[Alexandros]が配信シングル「todayyyyy」を12月29日に配信リリースした。
[Alexandros]は7月にWurtSとのコラボ曲「VANILLA SKY(feat. WurtS)」を配信したものの、今年はここまでバンド単独での新曲をリリースしてこなかった。満を持して発表された新曲「todayyyyy」には、自由な発想で音楽を楽しむ今の[Alexandros]のモードが反映されている。
デビュー後初めて自分たちだけの新曲を年間1曲も出さなかったという[Alexandros]。彼らにとって2023年はどのような年だったのだろうか? 神奈川・相模原で主催フェス「[Alexandros] presents THIS FES '24 in Sagamihara」を行う来年への思いも含めて、じっくりと話を聞いた。
取材・文 / 小松香里撮影 / 伊藤元気
イントロが出てきたとき、風が吹いた感覚がありました
──新曲「todayyyyy」はどういうところから制作が始まったんでしょう?
川上洋平(Vo, G) 2023年はライブがすごく多かったんですが、水面下でずっと曲作りをしていて。この曲もそのうちの1曲ですね。時間があればとにかくスタジオに入っていました。4人全員がそろっているときもあれば、2人か3人のときもあったんですけど、この曲はみんなでジャムってるときにイントロができて。そのあと、俺とリアドが2人でいるときにサビやAメロができていきました。
リアド偉武(Dr) イントロが出てきたとき、なんだか風が吹いた感覚がありました。歌詞にも「太刀風」という言葉が出てきますけど(笑)。
川上 リアド、「いい!」って言ってたよね。
リアド うん、その瞬間のことはすごく印象に残ってますね。いい未来が見えました。
──磯部さんは今回のレコーディングで初めてシンセベースを弾いたそうですね。
磯部寛之(B, Cho) 途中までは普通にベースでフレーズを弾いてたんですけど、鍵盤で弾いてみたら、「それをシンセベースでやっちゃえばいいじゃん」という話になって。弾いたことないけど、やってみました。ベースでは絶対に出ないロー感がありつつ、独特のちょっと洗練された感じもあって楽しかったですね。シンセベースが入ることによって、上モノのシンセとギターのバランスも変わって。ライブ用に鍵盤も買ったので、ライブで弾くのが楽しみです。
川上 結果的にみんなでああでもないこうでもないと言いながらセッションしながら作れたのが大きいと思います。以前は曲ができたらわりとすぐにリリースしてましたけど、今回は70%ぐらいまで完成したら、無理に作り上げるんじゃなくて少し寝かしておいて、そのあと50%まで戻してみたり、けっこう遊んでるんですよね。今はとりあえず種を作って、そこからいろいろ自由にやってみるという作り方をしています。
今は「誰かになりたい」と思わなくなりました
──結果的に「todayyyyy」は疾走感のあるサウンドと甘酸っぱいメロディのバランスが絶妙ですし、アレンジがすごく新鮮ですが、それは今話してくれた作り方が大きかったんでしょうか?
