宝野アリカの“使い減りしない声”

宝野　さっきも話しましたけど、そんなJAM Projectさんと同じ土俵で私が歌っても埋もれてしまうので、私はものすごく高いキーのスキャットを入れたら大丈夫かもって（笑）。

片倉　宝野の特色を出そうっていうことでね。アリプロの曲はいつもキーを高めに作るんですけど、この曲に限っては、もう初めから出ないこと見越して作ってたんです。でも、なんとか達成できた。

宝野　そう、高いファまで地声で。

片倉　高いファの地声と、その上のC#のファルセットは今まで出したことなかったんですよ。ちょっと心配してたんだけど、曲の構造上、音域を下げると今度は下が出ないってなっちゃうでしょ。それからJAM Projectさんのコーラスのこともあるので、これがギリギリの範囲だったんです。だから今回はわりと無理してやってみたところがあるんですけど。

──25年目で過去最高の高音が出るって、すごいですね。

宝野　でも、高いほうが出ますよ。むしろ低いほうが難しいです。昔は、高いほうは裏声でしか出なかったのが、今は地声でも出たりしますね。メロディにもよるんですけど。

──長いキャリアの中で、高い声を出すのが厳しくなってキーを下げるボーカリストもいるのに。

宝野　そんなことする必要ないですし、高いほうがホントに出ますよ。

片倉　宝野の声を聴いてて思うのは、変な言い方かもしれないけど、“使い減りしない声”なんじゃないかなって。

宝野　あんまり練習しないからじゃない？

片倉　そうそう。普段からね、ホントに練習しないんだもん。

──ははは（笑）。

片倉　普通の歌手はレコーディングの前に練習してくるのが基本だと思うんですけど、まったく練習してこないですからね。もちろん、歌詞を書きながら鼻歌くらいは歌ってるんでしょうけど。だから、どんな声で歌うかっていうのを現場で初めてエンジニアと決めていくんですよ。

──下書きなしで清書するみたいな。

片倉　小1時間くらいは練習するかな。それからすぐ本番で録っていくんで、だから使い減りしない。

──ペンで例えたら、まだインクがたくさん残ってるような状態？

宝野　それだ。そういう感じかも。カラオケとかも行かないですし。普段から“無駄に喉を使わない”という意識が常にあったりします。一方で、いまだにハスキーな声に憧れますけどね。

片倉　青江三奈さんとか？

宝野　そう。でも、出ない。坂本冬美さんみたいな声は出るけど、青江三奈さんは出ないなー。風邪引いて歌ったらもしかしたら近付けるかな、なんて思ったこともありましたけど（笑）。

アルバムを出さないことで「ネタ切れか？」みたいに思われたくない

──このシングルを皮切りに、25周年プロジェクトとしてまずベストアルバムのリリースが決定していますが、この「通過点」を経て、今後については？

宝野　今年はベスト盤を出しますけど、「オリジナルアルバムはどうしようかな？」みたいなことは漠然とは考えていますね。

──ホントに、毎年コンスタントに作り続けてらっしゃいますからね。

宝野　いきなり辞めるわけにもいかないし（笑）。それに、「今年はお休みか？」とか「そろそろネタ切れか？」みたいに思われるのイヤじゃない？

片倉　不仲説とか病気説とかね（笑）。まあ、年末ぐらいには……そうねえ、ヘビーなアルバムじゃなくて、たまには肩の力を抜いたアリプロもどうかなって。今までは、コンセプトアルバムばっかりだったでしょ。そうじゃなくて、アリプロ流のポップスとか、あるいはバラードとか、そういう口当たりのいいやつ。

宝野　えー、つまんないと思うな（笑）。

──アニバーサリーというおめでたいムードの中で、今ならある程度はワガママが通りそうな気もしますけど。

宝野　それはJAM Projectさんとの共演で十分すぎる。

片倉　徳間ジャパンのディレクターさんに、ちょっとオファーしているんですけど、演歌大御所の吉幾三さんと年末宴会ソング・デュエットとか。

宝野　えええー？

片倉　宝野さんには和装の麗人になってもらって。

宝野　私、ジャズが歌いたいんですけど。

片倉　ジャズかよー（笑）。とかね、あるジャンルに絞っても面白いんじゃないかと思います。まあ、ひとまずはこのシングルと、もうすぐ出るベストアルバム、そして6月にはライブもあるので、それを楽しんでもらえれば。