新曲2曲のミュージックビデオをパリの南にあるフォンテーヌブロー宮殿っていうお城で撮影することがほぼ決まってたんですね。もう1つはね、そのMVの尺の都合で……。
宝野 あはは(笑)。
──そんな身も蓋もない話を(笑)。
宝野 1日で2曲分撮るということになって。
片倉 それで「3分くらいどうでしょうか?」って言われて悩んじゃって。
──「卑弥呼外伝」のときは「10分でも20分でも」よかったのに。
片倉 そうそう。まあ、最終的に4分以内に収まれば大丈夫だろうと踏んで。「Royal Academy of Gothic Lolita」はそれこそアカデミックな、例えば「音楽学校できちんと勉強してきましたよ」みたいなシンフォニックな曲にしようと思って。いわゆる“白アリ”に分類される、メジャーキー主体の……宝野さんがあんまり好きじゃない曲(笑)。
宝野 ふふ(笑)。
片倉 あるいは僕が好きな曲。あんまり考えすぎずに書いて、Aメロだけ転調したっていう。一方、ホラーの「少女蜜葬」はいわゆるデジロックなんですけど、最初は弦とか使うのはやめようと思ってたんですよ。でも結局、MVをお城で撮るって言うんでね。
宝野 MVは昼バージョンがロリータで、夜バージョンがホラーなんですよ。
片倉 だからイントロとアウトロはオーケストレーションにしてね。あと、普通のデジロックにしても面白くないから、大サビのところは美しいピアノを入れて、歌がより際立つようにアンビエント風にしてみたり。そんな曲です。
──アリプロらしい、エスニックな要素もありますよね。
片倉 そういうところもあるね。メロディも難しそうで実は簡単だし。
宝野 歌っててすごくいい感じでした。
エリートのロリータちゃんと、埋められて腐ってるけど生きてる死体
──両曲の歌詞はどのような着想から?
宝野 歌詞はね、やっぱりお城で撮るというのが決まっていたのでその雰囲気を出しつつ、「Royal Academy of Gothic Lolita」のほうは“ロリータちゃんの極み”みたいな感じにできたらいいなって。歌詞の最初に「階段のぼった日を」とあるんですけど、お城の正面に大きな階段があったんですよ。そこを登って学校みたいなところに入っていくようなイメージで。
片倉 ホグワーツ(「ハリー・ポッター」シリーズに登場する架空の魔法魔術学校)なんでしょ?
宝野 そうそう。1人ぼっちだったのに、ある日この王立ゴシックロリータ院から招待状が届いて、そこへ通うことになりましたっていう。「Royal Academy」っていう言葉が使いたくて。
──エリートのロリータっぽい感じもしますしね。
宝野 そうなんですよ。エリートじゃないと入れないんですよ。
──一方、ホラーの「少女蜜葬」は、ロリータちゃんとは打って変わって、歌詞の1行目から「腐る 薫る肉体は柩」って。
宝野 そう。腐りたいんですよ。腐ってるものこそいい匂いがするというか。
片倉 なんだよそれ(笑)。
宝野 埋められて、死んでも生きてるみたいな、そんなイメージ。常にそういうイメージってあるんですけど、それをお城の中で表現しようと。で、さっき片倉さんが言ったピアノの綺麗なパートは、「Royal Academy」のロリータちゃんに戻って歌ったらいいんじゃないかなって途中で思ったので、そういう歌詞にして、MVもそういう感じで撮りました。
──MVを撮影するお城ありきで、それをテーマにした作品を作る感覚ってことですよね。
宝野 そうね、うん。あのお城と、衣装があって。
「沈んでいく」曲順
──ベストアルバムに新曲を収録する場合って、だいたい最後にボーナストラック的に入れるか、あるいは頭に持ってくると思うのですが、今作では2曲共中盤に配置されています。しかも、全体の曲順もクロノジカルではなくて、かなり練られていますよね?