川上 そうですね。あと、ひさびさの対バンツアーがあったことと、いろいろなアーティストのライブを今年観に行ったことも大きいと思います。海外のアーティストのライブもめちゃくちゃ行きました。この曲に生かされているかはわからないけど、特にWet LegとFontaines D.C.にはかなり刺激を受けました。フィービー・ブリジャーズもよかったし、自分たちが出演した「サマソニ」(「SUMMER SONIC」)でもできるだけライブを観て、その中でもBlurが最高だった。俺がニューヨークでPretty SickやLCD Soundsystemを観てるときに、ヒロ(磯部)は日本でArctic Monkeysを観てたりして。そういう中で、自分たちがいいと思うものをもっとじっくり追求しようというムードが高まっていきました。
白井眞輝(G) 僕もスティングを観に行ったりしましたね。「サマソニ」でもいろいろ観て、特にサンダーキャットがよかったです。
川上 俺の中で2023年一番うれしかった出来事は、4人でMen I Trustを観に行ったことですね。
磯部 いいライブだったね。
川上 いいライブだったし、4人であの空間を共有できたのがうれしかった。この年齢になって、メンバー全員でチケットを買ってライブに行くことってなかなかないと思うんですよね。チケットの席がバラバラだったから、じゃんけんで席を決めました(笑)。ライブ後は感想を言い合って、翌日はみんなでMen I Trustをカバーしました。俺、初めてベースをやりましたよ。ライブを観ていて「このベース、コピーしたいな」と思って。
──すごくいい思い出じゃないですか。
川上 でもやっぱりそこで、ほかのアーティストから影響を受けた曲を、あえてすぐにリリースしなかったのがよかったと思います。別に影響を受けた曲を出すことは悪いことではないと思いますが、じっくり試行錯誤して、噛み砕きたかったんです。
白井 「todayyyyy」も最初は自分たちらしい往年のロックな感じだったんですけど、アレンジを練っていくうちに、だんだん最近観たライブの影響が出てきて。最終的にはこれまでにないものができたと思います。
磯部 サビの音がすごく耳に飛び込んでくるよね。まーくん(白井)が今言ったみたいに、最初は「打ち込みとかいらないんじゃないか」というぐらいのロックなアレンジで、「初期衝動の再来!」みたいな感じだったんですが、熱量はそのままで、シンベが入ったりしてどんどん洗練されていきました。アレンジを大幅に変えてもメロディが揺らがないのは昔からの我々の最大の武器ですが、今回もそこが生きたと思います。
──まさに洗練されていると思いました。
磯部 “進化版初期衝動”みたいな感じですかね。
白井 昔のほうが「音楽はこうであるべき」という固定観念が強かった気がします。それが年々だんだんほぐれていってる。だからこそ、ほかのアーティストのライブを観ても、素直に「いいな」と思って、自分たちの制作に反映されるんだと思います。例えば、高校生の頃は「浅井健一さんやチバユウスケさんみたいになりたい。ああいう人たちこそロックなんだ」と思っていましたけど、今は「誰かになりたい」と思わなくなりました。いい音楽ならなんでもよくて、全部を取り込みたいという気持ちがあります。
川上 今回お願いしたエンジニアさんがすごく面白い人で。ディスカッションしながらいろいろな音楽をリファレンスとして聴いて、「ここまでやったらまんまですよね」と言ったら、「いや、どれだけ真似しようが[Alexandros]は[Alexandros]だから大丈夫」「どんなアーティストだってそうだから、悩まなくていい。曲も違うしプレイヤーも違うし、そもそもみんなスタート地点が違うから」と返されたんです。そういう意味では、メンバーそれぞれがいろいろな音楽を吸収して昇華すれば、絶対自分たちの音楽になる。悪く言うと自分たちから抜け出せないんだけど、だからこそどんどん影響を受けていいのかなって。「自分はこういう音楽が好きだから、これしか聴かない」というのはもったいないですよね。俺もOasisが好きだと思われてますけど、もはやOasisの曲は聴かないですし。
──原点ではあるけれど、そこからまた進化して、新しいところに行こうとしているという。
川上 そう。Oasisは俺の血となり骨となり肉となり、みたいなものでずっと自分の中に流れているから聴く必要はない。違うところに行くには、いろんな人の音楽を吸収して、また新しいものになっていくことが必要なんだなとだいぶ前から思ってます。ここ1年ぐらいで曲作りが好きになったんですよね。昔はライブをやることが突出して好きだったんですけど、最近は「早くスタジオに入ってみんなで曲作りしたいな」という気持ちになることが多くなりました。