宝野 最初は「曲順どうしよ?」って感じだったけど、片倉さんが考えたよね。
片倉 僕がざっくり考えて、それを宝野さんがチェックして、また僕が微調整して……みたいなやりとりを4、5回やったね。
──その曲順がものすごく作用しているというか、例えばホラーの後半は、ずぶずぶ沈んでいく感じが妙に心地よいです。
宝野 そうそう。沈んでいく。ずっと聴いてると「やっぱり怖いなあ」って気がするというか、どっぷり浸かれる感じですね。最後の「秘密の花薗」(2011年発売の7thストリングスアルバム「Les Papillons」収録)で、間奏に笑い声が入ってるじゃないですか。あれがすっごい怖くて。
片倉 自分の笑い声じゃん。
宝野 うん、そうなんだけど(笑)。
──ロリータのほうも、クラシカルな「Royal Academy」から続くローゼン楽曲のストリングスバージョンの流れが非常に美しくて。
宝野 ありがとうございます。
──だから、新曲2曲をお城ありきで作られたという点も含めて、今作は「ベストアルバム」というよりは、既発曲で構成されたコンセプトアルバムといったほうがしっくりくるような。
片倉 完全にそうですね。ロリータとホラーっていう2つのコンセプトで。
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メモリ8MBのMacが100万円した時代から
- ALI PROJECT「血と蜜~Anthology of Gothic Lolita & Horror」
- 2017年6月21日発売 / Lantis
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[CD2枚組+Blu-ray]
4860円 / LACA-9514~5
- DISC 1
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- 私の薔薇を喰みなさい
- ALICE同罪イノセント
- ローズ家の双子達
- 百合の日々は追憶の中に潜み薫る
- 乙女の贖い
- 令嬢薔薇図鑑
- 薔薇美と百合寧の不思議なホテル
- Lolicate
- à la cuisine
- 少女と水蜜桃
- Royal Academy of Gothic Lolita
- 禁じられた遊び(strings Ver.)
- 聖少女領域(orchestra Ver.)
- 薔薇獄乙女(strings Ver.)
- Fräulein Rose
- 今宵、碧い森深く
- DISC 2
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- 凶夢伝染
- 雪華懺悔心中
- 夜見のたそがれの、うつろなる蒼き瞳の。
- 血の断章
- 六道輪廻サバイバル
- 禁書
- 少女蜜葬~Le sang et le miel
- 北京LOVERS
- 阿芙蓉寝台
- 蓮華幽恋
- 眼帯兎と包帯羊のMärchen
- 朗読する女中と小さな令嬢
- 女化生舞楽図
- 赤い蝋燭と金魚
- 秘密の花薗
- Blu-ray収録内容
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- 少女蜜葬~Le sang et le miel Music Clip
- Royal Academy of Gothic Lolita Music Clip
- 血と蜜~Anthology of Gothic Lolita & Horror -Shooting in France-
- ALI PROJECT TOUR 2017 血と蜜
~Gothic Lolita & Horror編 -
- 2017年6月25日(日)千葉県 舞浜アンフィシアター
- 2017年7月13日(木)愛知県 DIAMOND HALL
- 2017年7月14日(金)大阪府 なんばHatch
- ALI PROJECT(アリプロジェクト)
- ボーカルと作詞を務める宝野アリカと、作・編曲を担当する片倉三起也からなるユニット。1992年7月にALI PROJECTに改名しシングル「恋せよ乙女 -Love story of ZIPANG-」でメジャーデビューを果たす。官能的で妖艶なゴシック&ロリータの世界観と文学的な歌詞、現代音楽の影響も見られるサウンドで独自の音楽を追求し、コンスタントに作品を発表し続けている。ライブも精力的に行っており、「月光ソワレ」シリーズではオーケストラをバックに従えた幻想的なステージパフォーマンスが好評を博している。2017年3月には、独自のコンセプト“大和ロック”を追求したデビュー25周年記念シングル「卑弥呼外伝」を発表。6月にはベストアルバム「血と蜜~Anthology of Gothic Lolita & Horror」をリリースし、その後は千葉、名古屋、大阪の3都市を回るライブツアー「ALI PROJECT TOUR 2017 "GOTHIC Lolita & Horror" ver.」を行う。