「早く夢から覚めて」ということを伝えています
──1年半前にリリースされたアルバム「But wait. Cats?」もセッションで作った曲が多くて、そのアルバムの制作もすごく楽しそうでしたよね。
川上 前作はプロデューサーに何人か参加してもらっていて、それがすごく勉強になりました。でも、最近はうちらだけで作ってるんです。次のアルバムは、前作で学んだことを生かして自分たちで作る作品になると思います。制作する中で、バラバラだった価値観がどんどん合ってきているのがバンドの面白さだなと思いました。ただ、ロックバンドはどこかずれてるのもいいんですよ。完璧じゃないところが完璧というか。観に行ったライブで「声枯れてるな」「ドラムよれてるな」「ギターソロとちったな」と感じると俺は逆に燃えるんです。この前観に行ったMåneskinのライブでも、MCでボーカルのダミアーノ(・ダヴィド)が、「ごめん、今日は声がちょっと枯れてるんだよね」と言っていて。俺はMåneskinのライブを初めて観たから彼の100%は知らないけれど、「枯れてて全然いいじゃん」と思った。ロックバンドにとって大事なのは、自分たちが楽しいかどうか。自分たちが楽しくて、もしお客さんが楽しめてなかったとしても、「うちらとは合わなくて残念だね」と言えるのがロックバンドなんだと思う。夢を売るアーティストもいて、それはそれでいいと思うんですが、うちらは夢を壊すバンドでもあると思う。「君たちは幻想を抱いているかもしれないけれど、うちらは現実を伝えます」という。無理やり新曲につなげるわけじゃないですけど(笑)、そういうことを「todayyyyy」の歌詞に書いてます。
──まさにそういう歌詞だと捉えています。“なんとなく生きている感覚”について歌っていますよね。「なんとなく夢を追いかけたり、日々を過ごしているだけじゃダメだよ」という。
川上 エレクトリカルパレードみたいな楽しげな雰囲気もある曲だけど、歌詞はかなり現実的。「早く夢から覚めて」ということを伝えています。僕は10代がメインのリスナー層の「SCHOOL OF LOCK!」というラジオ番組のレギュラーMCを担当したり、「18祭」(17歳から20歳までの“18歳世代”を対象としたNHK主催のイベント)をやったこともありますが、10代のリスナーから「この人に憧れてます」とか「こういうふうになりたいです」というメッセージをもらうことが多いんです。俺もそういう気持ちを持っていたからすごく共感するし、応援したい気持ちもあるんだけど、夢って持ち続けているだけじゃなくて、つかまなきゃダメじゃない? つかめないと思ったらあきらめるのも正解だよねというところまで、俺は言いたい。それは自分に対しても思っていて、そういう気持ちがサビの歌詞に表れてると思います。昔はわりと自分の気持ちをとっ散らかったまま歌詞に出していて、それはそれでよかったんだけど、去年「余拍」というエッセイ集を出したことで整理しながら書けるようになりましたね。今まで言い表せてなかったことを放出できるようになった自負があります。あと、僕はあまり誰かと飲みに行ったりしゃべったりしなくて、メンバーとばっかりしゃべってるところがあるので(笑)、歌詞にメンバーとの会話が何気なく反映されてるところはあると思います。
──メンバーと一緒にライブにも行きますし。
川上 (笑)。「仲いいね」って言われたらそうなんでしょうけど。例えば、まーくんとは高校生からの付き合いで、「昔こんなこと言ってたな」と思い出しながら歌詞を書いたりしますし。
──10年以上のキャリアがある中で、歌詞にしてもアレンジにしてもどんどんバンド感が高まってる感じがあるのが面白いですね。
川上 そうですね。今回の制作は、曲作りの場で歌詞を7割ぐらいまで書いているんですよ。メロディができたときに、歌詞も付随していて。その歌詞に意味がなかったとしても、たぶん正解なんです。というか、自分が納得してるんだったら、文法が間違っていても、意味をなしてなくてもいい。それを補ってくれるのが音楽だと思うんです。“詩”じゃなくて“歌詞”なわけだから。それで、みんなと作ってるときに出てきた歌詞をあまり変えすぎずに進めています。昔は曲ができたあとに歌詞を書くことが多かったですけど。
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リリース時期に縛られずに、自由に作りたい